第33話
「幻影魔法ですか?それは相手に幻影を見せるっていう魔法ですよね、多分使えますね。」
シバは学院にいた頃極端に少ない魔力を知識で補おうと図書館で魔法の書物にかぶりつくようにそれらを読み漁っていたのですぐに理解できた。
「なら、あの少年が死んだようにレオポルドに幻影を見せればあいつもきっと帰るはずだよ。シバが幻影魔法、私は他の亜人に念話で事の次第を伝えるから。」
「了解しました、なんか、マーニさんには敵いませんね。」
「そりゃ、お姉さん、だからね、」
マーニはウィンクし二人は行動に移った。
シバは頭の中でレオポルドに見せる幻影を思い描いた。磔にされた少年の全身に赤い鞭の痕がいくつも残り所々出血している。少年には申し訳ないと思いつつ少年の呼吸と心臓の拍動を止まるように描く。思い描いた幻影に隠蔽魔法を付与することで不自然にならないように加工し少年が磔にされている丘に向けて放った。
「右ぃ!左ぃ!ハハッ!ハハハハハッ!ハハハ!ってあれ、動きませんねぇ、呼吸も停止、心臓も停止、どうやら殺してしまいましたぁ。エルゴドーティス君、どうしましょうかぁ。」
「やっぱり殺しちゃったんですね、前にもありましたよ。まあ、どうせ後で殺すことになりそうだったので問題ないでしょう、価値のないゴミでしたから。」
「エルゴドーティス君、ゴミに初めから価値なんてないですよぉ。今日は中々楽しめましたよぉ、皆さん彼のようになりたくなければ仕事にいそしんでくださいねぇ、うっかり殺してしまいますからぁ。」
「おら!仕事に戻れ!その利用価値のないゴミも処分しとけ!」
マーニの念話によりこの状況がわかっているのでそれなりに亜人たちは悟られないように行動した。それでもレオポルドの狂気性は恐ろしいものだったようだ。
レオポルドとエルゴドーティスが地下を後にするとシバとマーニは少年の介抱に向かった。シバの治癒魔法で手足を切り落とされた亜人たちの手当てもした。首輪で管理されているので手足を再生させることはできなかったが痛みや傷口をきれいに処置してあげた。
少年の父親は何度も何度も頭を下げ感謝していた。マーニとベルカはよくこの地下に来ているらしく亜人たちとの関係は良好のようである。
「だから、念話がちゃんと伝わったんですね。」
「まあね、私とベルカで冒険者として得た報酬と宿屋の売り上げを彼らに寄付しているんだよ、」
地下を後にしたレオポルドたちは中心地区で酒屋に入っていった。その酒屋は彼らの行きつけの店らしく店主とも酒を交わしエルゴドーティスが酔いつぶれたところでお開きとなった。
レオポルドは店主にエルゴドーティスを任せ一人酒屋を出て行った。酒屋の入り口が見えるところで待機していたマーニとシバはレオポルドの気づかれないように後を追った。
レオポルドは静まりかえった都市を一人歩いていた。シバたちも一定の距離で尾行を続けた。するとレオポルドが店と店の間の細い路地を曲がった。
シバは急いでその路地を曲がって後を追ったがレオポルドの姿は見えなくなっていた。だがすぐにレオポルドの気配を背中に感じた。
「先ほどから後をつけているようですがいったい何の用ですかぁ?」
レオポルドが陽気に話しかけるがその手には先のとがった針が握られておりシバのうなじに当てられていた。
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