第32話
蹴り飛ばされたことによる痛みで足が震えるだけでなく恐怖心からも足が震えてしまう。近づく男の後方には腕を切り落とされさらに踏みつけられた父親が横たわっている。
この時幼いなりにも彼は自分の立場を理解した。奴隷商人と奴隷という難しい言葉はわからない、ただ強い者と弱い者の関係。自分は後者であると。弱者は強者の言いなりになって生活していくしかない、逆らえば自分が傷つく、周りの者も傷つけられる、この世界の仕組みをようやく理解した。
「おやぁ、勇敢にも立ち上がりましたがどうやらようやく自分の立場を理解したようですねぇ。ゴミ以下からゴミに昇格できてよかったですねぇ。まあ、結局痛めつけるんですけどねぇ。」
レオポルドは少年に手を向け魔法陣を展開した。すると少年の周りの地面が液状化したかのように柔らかく波打ち始め少年を飲み込んだ。やがて地面は変形していき丘のように盛り上がると上部から少年が十字架に磔にされるような形で両手両足を埋められたまま出てきた。グニャグニャと変形した地面は固まり少年は身動きができなくなった。
「さて、お仕置きの時間ですよぉ、エルゴドーティス君、仕事をしている者たちをここに集めてください。見世物にでもしましょう。」
「レオポルドさんの方がよっぽど物騒じゃないですか。」
へらへら笑いながらエルゴドーティスは少年を磔にしている丘を囲うように他の亜人を集めた。
「皆さん!これから始めるのは立派なしつけです、主人の命令を守れない者はゴミ以下ですよぉ!この少年のようになりたくなかったら今後は自分の立場をわきまえ節度ある行動を心掛けましょうねぇ!」
同時にレオポルドは勢いよく少年を鞭で打ちつけた。さらに続けて右左と連続で打ち付ける。バチンッ!という音が地下に鳴り響いた。地下という閉鎖された空間の中で鞭で打つ音と少年の叫びとレオポルドの高く奇声とも思える笑い声が相まって反響する。周りの亜人たちも耳を塞ぎ、目を伏せただじっと時が過ぎるのを待つだけだった。
「マーニさん、俺もう我慢できません!」
「待つんだ、シバ!」
「こんなの見てろって方がおかしいですよ!」
「よく考えるんだ!普段の君なら今出て行っても逆効果だって簡単にわかるでしょ!落ち着いて!」
我慢の限界に達したシバが飛び出すのを必死に抑えるマーニであったがマーニも気持ちはシバと同じであるがやはりシバよりも大人であった。
「クズがっ!殺す!」
「落ち着きなさい!」
パチンッ!
マーニがシバの頬をはたいた。頬をはたかれ我に返るシバ。マーニの表情に怒りは見えなかった。むしろ優しいお姉さんそのものだった。マーニははたかれた頬に手を当てるシバの手に自分の手を重ねコツンとおでことおでこを合わせた。
「ごめんね、ひっぱたいたりして、私だってシバと気持ちは一緒だよ。でも、よく考えて、今シバが出て行ったらどうなるかな?」
「俺が出て行ったら、、レオポルドは死ぬ、」
「そうかもね、シバは強いから。”強くなった”から。でもさ、周りの亜人全員を人質に取られたらどうするの?」
「あ、、」
「ね、それにあの首輪はどんな機能があるかわからないんだよ?いつものシバなら簡単にわかることでしょ?」
「マーニさん、ごめんなさい、自分を抑えられなくなってしまって、」
「ううん、誰かを助けたい、誰かのために怒れるのはすごく大事なことだから、その気持ちを捨てちゃだめだよ、反省すれば良し、じゃ、彼らを助けに行こうか、」
「助けるって、どうするんですか?言ってること矛盾してるじゃないですか、」
「誰も助けないとは言ってないでしょ、幻影魔法知ってる?」
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