第31話

 周りの亜人たちにとって目の前の光景は初めてだった。普段は一人ずつエルゴドーティスに切り落とされているからだ。しかし今回は一気に20人の手足が切られたのだ。彼らの周りには切り落とされた腕や脚が無残にも転がっていた。切り口からは大量の血が噴き出し激痛に身悶えているため辺りに血がまき散らされていた。


「おら!他の奴らは自分の仕事にかかれ!」

 

 周りの亜人が申し訳なさそうに自分の仕事に戻ろうとする中で一人の少年が激痛に苦しむ男性の側に駆け寄った。歳はおそらくフォニアと変わらないぐらいであろう。

 

「お父さん!」


「まずい!」

 

 マーニが父親に駆け寄る少年を見ながら言った。その様子から焦燥していることがうかがえる。


「お父さん!お父さん!」

 

「だ、だめだ、も、戻りなさい、でないと、お、おまえが、、があああああ!」

 

 その男性は他の亜人よりもさらに絶叫した。

 

「仕事のできないゴミの子は主人の命令を聞けないゴミ、まさに蛙の子は蛙ですねぇ、」

 

 レオポルドが横たわる父親の亜人を踏みつける。切り落とされた右ひじの切り口を地面に擦り付けるように踏まれさらに血が飛び出る。

 

「やめて!これ以上お父さんを傷つけないで!足をどけて!」

 

 息子が父親の傷口を踏みつけるレオポルドの足にしがみつきどけようとする。

 

「ぼうや、だめですよぉ、戻りなさいってエルゴドーティス君に言われたでしょう?主人の命令を守れないのはゴミ以下ですよぉ、」

 

 足にしがみつく少年を蹴飛ばし振りほどく。体の軽さゆえにそのまま吹き飛ばされる。

 

「や、止めてください、む、息子だけは、まだ子供ですから何もわかっていないんです、私が代わりに罰を受けますから、どうか息子だけは、、」

 

 父親が激痛に苦しみながらも自分の息子を庇おうとする。だがレオポルドは父親を一瞥したのみですぐに狙いを少年に定める。

 

「小さいころからきちんと教育しないといつまでたってもただのゴミ以下のままなんですよぉ。だからきちんとしつけをしてこなかった親であるあなたが悪いんですけどね、あなたも自分のノルマもあるでしょうし奴隷商である私の責任ということで今回は私がしつけをしますぅ。」

 

 ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ蹴り飛ばした少年の下に歩み寄る。そして腰に下げていた鞭を手に取り地面に打ち付けた。蹴り飛ばされた少年は体に擦り傷がいくつも見られ痛みと戦いながらもヨロヨロと起き上がった。


 しかし、鞭を振るわせながら歩み寄る男の表情は薄暗い地下の中で少ない照明がモノクルに反射し見えない。ただ、気味悪い笑みだけがはっきりと見えるだけであったがその男が近づいてくるということだけでも一度立ち上がった少年に恐怖を与えるには十分すぎるくらいであった。


 

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