第22話
私は魔族である。人間に騙され村が襲われた。今でも奴らの私利私欲に満ち溢れた下卑た笑いが記憶に鮮明に残る。村の皆の仇で魔法学院を襲撃したが敵わなかった。五人の連携した接近戦など成す術もなかった。
自分だけが生き残ったのは何か理由がある、そう自分に言い聞かせて皆の仇をとりに行った。けれどダメだった。人間と魔族は互いに争いあうのだと痛感した。全身が痛い、視界がぼやける、意識がだんだん遠のいていく。あぁ、自分は死ぬのか、そう思った。何もできずにただ殺されるのか。悔しさが残る。しかしもうどうすることもできない。次第に視界が青くなっていく。
だが突然目の前に人間の少年がやって来た。私に背を向けているが不思議と彼の背中を見ると安心できた。それから先のことは記憶にない。そのまま気絶したのだろう。が目を覚ますと目の前には何とも言えない光景が目に映っていた。
眠たそうに瞼が降りている目の女性が正座させている“彼”に淡々と話している。彼は叱られた子供のような様子だったので怒られているんだと理解した。そしてなぜか隣のベッドには亜人の少女が膝を抱えてちょこんと座っていた。見たところ表情は暗く今にも泣きだしそうなのを我慢しているようだが訳ありな様子だ。
カオス、この状況をあえて言葉にするならこの一言に尽きるだろう。今起きたのがばれたらきっと巻き込まれる。もう少し寝たふりをして何とかやり過ごそう。そう思った矢先に“彼”に声をかけられた。
俺はシバ・イクディキシ、今はユウ・ディクイシか。一応人間と魔族のハーフになったらしい。朝、目を覚ますとアイが仁王立ちしていた。表情は相変わらずで瞼が降り眠たそうな目をしたまま俺を見つめていた。「おはよう」と声をかけようとしたが途中で「黙って。」と遮られた。なぜかその言葉には棘があるような氷のように冷たいような、とにかくこれはめちゃくちゃ怒ってる。だって子供の時姉さんに怒られた時と雰囲気とか「黙って。」とか全く同じだし。やっぱりアイが姉さんだったんだと改めて実感した。
けど俺何かしたかな、今回は全く自覚がない。アイの凍り付くような雰囲気の中で俺は右手に何か違和感があった。すべすべとした肌触り、そして指を吸い込むかのような弾力、柔らかい、ん?んんんー?なぜだろうか、冷や汗が尋常じゃないほど出てくる。俺は恐る恐る右手に注目した。案の定、そこには裸の赤髪の魔族の女が眠っていた。
オーケー、ここはクールにいこう。あ、なるほどね、死刑?
誤解を解かなくては、マジで殺されかねない、俺もだし、この女も。
「あn」
「黙って。」
終わった、弁解の余地なし。さらにアイの凍てつくような声が聞こえる。
「、、、正座。」
俺は言われた通り床に正座をした。この後は言うまでもなくアイの、アイによる、アイのための尋問が始まった。
「、、、シバ、どういうこと?」
「おい、起きてるならこの状況を何とかしてくれ。」
「、、、」
「、、おい、」
「、、、」
「、、、いやマジで、」
「、、、」
「、、、あなたも、話がある。」
アイの凍るような声で観念したのか魔族の女はもぞもぞとベッドから身を乗り出した。それを見たシバは物凄い勢いで首を90度曲げ視線を逸らした。顔が若干赤いようにも見える。シバの反応を見て部屋の体感温度が一気に下がったように感じるシバと魔族の女であった。
「、、、シバ、説明。」
ごくりと生唾を飲み込みシバは答える。
「説明も何もさっき言ったとおりだ、俺は何もしてない。無実だ。」
「、、、ほんと?」
今度は魔族の女に話が振られる。
「そ、そうね、私たちは別に何もないわよ、」
「、、、けれど、服を着ていない。早く隠して。イライラする。」
アイは魔族の女の豊満な双丘を見つめながら言った。アイの言葉と視線で魔族の女は自分が裸であることを、先ほどのシバの反応を理解した。ふるふると赤面しながらベッドのシーツで体を覆う。
「、、見た?」
魔族の女がシバに尋ねる。
「い、いやー、見たって、な、なにを?」
「、、、シバ、正直に言わないとお仕置き。」
アイは指先に黒い小さな球体を生成させた。その球体はピリッと放電している。
「アイさんや、それは何ですかね?」
「、、、物凄い硬い金属を圧縮してさらに強化魔法を付与したらなぜか電気も帯びた。」
「そのようなものを作ってどうするんですか?」
「、、、質問に答えて。」
「質問しているのは僕なんですけど。」
「、、、正直に答えないとお仕置き。」
「、、はい、見ました。少し。」
「、、、ほんと?嘘ではない?」
「、、はい、」
「はぁぁ!?見たのね!」
魔族の女はさらに顔を真っ赤にした。アイはというと、ゆっくり指先をシバに向け指を折った。デコピンの要領で小さな、そして強力な球体を弾いた。
バシュッ、ビリビリッ、ビリッ、
物凄い勢いでシバに向かって加速する。ほぼゼロ距離だったので加速という表現はいささかおかしいのだがとにかくシバに向け弾かれたのは確かである。
シバはとっさに防壁を展開し直撃は免れたものの衝撃は体の芯まで届いた。
「正直に答えたろ!?」
「、、、それでも見た。」
「どっちにしろ撃たれるのは確定だったってことか。」
「、、、お仕置き。」
「あのなぁ、ほんとに何もなかったんだって。こいつが裸なのは俺が聞きたいわ。」
「、、、どうして裸?自慢?」
魔族の女はアイに質問される。この時魔族の女は頭をフル回転させ最良の答えを導きだそうとしていた。シバはすぐに防壁を展開できていたが正直球体が弾かれたのは見えなかったし自分には無理だと早々にあきらめ答えを探す。
生まれて初めてのプレッシャーの中間違いが許されない解を導き出すという現状に心臓の鼓動が徐々に早くなる。鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思うほど大きくなったところで単純な解がはじき出される。
「暑かったから。」
アイは沈黙した。沈黙が長い。
「、、、なぜ暑くなったの?」
「最初は痛かったけどだんだん気持ちよくなってきて気持ちいのが収まったらなんか暑くなって服を脱いだのよ。」
(おい、おいおいおい、その言い方はちょっとどころの問題じゃないぞ、、)
「、、、」
アイが沈黙した。
(あ、死んだ、マジで死刑だわ、)
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