第19話
講堂の天井を支える柱がミシミシと軋み次第にカラカラと講堂全体が小刻みに揺れる。アイたちへの誹謗中傷は止まり生徒たちが床にしがみつく。シバの放った圧力が空気を伝って講堂を揺すった。
当然二階の生徒や正面の教官たちにもシバの放つ殺気立った圧力がビリビリと伝わる。シバの体には黒いオーラが纏いバチッ、バチッと放電するように所々オーラが飛び出る。
魔法士たちがシバを抑え込むように飛び掛かったがシバが一層オーラを強くしその風圧で吹き飛ばされる。
ガラガラと音を立て天井が崩れかけそうになったがアイがクイッとシバの袖を引っ張る。
「、、、シバ、私のためにありがとう。けれどもう大丈夫。」
シバはオーラを消しアイの頬に手を添え頷いた。
「、こ、こいつも化け物だ!亜人も魔族も全員殺せ!」
「そ、そうだ!洗脳とか関係なく俺たち人間の敵だ!」
恐怖からか再びシバたちへ非難が浴びせられる。
カンッ! カンッ!
木槌が二回強く叩かれた。皆静まり返る。
コンッ
学院長が冷徹な表情で座ったまま杖で床を叩いた。直後赤い鮮血が勢いよく垂直に噴き出た。
シバの後方で亜人の母親の首が飛んだ。シバはドサッと床に落ちる音で初めて何が起きたのか理解した。
コンッ
再び学院長が杖で床を叩く。いち早く行動に移ったのはアイだ。しかし、それよりも早く母親の亡骸の傍らにいる小さな男の子の体が弾けた。辺りに肉片が飛び散る。アイは娘を抱えアイの次に動いたシバと共に講堂の中央から後方に下がった。
「な、なにをしている!?貴様、!どこまで汚れているんだ!人間は!」
魔族の女が糾弾する。しかし、学院長は答えない。学院長の代わりにパレク教官が動いた。
「、、だまれ、」
その声で後方に下がったシバとアイは中央へ目を向けるがすでに遅かった。彼らの目に映る光景はパレク教官に胸を貫かれた魔族の女の姿だった。
「ごほぁ!」
吐血し口から顎へ黒い血が滴り落ちた。パレク教官の魔力で鋭く強化された手刀が魔族の女の腹部を貫いている。その顔はいつぞやの時のような鬼気迫るものではなかった。無。感情の読めない凍り付いたような表情。かえってそれが恐ろしいほど冷徹さを感じさせる。
魔族の女の体は教官の腕が刺さったまま宙に浮いている。腹部から大量の黒血が流れ出る。脚を伝い床には黒い液体が広がる。
パレク教官は腕を引き抜き無言で教官たちのもとへ戻る。付いた血を払い落すように斜め下に腕を振る。半円状に床に黒い血液が飛び散った。
シバが横たわる魔族の女に駆け寄り背中に腕を回し胴体を支え、膝の下に腕を入れて足を支え横向きに抱きかかえる。先ほどの戦闘で受けた傷もさらに広がっている。もはや自己再生では追い付かないほどの大怪我だ。
シバは傷口に治癒魔法をかけた。この際自分の魔力が増大していることに大変ありがたみを感じた。だがなかなか出血が治まらない。この場にいては危険すぎると思い後方へ移動し天井に向け魔弾を放った。
意識を失った深手の赤髪の魔族の女と目の前で家族が殺された亜人の少女を何とかしてこの場から遠ざけることが最優先事項だった。アイもそれを理解して亜人の少女を抱える。
「教官、あなたはいつも勝手に俺のことを解釈してきました。俺は、この学院、国に復讐するために強くなる。だからあなたとは敵として次は会うことになるでしょう。」
シバはパレク教官と、そしてこの魔法学院や国とこの先は敵であることを伝える。
「おい!てめえ何言ってやがんだ!」
「そうだ、いくら強くなるって言ったからって国を相手に復讐なんてできるわけないだろう!」
「そこの魔族に洗脳されてるだけの無能のくせに!」
講堂の一階にいたシバのクラスメイトや二階の生徒たちがまたもシバへ非難を浴びせる。
直後クラスの連中が勢いよく吹き飛び壁にめり込む。アイの腕が前に振り下ろされた。アイは無表情ではあるがアイを取り巻くオーラは殺気立ちその瞳には明確な殺意があった。
「、、、いい加減にして。シバをさんざん傷つけた。殺す。」
アイの殺気に凍り付いたように黙り込む生徒たち。
「アイ、行くぞ。こいつの手当てが先だ。」
「、、、一瞬で殺せる。」
「分かってるが、そしたらまたこの場で戦闘になるぞ、負傷者と子供抱えながら分が悪い。
「、、、わかった。けれど、、」
壁からずり落ちたクラスの連中のもとへアイが一瞬で移動した。アイのオーラは先ほどよりも殺気立っている。
「、、、次はない。」
アイの言葉が彼らに突き刺されように放たれ全身が硬直する。彼女の姿はまさしく暴虐の”魔王”そのものだった。
シバはオーラで背中に翼を作り、アイも翼をを出した。二人は跳躍し天井付近で一度静止した。
「俺の父さんと母さんに罪を擦り付け殺したお前ら学院や国を潰す!お前らが魔族を滅亡させると言うなら俺はお前らのような汚い人間を殲滅する。」
そう言うと二人は飛んでいき講堂を後にした。
キャリアはただシバを見つめることしかできなかった。再び自分は彼のために何もできずにいることを痛感するのであった。
教官はシバではなく隣のアイに鋭い視線を向けていた。強く握りしめた拳からは血が流れだしていた。
「あの、魔族必ず殺す。シバの本心はわかったがあの魔族は絶対に私が殺す!」
誰にも聞こえないくらい小さな声でパレク教官は呟いたが彼女からは殺伐とした雰囲気があふれ出ていた。
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