第16話
正面からショートカットの女性魔法士が体をこするようにしてまっすぐ上段へ正拳突きを繰り出す。魔族の女は首を右に傾けそれをかわす。
間髪入れずに後ろから坊主の男子生徒が腰を狙ってやや拳をひねりながら正拳突きを行う。魔族の女は上に飛びこれをかわす。
しかしすでに彼女の上には別の魔法士がいた。
その魔法士は彼女に手を向け魔法陣を展開していた。風が彼女の体をかすめいくつもの切り傷ができる。さらにその風圧で地面に叩き落とされる。
落下点には先程のショートカットの魔法士が魔族の女めがけ足刀蹴りをする。左足を軸にし右足の膝を前方に持ち上げられた足刀部が魔族の女の顔に直角に当たった。
蹴られた勢いで地面と平行になるように後方へ飛び坊主の生徒の膝蹴りを腰に受ける。魔法による防壁を展開するもいずれの突きや蹴りにも魔力が込められていて防壁が役に立たない。どうやら援軍の砲撃により魔力を消耗しているようだった。
残りの二人も攻撃に参加し一対五で組み手をするような超接近戦となったが魔族の女は武術の心得がないのか受け流すことができず防壁で防いでも次の攻撃では破られダメージを負う。無駄がなく流れるような五人の息の合った動きに合わせて中距離から魔弾が飛んでくる。これにも気にかけながら五人を相手にするのは相当分が悪い。
いくつも飛んでくる魔弾を回避することに気をとられ、ショートカットの魔法士が蹴り足の右足を膝と水平に真横にあげ膝を基点に足を伸ばし横方向から横蹴りをし魔族の腹部にめり込む。
同時にもう一人の魔法士が右足を軸にして回転し体を下に傾け左足の踵を持ち上げ回転しながら後頭部に回し蹴りをする。
「ごふぁ!」
前後から同時に攻撃されるがさらに追い打ちをかけるようにもう一人の生徒が剣で魔族の背中を貫く。
「ぐぇぁ、ごふぉ!」
地面に倒れこみ吐血する。
「魔族と醜い亜人め、私自ら葬ってやる。死ね!」
最後に近づいてきた男性教官が横たわる魔族に手を向け魔法陣が展開された。
燃え盛る炎の玉が現れ、赤から青へと変化し青炎となる。
自己再生も追いつかず意識が遠のいていく中視界が青くぼんやりしてくいく。やがてぼんやりとした視界の中で青い光が強くなっていく。村に魔法士たちがやって来たことが思い出される。
愛想よく笑いながら村長と会話を交わしていたが村は一変する。家々は炎に包まれ村の皆が逃げ回る。親愛の印として渡された腕輪で魔法が使えない。その時の騒音が頭に響く。しかし、その記憶すら燃えボロボロと灰となって崩れる。もうこれで自分は死ぬんだなと思い重い瞼を閉じようとした時、ぼんやりとした視界の中で誰かの人影が強まる青い光を遮る。背中に手が添えられ透き通るような声がかけられた。
「、、、もう大丈夫。」
容姿を見なくてもなんとなく声で理解した。自分と同じ魔族だと。しかし、次に耳に届いたのは魔族ではなかった。遠のいていく意識の中、力を振り絞り顔を上げてはっきりと目の前の人物を見る。背中しか見えないがなぜかその背中は安心できた。肩越しにこちらを見た“人間”の少年は言った。
「任せろ。」
その瞬間彼女の体を何かが駆け巡った。妙に胸を打つ鼓動が速い。目の前の“人間”が知りたい。危機的状況にも関わらず体の痛みも忘れ目の前の“人間”を見つめ続ける。
「、、、寒い、また変な感じ、?」
「お、お前は!先ほどの試合で対戦相手の生徒を過度に痛めつけた奴か!そこをどけ!魔族は一匹でも逃がしてはおけん!」
「確かにこの魔族の女は魔物襲撃の首謀者だが避難の遅れたそこの親子をかばったぞ?自分たちの避難誘導に問題があったとは思わないのか?」
「ふん、そこの薄汚い獣は本来生きる価値のない家畜同然だ、死んだところで何も問題ない。」
「そこの親子はともかくこの魔族の女を殺すと言うなら教官であろうがお前を殺す。」
シバの眼光が鋭く光る。男性教官はシバの圧力に押されごくりと生唾を飲み込む。一瞬怯んだが他の生徒もいる手前一人の生徒ごときに怖気づくのは自分のプライドが許さない。
「あんなこと言ってるけど、魔族を助けるとかもう国法違反だよな。」
「確かに、それにさっきの試合も対戦相手殺したよな。立派な犯罪じゃね?」
男性教官がシバの圧力に物怖じしているとは知らず周りの生徒たちが口々に言う。最終的にはシバも魔族の女や亜人の親子同様に殺すべきだという始末だ。
シバとしては速くこの場を離れたいのだが手負いの魔族の女と亜人の親子を一気に運ぶのは少々厳しい。
どうしたものかと思っていると男性教官の指示なく攻撃するものがいた。その攻撃を境に学院の生徒達から次々と魔弾が放たれた。それに後押しされたのかそれまで苦虫をかみしめたような表情の男性教官の表情が得意げになる。
「ええい、止めんか!」
生徒達による攻撃が止まり、男性教官は右手に青く燃え盛る炎を生成した。
「国法違反の犯罪者といえどもこの学院の生徒だ、私が直々に手を下す。もちろん、そこの魔族と亜人もだ。」
胸の前に浮かぶ青い炎は波打つように一定の間隔で大きくなっていく。すると、今度は左手が緑の魔法陣を展開し掌に小さな竜巻が現れる。直径一メートルほどの青炎玉と竜巻が合わさり炎の勢いがさらに増す。怯む様子もなくシバが右手の魔法陣から黒い粒子で何かを生成しようとした時二人の間に雷が落ちた。
ピシャャャー!ドゴゴゴォォーン!
「「「!?」」」
「これこれ、二人とも何をしておるか。」
雷の落ちた先に装飾を施した自分の背丈よりも長い杖を持った老人がいた。その周りにはシバの教官のパレクも含め数名の教官がいる。
「が、学院長、し、しかし、、」
男性教官が何か弁明しようとしたが学院長の厳しい目を見て言葉を飲み込んだ。冷や汗が止まらない。それほどディスフィデス・スコーリオ学院長の存在感は大きいもののようだった。だがシバは突然の学院長の登場に眉一つ崩さず黒い粒子を変形していく。そんなシバに対して聞き覚えのある声が届く。
「シバも少し落ち着け。話をしよう。先ほどの続きも含めて。」
「、、教官、」
シバの手元で変形しかけていた黒い粒子は砂のようにサラサラと崩れ落ちた。学院長が自分の背丈よりも長い杖をコツンと地面をたたく。
学院長を中心に上空に巨大な魔法陣が出現した。その場にいた者の視界が白く光り別の場所へと転移された。
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