第10話

 キャリアは自分の未熟さを痛感していた。

 

 自分よりも明らかに魔法士として劣っているとみなした少年になら全力を出さずとも勝てると思った。しかしその少年はキャリアの戦い方の隙を見抜き工夫して格上の相手に勝利した。


 剣の師である父には幼少のころから言われ続けていた言葉があった。

 

『敵として対峙した相手は常に全力で挑む、剣は人をも殺せる武器であると同時に誰かを守るための武器でもある。どちらにせよ全力でできない者などには何も成しえない。』

 

(シバ、私は君に対して失礼なことをしてしまった。だから強者として君に私の全力をぶつける。)

 

 キャリアは木剣を強く握り魔力を込めた。そして上段の構えから繰り出された三連撃の斬撃がシバに襲いいかかる。


 正面からまともに受けてしまったシバであったが使える正の魔力を体の正面のみに集中させ防壁を作ったのでまだかろうじて倒れてはいない。


 キャリアは0→100、100→0というように魔力を調節して消えるように高速移動しあらゆる方向から攻撃を繰り出した。全方位からの斬撃の嵐に成す術がないシバに対しキャリアは攻撃の手を緩めない。


 その時だった、彼女がシバの異変に気が付いたのは。


 いつからだろうか、キャリアの斬撃がシバに届いていないのだ。それどころかはね返されているようだった。


 よく見るとシバの体は漆黒のオーラを纏っておりそのオーラがキャリアの斬撃をことごとくはね返していた。


 オーラによってはね返されていると理解した時にはすでに遅く彼女の両頬を跳ね返された斬撃がかすめた。


 ゴォォオという音からシュッという音に変わりキャリアを通り抜けた。両頬からは鮮血が飛び散る。


 残りの一つは彼女の正面に向かってはね返された。キャリアは間一髪のところで上体をのけぞらせて斬撃を避けた。


 シバの全身に纏っている黒いオーラを彼女はつい先日も見たので記憶に新しい。教室でのシバの豹変ぶりに自分は委員長としての責任を感じていた。クラスメイトに対する明らかないじめ。当然見過ごせるものではないとわかってはいたがなかなか解決には至らなかった。


 彼の苦しみを少しでも軽くしてあげたい、いつからかそう思うようになっていた。放課後に居残り訓練をしているのも知っていたし文句を言いながらも手を抜かずに頑張っていた彼の背中を見つめるうちに当初とは違った感情で見つめていた。


 このような気持ちは初めてだった。自分より強い男に惚れるとよく言われているが彼女の場合は自分より強い同世代の男がいなかった。しかし、今彼女の胸の内は無能と言われる少年のことでいっぱいなのである。


 弱くてもいい、人より秀でていなくてもいい、彼のことが好きなのだと自覚したのはいつのことだろうか。そのように思いをはせていたがシバの纏っているオーラが変形し始めたので再び現在のシバに目を向ける。


 黒いオーラが一筋伸び先端は鋭くとがり槍のような形へとなった。そしてキャリアめがけて加速し飛んでくる。不気味にも音は一切聞こえない。


 「!?」


 キャリアは高速で回避するがオーラは彼女を追従してくる。どんなに彼女が高速で逃げ回ってもオーラの槍は追従してくる。


 音もなく追ってくるため距離を詰められていく焦りと恐怖がより増してくる。


 オーラが彼女の足先に触れたかと思うと急に広がりキャリアを飲み込んだ。


 身動きの取れなくなった状態のまま彼女は思った。

 

(昨日の彼の豹変ぶりには驚いたけれど今のはその比じゃないわ。全くどうしてしまったの、シバ、)

 

 シバに目を向けるとキャリア自身の攻撃で体中は傷だらけだった。その姿に息をのむキャリア。自然と涙があふれてきた。


 ぼやけた視界でシバの傷口から何か黒いものが見えた。涙を拭きよく見ると黒い血が流れ落ち床に広がった血のと混ざりやがて黒いものになった。それと同時にシバの体中の傷が再生していった。


 その時キャリアをとらえていたオーラが消え彼女はシバからさらに距離をとった。


 しかし、すでに彼女の背後にはシバがいた。


 シバが手に魔法陣を展開すると黒い粒子が集まり何かが生成され始めた。


 一瞬で背後をとられたことにも驚いたが今キャリアの中にはかつてのシバへの想いとは対極の恐怖しかなかった。外見は大きく変わっていなかったが纏っている冷徹で残酷な雰囲気が彼女の行動すべてを支配する、キャリアはそう感じた。頭の中で警告音が鳴り響いているが体が動かない。いや動くことができない。


 いつの間にかシバの手にはハンドガンが握られていた。その銃口を自分の額に向けられ逃れられない死を感じ、ゆっくりと目を閉じた。


 「俺の勝ちだな。」


 一言シバが言った。


 一度死を感じただけにシバの言葉を理解するのに数秒を要した。理解した時にはシバにはオーラはなくいつもの雰囲気に戻っていた。

 

「シバ、さ、さっきのはいったい?」

 

 キャリアは恐る恐る尋ねた。

 

「あー、あれな、今まで隠してたわけじゃないんだけどな、その、負けたくないとかこの人を絶対助けるって強く思ったときになんか使えるようになるんだ。」

 

 もちろん嘘である。自分は人間と魔族のハーフです、なんて言えるはずがない。

 

「ん、な、なるほど、そ、そうなんですね。本当に殺されるかと思いましたよ。」

 

「まあ、負けたくないって気持ちが強くなりすぎてついな、そ、そんなことより、早く治療しないとな、医務室行くぞ。」

 

「肩、貸してくれますか、一人では少し厳しいです。」

 

 そう言われ肩を貸したがキャリアの頬がうっすら赤くなっていることにシバは気づいていない。


 確かに先ほどのシバは怖かったが今はいつものシバであるし、負けたくないという強い気持ちであのようになったと聞いてシバに変わりないと思うキャリアであった。

 

(今俺が魔人族のハーフだなんてばれたら色々めんどくなりそうだな。でもまあ、嘘でもないし、負けたくなかったのは本当だし誰かを守りたいってのも本当のことだ。うん、嘘ではないな。)

 

 キャリアに肩を貸しながらシバが思っている傍らキャリアは横目でシバのことを見つめていた。


 

丁度その頃…


「、、、シバ、本当によくやった、黒魔法まで段階的だけれど使えるようになった。、、、けれどこの悪寒はいったい何?、、、寒い、何かすごく嫌な感じがする。」

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