第3話
「いや、待て待て、俺の質問に詳しく答えないし挙句の果てに俺が人間じゃない?いい加減にしろよ!」
「、、、ごめんなさい、でも順番に説明するから、聞いて。、、、まずあなたは人間だった。」
「人間だった?」
「、、、そう、ごく普通の家庭に生まれたごく普通の子供。」
そういうと彼女はシバの頭に手を伸ばして目を閉じて言った。
「、、、今からあなたに昔のあなたの記憶を見せるからどうか信じてほしい。すごく辛くて目を背けたくなるけれど本当のことが知りたいなら向き合ってほしい。」
それから彼女はシバの過去についてそしてシバと彼女の関係について話した。
シバの頭の中には一軒の小さな家と三人の人影が見えてきた。その光景に合わせて彼女の声がシバの耳に届いてくる。
「、、、その日あなたたち家族は森にピクニックに行った。そこは自然に囲まれ動植物、そして魔族もたくさんいた。けれど魔法学院の者たちがいきなり森を焼き払った。」
シバには彼女の言葉には強い憎しみが感じ取れた気がした。
「魔族を駆逐するべきという風潮は確かにあったけどそれに関しては俺もどうかと思ってはいたよ。けど、まさかここまでとはな。ん?まさか、俺の家族はそれに巻き込まれたのか!?」
学院の魔法士たちが森を焼き尽くす様子を見たシバは顔色を変えた。
「、、、少し違う、学院側の人間に対して魔族は抵抗した。当然の流れ、何の理由もなく一方的に攻撃されたから。それに人間側の国の方針としてこの森はあらゆる魔法の行使が禁止されていた。人間たちはことが大きくなって国にばれる前に自分たちの行いを全てあなたたち家族に擦り付けたの。」
植物が燃え逃げ回る動物たちに構うことなく森を焼き払う魔法士たちに魔族が一斉に向かって行くのが見える。
「擦り付けたって言っても俺ら家族が行ったっていう証拠もないしなんで国は信じるんだよ、おかしいだろ。」
「、、、証拠はあったの、もちろん学院側の作った偽の証拠。投影魔法であなたの両親がやったように見せそこにたまたま居合わせたように映像を合成して学院や国に放送したの。、」
「そ、そんな、、」
さらに彼女の説明は続いた。
「、、、そして学院と国から異端とみなされそこにいた魔法士たちに討伐の命令が出された。」
シバの頭の中の映像には多くの魔法士が森に集まり討伐部隊が編成されていた。そして、攻撃が始まり森は燃え動植物、そして小さな魔物ですら蹂躙されていった。
その中でおそらく森を住みかとしていたある魔族の集団が魔法士たちに対抗し魔法士と魔族との攻防が続いた。
魔族の抵抗の一報を受けた国はさらに学院側に部隊を要請し魔法士側の数的有利な状況になっていった。それでも魔族は高い再生能力と高位の魔法による攻撃により数的不利な状況にもかかわらず魔族たちはひるむことなく戦っていた。
しかし、突然上空から巨大な魔弾が現れた。
映像は強い光で覆われ一瞬見えなくなったが再び映像が戻るとあたり一帯が吹き飛ばされ荒野と化してた。それに伴いほとんどの魔族は姿を消した。
そして魔法士たちの標的が本来の目的であるシバたち家族に向けられた。そこで記憶の映像はひどく乱れ消えてしまった。
「お、おい、映像が途切れたぞ、魔法士たちは俺たち家族に向いているが、、」
妙なところで映像が途絶えたことでさらにシバの不安を煽るようで、はたまたこの先のことが想像できてしまったのかシバの声が震えている。
「、、、それはあなたが自身の悲しみや絶望で記憶を閉ざし無意識に蓋をしてしまっているのだと思う。」
彼女も萎れている。
「な、なら、お、お前が、説明してくれよ、、」
シバの言葉は覇気を帯びておらず事実をただ確認するための機械のようだった。その言葉を聞いて彼女は顔色を暗くした。
「、、、あ、あなたの両親は、二人分の魔力であなたを守る防壁を作った。そ、そのおかげであ、あなたは重症を負ったものの、死は免れた。け、け、けれどあなたの両親は、魔力を使い果たしてしまったからから、その、、」
「、、、」
シバの無言が作り出した静寂が冷たく彼女に刺さる。いつの間にかシバの目には涙が浮かんでいて今にもあふれそうだった。彼女はそんなシバの様子を見て涙があふれることがシバの心の崩壊と感じてしまった。だから彼女はシバの質問に答えることに躊躇した。
「、、、そ、その、あ、あなたの両親は、、」
シバも彼女に言われなくても気付いていた。あの状況で今自分が生きていることの方が奇跡だと感じている。彼女の躊躇している様子から彼女なりの優しさすら感じ取れた。シバはある意味冷静になれた。しかしシバ自身に、もしかしたらという思いが頭の片隅にあった。小さな希望に縋るようにシバはもう一度彼女に問う。。
「俺の両親はまだ生きているのか?」
目を伏せ彼女はまるで時が止まったような重く長い静寂の中答えた。
「、、、し、死んでしまった、」
彼女もまたシバの気持ちを察し短くそして震える声で答えた。
シバの涙はとうとう頬を伝って落ちた。
「な、なんで、父さんと母さんが、死ななきゃいけないんだよ。俺は無能でろくに魔法も使えない、父さんたちにもらった命なのに、俺なんかが生きていても意味なんかないじゃないか!だれも信用しないし、ましてや俺一人の力で一体何ができるんだよ、ならいっそ、死んでた方がよかった!周りから無能と言われ蔑み罵られるくらいなら生きている意味なんてない!」
シバの言葉、表情、そして考えは生きていることを後悔している、もう生きることに絶望してしまっている。シバは幼子のように号泣した。今まで溜め込んできた苦悩が零れ落ちるように泣き叫んだ。
すると彼女はシバを優しく抱きしめた。何かを言うのではなくそっと抱きしめた。まるで君は一人ではないと言っているようだ。
どのくらいそうしていただろうか、彼女が優しくシバにささやいた。
「、、、私は、シバに生きてほしい、だって、あなたは生きる価値のある優しい人だから。」
「お、俺が、や、優しい?」
「 、、、うん、あなたは防壁があったとはいえかなりの重傷だった、それでも傷ついた私を見つけて背負って逃げようとしてくれた。魔族の私の傷が再生しても怖がらず私を守ろうとした、自分が傷だらけでもあなたは私を守ろうとしてくれた。」
シバに向き合う彼女の目にも涙があふれていた。しかしその表情は優しく温かい。
「、け、けど、俺は、やっぱり、って痛い痛い、」
彼女はシバをさらに強く力いっぱい抱きしめた。
「、、、あなたは、生きなきゃいけないの!命ある限り生きることをやめてはだめ!」
シバにはこの時の彼女の言葉、雰囲気が懐かしいものであると感じた。
「あ、あれ、?」
シバの心の奥底に何かが引っ掛かった。
「、、、あなたにお姉さんはいない、さっきの話には続きがある。重症のあなたは出血多量でかなり危険な状態だった。私たち魔族には再生能力があるけれど治癒魔法なんて使えなかったから私の血をあなたの傷口にかける方法しかその時は思いつかなかった。」
その時シバの頭の中で再び映像が映し出された。
ボロボロに傷つく幼いシバに彼女は自身の血を分け与えていた。はじめはシバの表情は険しく苦痛に歪んでいた。しかし徐々に流れ出る血は抑えられていった。
血が止まってもシバの苦痛に歪む表情に変化はない。それどころかさらに苦痛に耐える様子は激しさを増していった。やがてシバは気を失った。
「そ、それで俺が半分魔族なのはわかった、け、けどまだ姉さんのことが納得できない、」
彼女は意を決したように一度目をつむりそして口を開いた。
「、、、あなたが気絶している間にあなたの記憶を書き換えた。あなたの両親は国外に行商人として行き、姉と二人で暮らしていたというように。、、、それであなたのお姉さんは、私、」
「いやいやいや、容姿が違うだろ。」
「、、、それは魔族の容姿だと周りにばれるから、」
そういうと彼女が光に包まれ別の女性が現れた。
「ね、姉さん、なんで、」
「、、、シバ、ごめんね、魔法学院に入ってから会ってあげられなくて。けれど魔族と接触していることは校門を通ると検知されてしまう可能性があったから。ごめんなさい」
「じゃあ姉さんは俺が嫌いになって俺を置いてどこかに行ってしまったとかじゃないんだね。」
「、、、嫌いになるわけ、ない、ずっと、ずっと大好き、」
もう一度二人は抱きあった。今度は悲しみや絶望の涙ではなく感動の温かい涙が頬を伝い零れ落ちた。
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