Buying from God with money.

佐武ろく

Buying from God with money.

僕は休みの日によく祖父母の家に遊びに行っている。少し遠いけど静かな場所に建てられた昔ながらの家はいるだけで落ち着くし何よりおじいちゃんの話を聞くのがとても楽しい。そして今日もちょっとしたお土産を手に祖父母の家へ向かった。2人共、孫である僕が来たことを喜び歓迎してくれた。今日はお昼過ぎだったこともあって来る前にご飯は済ませていたからおばあちゃんのご飯が食べられなかったのは残念だが仕方ない。その代わりと言っては何だが持ってきたお土産をお茶と一緒に3人でおしゃべりしながら楽しんだ。それからいつもの定位置である縁側におじいちゃんと並んで座ると庭を眺めながら今日もお話を聞かせてもらう。しかもまだ太陽が元気に活動しているにも関わらず片手にはビール缶。これが大人の特権というやつなのかもしれない。


「今日はどんな話?」

「そうじゃなぁ...」


おじいちゃんは悩んだ様子を見せながらビールを一口飲む。


「太平洋に浮かぶマゴッネ―ド島の話をしようか。今は無人島じゃが昔は、といっても古代までさかのぼるのじゃが、そこには国があったという」

「今は無人島ならその国は滅んじゃったってことだよね?」

「もし本当にその国が存在しとったらそうじゃな」


話に入る前に僕もおじいちゃんも同時にビールを飲んだ。


「その国はマゴッネ―ド国と呼ばれていたそうじゃ」

「国名がそのまま島の名前になってるってことか」

「そんな決して大きくはない島に栄えたマゴッネ―ド国の国民は働き者なことで有名じゃった。それ故に国の発展スピードは済まじく一気に発展途上国から先進国へとまでなった。そんなマゴッネ―ド国には1つの宗教が信仰されておったんじゃ。それはマゴネ教と呼ばれる宗教で今では貨幣神教と呼ばれていた」

「かへいしん教?」


僕はその名前に思わず聞き返してしまった。


「そうじゃ。お金の貨幣に神様の神で貨幣神教」


何とも大胆な名前だろうか。確かに現実的にお金とは例え宗教であってもそう簡単に切れるものではない。だがそれをこうも堂々と合わせるとは。色々とすごい。


「この国にはマゴネ教という宗教しか存在せず国民の全員がそれを信じておった。そうなればその国を治めていたのがマゴネ教のトップであってもおかしな話ではないな。さて、ここからが本題なのじゃが。そのマゴネ教によるとわしらはこの世界を作り上げた絶対神マゴネへ感謝の心を持ち崇めていかなければならないようじゃ。そんな教えに従いその国の中心には国一番の大きさを誇るマゴネの像が建てられていた。マゴネ像より高い建造物を建てることは禁止されておりそれは重罪じゃったという。そのマゴネ像へ向かって1日2度決められた時間に国民全員で祈りを捧げることが法で決められており祈りは何よりも優先されるべき行為として教えられておった」


それは無信教の僕からすればめんどくさそうにも思えたが世界のどこかにあると言われればすんなり信じられるほどの宗教ではあった。


「そんなマゴネ教には幸福に関するある教えが存在した。それはお金を使えば使うほど幸福になれるというものじゃ。一見、神とは無関係にも思える教えじゃがそこにはちゃんと関係性があった。この世にある全てのモノは神が造ったモノで例え人間が作り出したモノであっても元を辿れば神の創造物。つまり全ては神に通ずるわけじゃ。そしてお金というのは労働に対する対価でありつまりそれは努力の証と考えられていた。努力の証であるお金を支払い神の創造物を買うということは、それすなわち神の為に働いたのと同等という教えじゃ。神の為にその身を捧げお金を稼げばそれと引き換えに神の創造物を受け取り幸せになれるというわけじゃな」

「だから働き者が多いのか。それにお金を使うから経済発展もすごかったのかな?」

「どうじゃろうな」

「でも適当なモノを作って高額で売っても買う人はいそうだよね」


もしかしたら今だったら100円で買える物でもその国では1000円や2000円もっと高い値段で売ってたかもしれない。


「そういうわけにもいかんのじゃよ。先ほども言ったがこの世の万物は全て神が造りだしたモノ。それを使わせてらい新たなモノを作るわけじゃからより良いモノを作ることが神に対する信仰の表現であるとも考えられとったからの」

「より良いモノを作ってより稼ぎより消費することが幸福への道となるって経済的な神様だね」

「そうじゃな。だがなこれにはもうひとつの幸福があったんじゃ」

「もうひとつの幸福?」

「お金を払いモノを得て幸せになるという物理的な幸福と精神的な幸福じゃ。そのモノを買う際に支払う代金には税金とは別の神への貢ぎ金が含まれておったそうでの。モノを買うことで神へお金を供えることができるわけじゃ。先ほども言うたがお金は努力の証。つまりモノを買えば買うほど神への貢ぎ金が増えていく。それすなわち神の為にこれほどにも努力しているという証じゃったんじゃな」

「これだけ神様の為に働いているからきっと幸福をくれるだろうってことか」


この時点で僕の想像していたこの神様は金ぴかで派手な格好をしていた。


「それもあるが神の為により多く働けば死後、神はその者を楽園へ導くだろうという考えが大きいのかもしれん。だがトップがある人物に変わった時にそのトップはこう国民に行ったそうじゃ。1日2度の祈りを廃止しその分も働くことでより大きく神に我々の信仰心を示せる。とな」


そもそもこのトップはどう決まってるのだろうか?というより稼ぐことが大事ならこのトップは何をして稼いでいるのだろうか?そんな疑問が僕のなかで顔を見せた。


「それに共感した国民はそれ以来祈ることはなくなった。その分働いて稼ぎ消費したんじゃ。その所為かは分からんがいつしか国民の中で考えが変わり始めた。お金を使うことが幸福になる為に必要ならより多く稼ぐことが何より重要だと。人々はいつしかお金を稼げば幸福になれると考え、人生をかけてお金を追ったんじゃ」

「結末が見えてきたね」

「その結果、過労死は増え結婚も減り当然子どもも減り破滅の道を進んだわけじゃ。どの国より多くの者が働きどのくにより長く働いたことで大富豪の国とまで呼ばれたマゴッネ―ド国じゃったが国民が感じていた幸福度はどの国よりも低かったという」

「ずっと働いてたら幸せにはなれなさそうだもんね」

「もしくは、今よりもっと稼ぐことができればもっと幸せが待っていると今の自分はまだまだだと考えていたのかもしれんな」


バカだな。そう思ったけど実際にお金があれば僕らもある程度の幸せは買えるから完全に否定できない自分がいた。僕らがお金持ちを見て幸せなんだろうなとか楽しんだろうなって思うのと同じで彼らも自分よりお金を持っている人を似たような目で羨んでいたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Buying from God with money. 佐武ろく @satake_roku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説