(2)
いつもは放課後に学生がはびこっている街が、少しだけざわついている。ちらほらと親子連れも見えて、小春はその雰囲気に違和感を感じた。とにかく普段の様子ではない。
「ああ、今日、お祭りがあんのよ」
「こんな梅雨の時期に?」
「そうだよね、アンタは去年の冬転校してきたから、知らないよね」
————六月の最後の週の土曜日には”六月灯”っていうお祭りがあるのよ。
千絵はそう語った。昔からある祭りのようで、だからこんなに人が多いのかと小春は納得した。この商店街を抜けた先にあるひときわ大きな山の神を祭るそうだ。屋台を楽しんだ後は皆山の入り口にある神社に参って帰るのが風習だそうで、小春は少しだけ興味を持った。
「そんなことより、前園さんよ。ほら、今コーヒー飲んでる」
千絵はストーカーじみたことをまだ続けるつもりらしい。すっかり祭りのほうに興味が移った小春は今すぐにこの行為をやめて屋台を楽しみたいが、如何せん千絵は乗り気である。もし前園さんがパパ活をしていたとして、二日連続でパパ活をする確率なんて少ないというのに。
「小春も見てよ。ちょっと遠いけど、それでもわかるくらい美人だよ」
そう言われて小春はようやく千絵の視線の先を追った。
「————うわ、すごい美人……」
思わず言葉が漏れた。学校の中で一番美人とは聞いていたが、まさかこのレベルだとは思わなかった。目を奪われるという言葉がまさに当てはまる、というくらい小春は前園に見入ってしまった。
「小春、見すぎ。気づかれちゃうよ」
千絵に肩を揺さぶられて小春は我に返った。
「ごめん……」
「まあ、見とれるのはわかるくらい綺麗よね」
そう言って千絵も前園さんへと視線を向ける。こぼれそうなくらい大きな瞳に、人工的なものでも勝てなさそうな長いまつげ、つやつやの髪。スタイルだってこの街に似つかわしくないくらい抜群だ。正直、小春が見てきた中で飛びぬけて美人だと感じた。
そんな美人がパパ活。やはり妬み嫉みで流された根も葉もない噂だとしか思えないし、美しい彼女にそうやすやすと体を売ってほしくないという願望もある。小春はさらにこのストーキング行為がばからしく感じた。
「千絵、ごめんね。私お祭り楽しんで帰るわ」
慌てて小春を止めようとする千絵を置いて、小春は前園さんがいる方向とは逆へと駆け出した。ただでさえ人が多い今日の街でわざわざ自分を探そうとはしないだろう、と程よく離れたところで足を止める。もう日も落ちて、花火があがりそうな時間になっていた。
いのちのうた @pokotaro_73
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