いのちのうた
@pokotaro_73
第1章 (1) side小春
――――人間は大きく分けて二つの部類に分かれることができる。死を恐れる者と、恐れない者だ。
そして恐れない者も二つに分けることができる。生きることを恐れる者と、死も生も恐れない者である。
傘に水滴が降り注ぐ。パラパラと軽快に鳴る音とは裏腹に、雨とは人の気持ちをいともたやすく悪い方向へと持って行ってしまう。ずぶ濡れになってしまった靴下を憂いで、小春は大きく溜息をついた。
教室につくと途端に涼しい空気に触れることができるが、それぞれが持ち寄った湿気のせいもあって心なしかジメジメしている。後ろから三番目、窓際の席に腰を下ろした小春のもとに友達である千絵が駆け寄ってきた。
「ねえ小春、聞いた? 三組の前園さんの話」
噂話が大好きな千絵らしい話題である。もっとも小春は前園さんについて名前も知らなかったため、首を横に振る。
「知らないの? 私らの学年でも有名な美人だよ。そんな美人がパパ活しているところを、隣のクラスの男子が見たって朝から持ちきりだよ」
またそれか、と思わず苦笑がこぼれる。最近流行りのパパ活。美人を見ると大体そういった噂が流れる。大方妬み嫉みの類だ。前園さんもまた美人であることから、とんだ災難である。事実無根も甚だしいだろうに。
「まあその男子は前園さんのことが好きでちょっとだけストーカーしてたからわかったってことで、男子のほうも気持ち悪いんだけどね。でも。あとをつけるとオジサンと前園さんがホテルに入っていくのが見えたってよ。私らもそれ見たくない?」
「見たくない」
即答だった。どうして小春が自らの足で赴いてまで顔も知らない人のプライバシーを覗かなくてはいけないのか。
「またまた、そういうこと言っちゃって。行こうよ。お願い、一生のお願い」
千絵は両手を合わせて懇願した。ここまで言われてしまえば、小春は無碍にするわけにもいかない。それに元来断ることが苦手な小春である。結局その日の放課後、三組の前園さんのあとを尾行することになってしまった。心底めんどうくさいことに巻き込まれたものだと、小春は本日二度目の溜息をついたのだった。
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