第7話 巨乳美魔女からの贈り物

『ヤツもゼロドライバー……………だと?』

延々とイヤミを言って、クラブマン司教はどこか満足げな顔で去った行った。

残された面々も、気まずさと不愉快さにしばし黙していたが、ラッチは警備と護衛の強化のための手配に、ボルトはその手伝いに同行、ロイとレアンは「まあ、ちょっと……………」と、意味ありげに言葉を濁しつつ部屋を去って行った。

部屋に1人残されたレベッカ(実質アイ達の霊体もいるので5人)は、先ほどのノーマンの話の確認をしていた。

『どういうことだ?』

『そのままだ。 あのクラブマンという男も、ゼロ・ドライバーとして、異世界に魂で行き来が出来るのだろうな、どうやら我らの姿は見えていたようだ』

『その根拠は?』

聞きつつも、ヴォルもそんな気がしてたのだろう、薄っすら笑みを見せている。

『先ほど、室内を一周した際、こちらの動きに合わせて目を動かしていたからな。 まあ、当人も感付かれまいと、見えぬふりをしていたが、芝居は見え見えだった。 レベッカもヤツが同じ能力がある事を知っていたのだろう?』

「ええ、まぁ…………………」

レベッカも苦笑いで答える。

「前にも話しましたが、この世界は私のようなゼロ・ドライバーが異世界で得た技術や知識で発展してきました。 この能力を有する者は以前からいたにはいたのですが、その絶対数は少なく、私以前には50年以上、その存在は確認されていませんでしたが…………………」

『あの男もまた……………?』

「はい。 本人は誤魔化しているようでしたが、明らかに異世界の知識と思われる言動が、今までにも何度かありましたので」

『やっぱあのイヤミジイさん、主犯に決まりでしょ』

も〜、さすがのアイでも状況を理解できた。

この状況なら、犯人推理に見た目は子供の某探偵の力を借りるまでもない。

ただ、それを証明する証拠がないだけだが。

犯人推理とは別に、アマンダはなぜか得意げな顔で、

『気付いた事なら私にもあるぞ』

と、言った。

基本、頭の中はアイレベルではあるが、人工の世界とはいえほぼ野生児に近い彼女の観察眼は確かである。 こういった場面では、その感覚は頼りになる。

『後ろにいた2人、ありゃ人間じゃないな』

クラブマンのイヤミばかり気になっていたが、彼の付き人として来ていたフード姿の2人も、ある意味異様な雰囲気があったのを思い出す。

『街で見かけた異世界人とか?』

『いやいや、そんなんじゃねぇよ。 亜人種、とか言うのか? 生物として完全に他の住人とは別物だ』

『顔とか見えなかったが、そう思う根拠は?』

『感っ!!』

『ダイアナの癖が移ったか?』

今頃ノーマンの世界で、彼の部下のダイアナがクシャミをしているのを想像しつつ、ヴォルが付け足す。

『オレもあれは人間じゃないと思う。 初めて見た時から、歩き方に違和感があったからな』

と、こっちは武士としての観察眼から得た情報を整理して説明を始めた。

『あの2人が歩く度にした、床が軋む音が常人のそれとは違った。 身長に対して体重がかなり重い事が分かる。 ロイとかいう男のように、武器や金具を多く纏っている可能性もあるが、それでも不自然だった。 他には………………』

『他には?』

『感だな』

『やれやれ、君までもか…………。 まあ、その感というものが信用できることを、私は知っているがな』

言うノーマンは、部下ダイアナの顔を思い浮かべつつ、隣に立つヴォルとアマンダの方をチラリと見てほくそ笑んだ。


『あの〜…………ところで、あの人達はドコに行っちゃったんでしょう?』

今まで特に発言などの出番が少なかったアイが、おずおず聞いた。

『あの人達? ボルト達なら警備の………………』

『いえ、そっちじゃなくて、あのイケメンのお兄さんと、パイオツ魔女さん。 2人一緒に出かけたみたいですけど?』

『言われてみれば確かに。 クラブマンと従者のことばかり意識してて忘れていたが、確かレベッカの客人だったよな?』

理由を聞こうとレベッカの方を見ると、彼女は明後日の方を見ながら、

「ああ、あの2人なら……………………」

『?』×4

「街のホテルの場所聞いてたから、きっと昼間っからしっぽり男女の関係を深めに行ったんじゃないかな? 以前からそういった間柄だったし」

『………………なっ?!(怒)』×4

まあ、確かにそれなりの関係だろうとは思ってはいたが、だからといってこの非常時に何を、と、言い知れぬ何かを4人は感じた。 中でもアイは、

『あのイケメン、女なんか興味ねぇぜ、みたいな顔して、あの美魔女のパイオツを好きにし放題だなんて、羨ましすぎるぅぅぅっ!!』

と、違う方向に感情のベクトルが極振りさせていた。


 そんな異世界人の感情(一部不純な)を知る由もなく、レベッカの旧友、ロイとレアンの2人は、不謹慎にも聖職者である大聖堂の神父にホテルの場所を聞き、そこに向かっていた。 傍目にも似合いのカップル(?)に見える両者。 彼の腕に抱きつき、二の腕にその巨乳を押し付け、その気満々なレアンに対し、妙に冷めた顔で並んで歩くロイ。 それでも他人の目には、◯◯◯な関係にしか見えないだろう。

何せ見るからに立派な体躯のイケメンに、ほぼ水着姿のセクシー美女が密着して歩いているのだ。 これからお楽しみに勤しむに違いないぞと、容易に想像するコトができる。 そしてそんな2人が入って行ったのが、この街一番の、いや、普通に宿泊するだけかもしれないのだが、ソレが出来そうなホテルだったものだから………………………、

「チクショーッ!!」

「何であんな男なんかにぃぃぃっ?!」

といった絶叫とも聞こえる複数の声を背に、ロイとレアンはホテルの中に消えて行った。


 ラ◯ホ…………ではなくこの日の宿となるホテルの部屋に向かう2人。 アリアの名を出せば宿代はタダになりそうだったが、彼女の立場を考えて言わないだけの倫理観は、辛うじてあった。

部屋に入るなり、ベッドに飛び込んで、

「さあ、早く早くぅ〜♡」

セクシーポーズでロイを誘惑するレアンであったが、当のロイは疲れたようにため息をついた。

「そういうのはいいから…………………ってか、年頃の女の子が人前で足をパカパカ開くんじゃありませんっ!!」

「え〜、いいじゃ〜ん」

尚も挑発するように、股を大きく広げてから左右の足を組み直し、

「カモォ〜ン♡♡♡♡♡♡」

と、ウインクをしてから指でクイクイ、ベッドに誘い込もうとしている。

「……………そうか。 そこまで言うのなら……………」

「…………………………えっ?」

ロイの変化に、今更ながら焦った顔になるレアン。

ベッドに腰掛ける彼女の前にまで来ると、ロイはレアンの顎に指を添えて、いわゆる顎クイ状態にさせる。 レアンは見る見る顔を紅潮させ、汗をダラダラかきはじめ、

「え、あ、い、いやそのぉ……………………ま、まだ心の準備が(焦)」

ついには今にも泣き出しそうな顔になっている。

ロイは顎クイの手を引いて、彼女を貞操ピンチ状態から解放した。

「それみろ、俺の性格知っての誘惑だったんだろうが、その気もないくせに挑発するんじゃない」

「だ、だってだってぇぇ〜、私の種族は発情期があるんだよぉ〜、そろそろ子孫作んないと、って本能が働くんだよぉぉぉ〜!!」

さっきの泣き顔のまま頬を膨らませて不服顔のレアン。

ここまで言うと、急に自身の露出度高めの姿まで恥ずかしくなり、纏っていたマントで身体を覆い「うう〜」と、涙目で唸り声をあげている。

「そんな事より」

「?」

「頼んでいたモノ、持って来てくれてるんだろ?」

「うん、まあ…………………」

まだちょっと不満そうに、レアンはマントの裏側にポケットでもあるのか、それとも彼女らの種族特有の魔法なのか、そこから教会の聖典二つ分程の大きさの木箱を取り出した。 何か意味があるのか、凝った彫刻が施されたその箱は、それだけでそれなりの価値がありそうな、立派なモノであった。

ロイはそれを受け取ると、先日の銃撃戦のときよりも真剣な眼差しとなり、彼らしくもなく緊張した表情で、その箱の蓋をゆっくりと開けた。

「これが…………………」

ゴクリと生唾を飲み、その中に入っていたモノを取り出す。

それはまだ、この世界でありえない、彼にとっては未知の武器であった。

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