第6話 ビキニアーマーには(𝄑𝄑)とロマンが詰まっている!!

 アイにはその相手が一瞬、魔物の王のように見えた……………。

それも、

『バンッ、キュッ、ボンッ♡』

その出で立ちは、水着か下着にしか見えないビキニ、それも厚手のレザー生地で出来たビキニアーマーとか呼ばれる、むしろ全裸の方がまだ、エロさ加減がマシに思える衣装に、甲殻類生物の殻で出来た肩パッド、太ももの色気を演出するロングブーツに、何かの生物の皮マントを纏ったセクシー系美魔女王であった。

見た目は20歳過ぎくらいだろうか、魔王というには若すぎる。

肌はヴァンパイヤのように白いが、それに対して腰まで伸びた艶やかなストレートの黒髪は光沢を帯び、角度によっては光の反射で、わずかに赤くも青くも、紫にも見えて、実に美しい。 側頭部からは左右に湾曲してから後方に伸びる羊のような角と、同じく前髪の間から前方に伸びるユニコーンのような一本角、エルフのような長い耳の先端は少し毛が生え獣っぽく見えた。

もちろん表情も絶世の美女で、切れ長の目がセクシーさを更に増している。

魔力よりも催淫力の方が強そうな、サキュバスか淫魔の女王にしか見えないその人物に、アイは自らの内から湧き上がる、淫らな感情に顔を紅潮させた。

『おおおおお〜っ、ビ、ビ、ビ、ビキニアーマーだぁぁぁぁっ♡』

ゲーマー(年齢的に違法だが18禁がメイン)でもあるアイは、夢のビキニアーマーに興奮気味だったが、今は非常事態である危機意識は少なからずあった。

それはアイでなくても同様だろう。 にも関わらず、誰もこの闖入者に何の警戒も見せず、防御の姿勢も見せようとしなかった。 全員が呆然と立ち尽くし、人形のようになっている。

『もしや……………催淫の魔法? レベッカちゃんが危ないっ!!』

1人パニックになるアイ。 しかし実態の肉体もなければ体力も戦闘力も根性もない彼女に、何が出来るワケもなく、ただただ事態を傍観するしかなかった。

美魔女は妖しい笑みを浮かべ、護衛であるボルトやラッチ、他の衛士達には目もくれず、スタスタとレベッカの前に歩み寄ると、

「や〜ん、レベッカちゃ〜ん、久しぶりぃぃぃっ♡♡♡♡♡♡」

満面の笑みで抱きついた。

『……………………え?』

身長差のために、美魔女の胸に顔を押し付けられるレベッカは苦しそうにしている。 さらには胸の谷間に顔面をガッチリとホールドされ、ブンブンと振り回される様は、どこかレスリングの技で襲われているように見えた。

「いい加減にしろレアン。 レベッカが窒息しそうだ」

仮にもこの世界の賢者にして次期大司教候補である司祭のレベッカに対し、いくら知人でもさすがにこの対応は今更ながら不適切と判断したロイが、美魔女、レアンの頭にチョップを喰らわせた。 それによったレベッカは解放されたが、衛士達の冷たい視線が一斉にロイに向くものの、彼は平然としたものだった。

一方、パイオツプレスから解放されても、酸欠で顔を蒼白にしたレベッカがゲホゲホと言っているのを横目に、「いった〜い」と、魔王っぽいカッコのレアンは涙目で、口を尖らせ不服そうにしている。

『え、なになになに???????』

この状況でも事態を飲み込めないアイが、やはり間抜けな声をあげている。

『どゆことどゆこと??? みんな魔法で動けないんじゃ???』

『バカモノ』

今度はアイの脳天にヴォルのチョップがヒットし、

『いった〜い』

こっちも涙目で口を尖らせた。

『魔法などではない。 よく見てみろっ』

ヴォルにガッシリと頭を掴まれ、グリグリ辺りに視線を向けさせられる。

『痛い痛い痛い痛い痛いって、霊体だから痛くないハズだけどやっぱ痛いっ!!』

ワケの分からない抗議の声を上げつつ、無理やりながら辺りの様子を見ると、ロイとボルト以外の衛士連中どころか、見るからに真面目人間のラッチ隊長までもが、鼻の下を伸ばして情けない顔をしている。 どうやら突如現れた美魔女レアンの美貌に骨抜きになってしまっているだけのようだった。 

『や、やっぱ催淫の魔法じゃないですかぁぁぁ〜っ』

苦し紛れの文句を言うアイに、ヴォルは黙れとばかりに首筋に少し強めのチョップを入れて気絶させて、強制的に黙らせた。


 もはや説明の必要はないだろう、このセクシー魔王レアンもまた、先日ボルトが言っていた、レベッカが信用する人物の1人であり、その美貌ゆえに、街の男達のアイドルとなっている美魔女なのである。

宗教界において高位な立場の司祭と、傭兵と魔女がどう繋がるのか謎ではあるが、どうやら敵ではないのは確かなようで、レベッカも彼女を前に落ち着いた様子であった。 とはいえ、先ほどの胸の谷間で溺れたダメージは残っているようで、彼女とは少し距離を置いてロイのそばに避難しているのは、他の理由によるもののようであったが。


 その後、大聖堂奥にある客間に通されたロイとレアン。 神聖なる教会にはあまりに似つかわしくいな2人ではあったが、両者共それを別に気にするような様子はなく、それがまたボルトは気に入らなかった。

 ここの客間は信者の懺悔室の隣にあることもあって、大聖堂の奥でも、少し入り組んだ通路の先にあって、始めて来た者でも分かりにくい場所となっている。

アリア(すっかり忘れかけているかもしれないけど、レベッカのコト)、ロイ、レアンとボルト、ラッチの5人は入口に衛士を2人、見張りに立たせて今後の対策会議を始めた。

少し広めの客間にはソファーが数脚、レベッカは部屋の奥の一際豪華な一人掛けソファーに促され、申し訳なさそうな顔で渋々そこに座る。 それを見てレアンはその近くの椅子をズルズル引っ張って来て隣に置き、まるで映画を観に来たバカップルのように、レベッカにベッタリくっついて座った。

ロイとボルト、ラッチはそれぞれ部屋の隅で壁を背に立ち、室内ながら警戒を怠らないでいる様子。 それを見てアイは、つくづく男は損な生き物だなと思った。

「で、では、司祭様は先日も………………」

「ふむ、お守りしきれなかった事が我ながら情けない。 今回の一件が片付いた後にでも、我が命を持って償いを…………………」

「も、もういいってっ(焦)」

目を離すといつ自害しかねないボルトに、レベッカがハラハラしながら静止していると、

「ち、ちょ…………困りますっ」

「この部屋は今、アリア様がご使用中で……………」

部屋の前で見張りの2人が慌てた様子で、誰かを引き止めている声が聞こえた。

何事かとレベッカ達一同が、外の様子を気にしていると、見張りを押しのけるように、

「入るぞっ」

と、最低限の礼儀の声がけをしてから、3人の男達(?)が入って来た。

なぜ(?)かというと、3人中2人がスッポリ頭まで覆うフードで顔が隠れて見えず、男女どころか人間種なのか、街で見かけた異世界人かも分からない。

ただ、フード奥の眼光は殺気を帯びて鋭く、ジッとこちらを見据えている。

アイはレベッカの後ろにいたため、こっちが睨まれているような気がして、霊体のくせに漏らしそうな恐怖を感じたくらいであった。

そんな不審者を引き連れ前に出た60歳過ぎの白髪の男が、素人でも分かるくらいに殺気に満ちた目で、レベッカを見据えていた。

「クラブマン司祭」

男の名、アルバート・クラブマン司祭の名を呼ぶボルトの声は、気のせいか嫌悪を感じられた。 彼こそレベッカと同じく次期大司教候補の1人であるせいか、表向きは聖職者としての顔があるものの、レベッカに対しては裏の顔を見せることもしばしばであり、同じ司祭でありながら、すっかり敵対関係となってしまっている。

クラブマン司祭の方も、やはり敵意を隠す様子もなく、眉間に力を込めてさらに目つきを鋭くさせている。

その見る目は………………

『あ〜、今までの主犯、ゼッテーこいつだな』

と、アイでも分かるほどに悪意に満ちていた。

「聞きましたぞ、アリア司祭」

わざとらしくクラブマンは語り出した。

「いやはや、次期大司教候補でもあるアリア司祭が、まさか続けざまに暴漢にあうとは、警護は何をしていたのやら」

護衛のボルトにチクリと嫌味が突き刺さる。

顔には出さないが、直感だけはいいアイには分かるようで、

『効いてる効いてる』

と、他人事なのでニヤニヤしていた。

「そもそも、アリア司祭のような、まだ経験も何もない若い者が………………」

今度は嫌味の矛先をレベッカに向けるクラブマン。

「あなたのような若輩者が、どうやって司祭にまでなれたのやら、不思議でならない。 まさかとは思うが…………………」

他の教団関係者に色仕掛けでも使った、とでも言いたげな目で言いかけたが、それ以上は言わずに言葉を濁らせたために、余計そうだと言っているように聞こえる。 さすがにボルトとラッチは一瞬、眉間に皺を寄せたが、

「あ〜、ゴホンッ!!」

咄嗟にロイが咳払いで、両者に注意を促し、冷静さを取り戻したボルトとラッチは気まずそうに、そっぽを向いた。

ロイはクラブマンに、

「いやまあ、クラブマン司祭でも、冗談を言うんですねぇ? レベ………………じゃなかった、アリア司祭の幼児体型で、それは無理がありますよ」

と言って笑い、場を和まそうとするが、そうそうボルト達の怒りは収まらないかもしれない。 とはいえ、彼らの暴走を抑えることには成功したようであった。

「ふん、まあいい」

クラブマンのレベッカに対する嫁いびりの姑のような、ネチネチした嫌味は数分間もの間続いた。 これでも信者に対しては外面はよく、世間では立派な司祭と慕われてはいるのだが。

もはや敵意しか感じられないその態度にも、レベッカは黙って対応していた。

一方、そんなやりとりを見ていたノーマンは、

『ふむ………………』

何を思ったかクラブマン達の方を見つめながら、室内を壁沿いに歩いて一周し、元の場所に戻ってノーマンは、腕組みして意味ありげに笑顔を見せた。

『なるほど』

『何か分かったか?』

『ああ、あのクラブマンとかいう司祭だが…………』

『?』×3

『ヤツもレベッカと同じ、ゼロ・ドライバーのようだ』

『えっ???????????』×3

レベッカにもノーマンの声は聞こえたが、彼女もまたそれに気づいていたのであろう、表情に大きな変化はなかった。

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ゼロD/異世界で私は剣士で艦長で幼女で女王様だった? 京正載 @SW650

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