第8話 風呂場でピンチはヒロインの義務?

 その日の夜の事であった。 結局◯◯◯で◯◯◯な◯◯…………、つまり男女のアレコレな関係をするワケでもなく、赤面で膨れっ面のレアンを残し、部屋を後にしたロイは、特に目的もなく街をぶらついていると、

(…………何だか妙な違和感があるな?????)

不自然ながら、原因も分からない謎の圧迫感を感じた。

戦士としての鋭い感が、得体の知れないを感じていたが、それが何なのかが分からない。

辺りを見渡してみたが、街中が特に変わった様子は伺えない。

しかもそのが広域すぎて、その場から離れても違和感が全く消えそうになかった。

彼はまだ気がついていなかった。

この時、頭上の月が二つになっていた事に。


 一方、ホテルに残されたレアンの方はというと、を一歩手前で勇気を振り絞れなかったコトに頭を抱え、ベッドの上で悶々とした気持ちを抱えたままのたうち回っていた。

「あーもーっ、何であそこで躊躇っちゃうかなぁぁぁっ!!」

結局は何もできなかった自分に非がある事は分かっているものの、どうにも納得がいかない。 そんな気分のままで落ち着かなかったので、気分転換に風呂にでも入ろうと、部屋に設えられたバスルームに向かった。

脱ぐ必要ないだろうと思える水着と変わらない衣装を乱暴に脱ぎ捨て、バスタブにお湯を入れる。 一昔前は大釜で水を沸かしてからバスタブに入れる面倒さがあったものの、アリアレベッカが異世界から持ち帰った湯沸かし器の技術で、入浴がかなり楽になったものだと感動したのは何年前のことか、今ではこれが普通になってしまい、レベッカに会っても何の感謝の気持ちもわかない自分を恥じないどころか、そのことにも気がつきはしなかったが。

徐々に湯が溜まって行くバスタブの水面を眺めながら、ふとバスルームの大きな鏡に映る自分の裸体が目に入った。

「おーおー、誰だ誰だこの絶世の美女は、って私かぁ〜♡(照)」

言って赤面しつつ、鏡面に映った自身の裸体を眺め、腰をくねらせセクシーポーズをとったり、腕を前で組んで胸を持ち上げ谷間を強調してみたり、ウインクしたり投げキッスしたりと、色々と艶かしいような恥ずかしいようなコトをしてから、手を腰に当てて真正面から鏡の中の自分自身をマジマジと見据え、

「うん、見れば見るほどいい女じゃん!! この美貌でナイスバディ、しかも処女だってんだから、こんな美女、どこにもいないよ! 国宝もんだよ! 私がオトコだったら絶対レープしてるね。 鎖で繋いで地下室に監禁して、毎晩卑猥なコトしまくっちゃうよ、もうアレやコレや、も〜色々とイケないコトしちゃうね、いやホント、ってか、レープって具体的には何されるんだろ? 確か、まずはムリヤリ裸にされて…………………まあっ、酷いコトをするわねぇ………………」

普段から裸同然の姿をしている自分自身のコトを棚に上げ、想像を膨らませた。

「え、と、まずはを入れられて……………………うあっ、想像したら何かキモいなぁ。 それに血も出るらしいし痛そうだし、う〜ん、も〜一生処女でもいいや。 それからレープ犯によっては、お尻や口にも入れてくるとか何とか……………お尻の次に口に入れられるのって何かやだなぁ。 いやいや、口が先でもやなんだけどぉ!!」

見た目は美女なのに中身がスケベ親父の思考が残念なレアンは、自身の裸体を見ているうちにムラムラしてきたのか、妙な想像が頭に浮かんできた。

「ふっふっふっ、覚悟しなお嬢ちゃん→いやっ、許してぇぇっ→うるさいっ、ビシッ!!→きゃぁっ!」

頬を叩かれたようなリアクションをし、芝居掛かった仕草で床に崩折れる。

「ああ、このまま私は複数の男に代わる代わる犯されて、誰が親とも分からない子供を孕まされるんだわ。 そしてその子供を養うために夜の街角に立つようになって………………ああ、なんてかわいそうな私、シクシクシク………………」

悲劇のヒロイン症候群患者共通の特徴なのだろうか、異界にいるノーマンの部下の女性士官の中尉と同じようなコトを言っている。

いや、コッチの方が、彼女以上に過激な妄想が過ぎるど天然な部分まであった。

「そしてその後、悪い男に騙されてどこかに売り飛ばされるんだわ。 バラ肉100g銅貨1枚夕方の3割引シール付きで、って、私そんな安くないもんっ(怒)!!」

途中から思考が脱線しかけたところで、少し冷静になった。

まあ、そのおかげで、異変に気付けたのだが。

「…………誰?」

いつの間にか部屋の中に入っていた侵入者の気配を感じる。

バスルームの磨りガラス越しに見えた相手は何者なのか分からない。

少なくともロイやレベッカではないのは確かだった。

何故なら、この相手からは殺気が壁越しにも感じられたのだから。


(何だ、この感じは?)

ホテルから大聖堂に向かう道すがら、ロイは先ほどからの違和感が晴れるどころか、益々激しくなっていくのを感じていた。

最初に感じた圧迫感のような感覚は微々たるものであったが、今では確かな感覚として、押しつぶされるようなモノにまでなっている。

確実に何かが、もうすぐここで起ころうとしているが、その圧迫感の気配のようなものが、辺り一帯から感じられ過ぎて何が何やら分からないでいると、

「あの、もし……………、あなたは昼間、司祭様を襲った族を退けた方では?」

声をかけてきたのは、この街の住人であり、妙に腕の長い異界人であった。

彼もこの異様な雰囲気に気付いているのだろう、ロイと同じように落ち着かないような表情で、辺りを見渡している。 よく見れば、他にも同じように何事かとキョロキョロと視線を巡らしている住人が何人もいた。

「ああ、あんたも感じているのか、この妙な感覚を?」

「ええ、これは…………………この感じは、あのときと同じなんです。 いや、あのときよりも強いかもしれない……………………」

「あの…………とき?」

「我々が、この世界に転移してきたときの、その直前の感じです。 再び、どこかの異界と繋がる前兆かもしれません。 それももしかしたら、かなりの規模で異界の門が開くのかもしれない」

「っ?!」

異界と異界が繋がる、次元規模の空間湾曲。 人の体調に異変がでてもおかしくない。 この違和感、圧迫感の原因はそれなのか?

ロイは慌てて、大聖堂に走った。

このタイミングでこの異常現象と、敵対勢力のクラブマン司祭との接触。

カラクリは分からないが、ゼロ次元を知るクラブマンが関わっている可能性は否定できない。

「まさかとは思うが……………………」

レベッカの身に危険が迫っていると、彼の直感がそれを告げていた。


 大聖堂の前ではラッチの部下である衛士が2人、やはり得体のしれない違和感に、落ち着かない顔をしていたが、彼らが表に立っているところをみると、少なくとも中にいるレベッカは、とりあえずは無事なのだろう、多少ながら安堵することは出来たものの、まだ安心は出来ない。

事態が事態だけに、慌てながらも冷静に辺りの気配を探りながら、レベッカが宿泊している客間に向かったが、どうやらまださっきまで会議をしていた部屋にいるようだった。

「まあ、いたから心配はいらないだろうが………………」

そう思うと、少し落ち着いたのか、小走りから早足程度の歩調で先ほどの部屋に向かうと、部屋の前に立っていた2人の護衛の衛士が、心配そうに室内を気にしているようだった。

「何かあったか?」

「いえ、先ほどより妙な気配に我らも体調を……………いえ、それより司祭様もまた我らと同じように体調を崩しておられないか、どうにも気になりましたが、はたして中に入っていいものかと?」

「もしもの事があったらどうするっ! 躊躇うなっ!!」

らしくもなく声を荒げてから、部屋の中に飛び込んで行くロイ。

室内の様子は、先ほど別れた際と特に変わったところはないが、

「レベッカッ!!」

最奥のソファーの上で彼女は胸を押さえ、苦しそうに息を荒げていた。

「レベッカッ?」

「い、いえ、このくらい何ともありません。 それよりコレはもしかして…………………」

「ああ、どうやらこの近くで異界への門が開くみたいだ。 それも大規模な。 異界の未知の人種、あるいは未知の生物がなだれ込んでくるかも……………」

ロイが言いかけたその時、新たに知った顔が入ってきた。

「レアン?」

さっきホテルで別れたレアンが、珍しくも大人しく入ってきた。

何故か、いつもの騒がしさが微塵もない。

(何だこの違和感? いや、レアンが無口の段階でありえないのだが?)

それ以外にも、今の彼女は何かが違う気がする。

今の彼女の目からは、感情が感じ取れなかった。

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