第5話 猥談の後は少し真面目な話をしよう
猥談を言い足りず、少々消化不良気味ながらダイアナは報告を終え、渋々艦長室を後にした。
去り際には、いつの間にか気の合う仲となってしまったアマンダと、名残惜しそうにハグしようとしたが、実態のない彼女と触れ合うことが出来ず残念そうにしていたが、彼女らの正体に関しては何も聞かなかった。
それはノーマンに気を使ったというより、事情を聞くのが面倒だったからであろう。
ダイアナが去った後、入れ違いにアイとレベッカが半べそで帰ってきた。
「む、どうした?」
『どうしたどうしたぁ、知らない
『何で知ってるんです?』
『マ、マジかっ?』
『ウソですよ。 痛っ!! 何でぶつんですか?!』
『何かむかついた。 バツとしてお嫁さんに行けない身体にしてやろう』
半べそ状態のレベッカにアマンダは、不◯子に襲いかかるルパ◯のごとく、手の指をワナワナさせて、舌舐めずりして言った。
その様子を見て、
「ダイアナに感化されているな」
『そのうち脱ぎだすかもしれん』
ノーマンとヴォルは、別の不安を感じた。
そんな事よりも、
「そんな事よりも、どうかしたのか?」
とりあえずレベッカの貞操を守るためにも、話題を元に戻すことにした。
『は、はい、実はアイさんが、この宇宙船はどんな形をしているのか気になったみたいで…………………』
「それで?」
『だったら、外から見てみればいいんじゃないか、って言ったんですけど?』
「まさか、外に出たのか?」
『だ、だって私達、霊体だから空気なくても、どんなに寒くても平気だと思うじゃないですかぁ?』
涙と鼻水流しながら、アイが抗議の声をあげた。
『外に出た途端、すごいスピードで遠ざかって行くんだもん。 あっという間に見えないくらい遠くに行っちゃうしぃ、宇宙のど真ん中で置いてけぼりなんてヒドイですよぉぉぉ〜……………………』
「それはまた、随分と無茶をしたなぁ。 中から見るとこの船は止まっているように見えるかもしれないが、通常航行でもそれなりの速度で移動しているのだ。 走っている車の中から遠くの景色が動いていないように見えるのと同じだな。 このアスペンケイドでも時速3.4光秒(約100万㎞)で動いている。 すぐに視界から消えるのも当然………………いや、それでどうやって戻ってこれたんだ?」
『え? レベッカちゃんがゼロ次元通れば、距離とか早さとか関係ないからって、一度あの空間を通ってから戻って来ましたけど?』
「ほう………………」
ノーマンはチラリとヴォルに目配せした。
ヴォルはうなずき、
『あの次元には、そう簡単に行けるのか?』
『え、あ、ああ、うん、慌てたら、偶然にも…………………』
聞かれたレベッカは、しどろもどろに答えたが、
『どしたのレベッカちゃん。 正体バレそうになったときのコ◯ン君みたい?』
的を射た意見を言っていながら、それにも気づいていないアイに、
『いや、誰だよソレ?』×4
全員のツッコミで、妙に話の腰が折られてしまった。
「まあ、ともかく戻ってこれて何よりだ。 で、戻るときに船を外から見たんだろう? この船のデザインについてのご感想は?」
『超カッコ悪いです』
「まあ輸送艦だからな」
『宇宙船っていうから、アン◯ロメダとかホワイト◯ースとかマ◯ロスとかイメージしてたのに、まさかの潜水艦にコンテナくっつけたみたいな、ダサダサなデザインなんだもん。 ム◯イの方がまだマシ。 あ、でも私的に一番カッコいいと思うのは、アンド◯メダ級3番艦アポロ◯ームかノイ・バ◯グレイ♡』
「いや、知らんって!」
色違いのほぼ同一デザイン艦に惚れ惚れするアイの表情は、まさに恋する乙女のようであった。
謎なオタクの思考パターンは、普通の人には理解不能なのである。
意味不明展開に、さすがに飽き飽きしてヴォルは話題を切り替えた。
『それよりも、とりあえず状況を再確認しよう。 まず問題なのは、さっきの少尉の話でも分かるように、あの-Q-が、この世界に来ているかもしれない、ということだ。 ヤツに比べれば、爆弾犯など脅威でも何でもない』
「確かに。 あの-Q-が我らと敵対した場合、我らだけではなく人類が全滅する事さえ有り得るだろうな」
『ダイアナが見たのは、本当にヤツなのか?』
『恐らくな。 我らも資料でしか見ていないが、少尉から聞いたヤツの特徴と資料にあった姿とは酷似している』
「だが、何故数千年も封印されていたヤツが、何故今更動きだした? 偶然にしてもタイミングが良すぎるだろう?」
『それに我らを追って来る必要が、どこにあるというのだ?』
………………と、謎の会話を始めた3人に、置いてけぼりのアイとレベッカ。
『あのぉ〜、何の話ですぅ?』
『たたたた、大変じゃ……………え、何か驚いてみたけど、何か問題でもあるんですか???』
『うん。 とりあえず黙ってろ』
パニクっておきながら、急に我に返ったアイに、アマンダの冷たい一言が突き刺さる。 もはや死人であるアイには、死の恐怖というものがない、というより危機感というものが曖昧になってしまっているのだろう、なるほど、装備を気にせず宇宙に出ようとするわけだ。
「前のアマンダの世界から、追手かもしれない相手が来ているのだよ」
『え? じゃあゼロ…………え、と、ゼロドライバーでしたっけ? それって私達の仲間じゃないんですか?』
『アッチは霊体ではなく、実体で来れるんだよ』
『実体で次元移動って、それってまるでウ◯トラマン-ゼロじゃん!! あ、だからゼロドライバー?』
「いや、知らんが多分違うぞ」
『ま、まあいい。 問題はヤツが我らに敵対するかどうか、なのだ』
少し間を置き、アマンダがノーマンとヴォルに問い返した。
『ところで、ヤツの危険性はどのくらいなのだ? 私は科学とか専門外なのでな、おまえらの話がイマイチよく分からない』
「そうだな。 相手は未知の科学技術で作られたロボット兵器だ、アイとレベッカも聞いておいた方がいい。 アマンダの世界で見た資料通りのスペックならば、私の知る限りの武器、兵器の中では間違いなく最強だ」
『チートキャラって事ですか?』
「そんな生易しいモノじゃない。 超次元変換システム搭載機兵、その名の示す通り次元そのものを操る能力を有している、つまりヤツの外装全てが異次元、あるいは任意の空間に通じさせることが出来るのだ」
『?』
「普通の防御は装甲など硬質な外装で守るといった、力任せ的なものだが、この超次元変換システムは外部からの物理干渉を他に流すといったものだ。 例えばヤツ、仮称では-Q-と呼ばれるこの相手に、銃でもビームでも剣でも、何らかの攻撃を仕掛けても、攻撃そのものを外装の次元を操る力で異次元に流す事が出来る。 もちろん任意の場所に流すこともできるので、攻撃を仕掛けた側に返すことも容易い。 場合によっては仕掛けた側の体内に返すこともな」
『えええ、て、ことは鉄砲で撃つとその弾がこっちのお腹の中に命中するかも、ってコト?』
『銃弾だけではない。 刀で斬ろうとしても、こちらがバッサリ、なんてこともある。 しかも…………………』
ノーマンの話をヴォルが続け、チラリとレベッカの方を見て、
『それは実在する武器だけではない。 例えばありえないが、魔法とか呪法、あるいは超能力、などといった非科学的なモノも、攻撃手段とした場合、必ず攻撃側が相手に向かい行使するワケだが、-Q-は空間自体制御するので、ソレらさえ攻撃を無効化、もしくは攻撃方向を制御できてしまうのだよ』
『む、む、む、無敵じゃないですかぁぁぁっ!!』
「だから最初からそう言っているだろ」
もちろん-Q-同様、次元変換で-Q-の内側に仕掛ける方法もあるかもしれないが、当然ながら-Q-本人も次元を操れるため、それを防御する設定はされている。
『さらに問題なのは、ヤツの攻撃手段だ。 資料では伸縮自在の触手のような武器が背後に4本あり、それ自体も次元制御機能がある。 この触手はもちろんだが、ヤツに触れられただけでも、その部分が分子レベル、あついは空間レベルで強制的に異次元に飛ばされてしまうのだ』
『す、すみません、途中から意味が分からなくなったんですけど?』
「つまりだ、この-Q-という敵、いや、まだ敵と決まったわけではないが、-Q-の攻撃で破壊できないものは、絶対この世に存在しないということになる。 もちろん霊体でも例外ではない。 その霊体としての身体の一部が、空間レベルで無理矢理本体から引き剥がされ、別次元に持っていかれてしまう。 すなわちヤツに攻撃されたら幽霊でもダメージを受けてしまう、というわけだ」
『ちょちょちょ、ちょっと脅かさないでくださいよぉぉぉ』
「攻撃を受ければ、の話だ。 さっきも言ったように、-Q-が敵になると決まったワケではない」
『しかし、でなければ、何故ヤツはここに現れた? 復活が偶然だったとしても、無数にある異世界の、こんな宇宙の彼方での遭遇などありえない。 やはり我らを追って来た、と考えるべきだろう?』
ヴォルは武人として、-Q-と最悪の邂逅を想定してしまうようだ。
もしも-Q-に攻撃の意思があるのなら、もっと早くに仕掛けて来ているハズなのだが、そうしないコトが、かえって気になってしまう。
「ヤツの、-Q-の真意が分からない…………………」
色々と話し合ってはみても、結局は何も分からない。
するとそこへ、副艦長アンドリューからの通信が届いた。
《対消滅エンジンへのチャージ完了しました。 超光速航行まで後10分です》
「分かった。 艦内各所にも通達頼む」
《了解しました》
無駄な会話なく通達を終えると、ノーマンは少し背筋を伸ばし、
「とりあえず一段落だ。 分からない事を言い合っても仕方ない。 続きはワープアウトの後にしよう」
『うむ。 ところで、対消滅エンジンとは何だ? この時代の動力装置か?』
-Q-に対する謎ばかり話し合っていたせいか、あまり耳にしない単語にヴォルの知的好奇心が湧いてきた。
ふと、レベッカの方を見ると、彼女も興味深そうに見ている。
今までに怪しい素振りはあったものの、こういった未知の知識に対する興味は抑えきれないようだ。
「対消滅エンジンとは、いわゆる反物質を使った機関だ」
普通、物質は原子核を構成する陽子の電荷はプラス、電子はマイナスであるが、その電荷が逆の性質を持つ物質が反物質である。
物質と反物質が衝突すると、お互いの質量をエネルギーに変換、つまり爆発するわけだが、物質なら全てが普通にもつ質量エネルギー量はとてつもない。
例えば1円玉1個分の質量の反物質があると、同量の物質と反応、つまり2gの質量エネルギーが放出されるわけだが、そのエネルギー量は約200兆
「我艦の動力炉は旧式でな、強力で不安定なエネルギーを確実に充填するのにはどうしても時間が………………、どうした?」
目を点にして聞き入る一同を代表し、ヴォルが答えた。
『いや、これからは軽い物質をなめないようにしようと思っただけだ』
恐るべし、1円玉のエネルギー。
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