第6話 でっけー!! (⊙o⊙)
しばらくして艦内に、超光速航行開始のカウントが開始される。
初めて体験するワープに、アイとレベッカだけではなく、武人として常に落ち着き払っているヴォルまでが、ソワソワする気持ちを隠せないでいた。
アマンダは、まあ意味が分からずいつもと変わらず、平然としている。
その様は、ベテランの宇宙船乗組員のようにも見えた。
《10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ワープッ!!》
同時、わずかな振動と加速によって後方に感性が働くが、それだけで、特に強烈なGに晒される、などというコトは無かった。
何気なく窓から外の様子を見るが、超光速の影響だろう、さっきまで見えていた星は一つも見えず、暗闇となっている、まるで照明のないトンネルの中を走っているような感じだった。
『な、何だか呆気ないですね』
「何を期待していたのか知らないが、ただの超空間移動だからな。 特別な何かがあるわけではないぞ」
『星が早い速度で流れて見えるものかと思ってました』
「それでは通常空間を光速を超えて移動することになる。 相対性理論でそれはありえないな」
『それ以上聞くなよ。 また話が難しくなる』
興味の尽きないレベッカにヴォルが釘を刺した。
不服顔のレベッカにノーマンは苦笑いで、
「まあ、私もそれ以上のコトは分からないから説明できないがな」
と、少々申し訳なさそうに言った。
艦内における体感時間はそう長くは感じなく、超光速航行はすぐに終わった。 光速を超えるために、圧縮された空間を移動するので、実際の時間はどれほどなのか曖昧ではあるが、ノーマンの説明によると一瞬だったようである。 その一瞬の間にアスペンケイドは、約1200光年の距離を移動し、今はさっきまで彼方に見えていたタランチュラ星雲の中にまで来ていた。
辺りにはさっきよりも無数の星々が煌めいていたが、アイ達の目に最初に映ったのは、真っ赤に燃えて輝く壁であった。
『なななななな、何ですかあれはぁぁぁぁっ?!』
壁………………いや、それは赤い恒星であった。
アイも映画やアニメで、太陽のような恒星の近くを宇宙船が飛ぶシーンなどを何度か見たことがある。 それをリアルで見ると腰を抜かしそうな迫力であった。
アマンダもさっきまでの余裕はどこへやら、驚いて白目をむいている。
『ちょっ、ち、近すぎじゃありませんか? 近過ぎて、もう星が丸いのかどうかも分かりませんよ』
「いや、そんなに近くでもないぞ。 確か星までおよそ5au(天文単位距離)あるからな」
『5…………天文単位距離???』
「ざっと太陽〜木星間くらいになる」
『????????』
「地球から太陽までの距離(約1.5億㎞)の約5倍」
『え〜と………………??????』
地球から見た太陽の大きさを思い出し、続いて目の前の赤い恒星の大きさを見比べてみて、
『いやいやいや』
『ないないない』
『またまたぁ〜、冗談きついですよぉ。 そんな距離でこの大きさなんて?』
地球にいて地球の大きさは誰もが知っている。
そして太陽は地球よりも遥かに巨大であることくらいは、ど天然娘であるアイでさえ学校の教科書で知ってはいる。
太陽の巨大さは、すでに人間の常識を超える大きさだと言うのに、ノーマンの信じ難い話に、その場の誰もが冗談と思ったのだが、
「この恒星は赤色巨星となって膨張中でな、少し前の資料では今の直径は約12億㎞だったか、光の早さでも端から端まで1時間以上かかる大きさだ」
ノーマンの説明に、再び一同は目を点にした。
ちなみに、オリオン座α星ベテルギウスもこの位の大きさになる。
「宇宙には割とあるぞ、このサイズの星は」
『こ、これからは、宇宙の大きさをなめないようにしよう』
そう思うヴォル達であった。
恐るべし、宇宙スケール!!
ワープアウトの後は、再び通常航行に戻る。
アイの時代から見れば桁違いの速度とはいえ、超光速航行の後では止まっているも同然だろう、窓の外の宇宙での景色に変化がないだけに、余計にそう感じてしまう。
さすがにヴォルも暇を持て余したか、進歩したノーマンの世界の見学と称し、アイ達と一緒に艦内散策に出かけることにした。
アイ達にしてみれば3回目ではなるが、目の前の巨星をもっと見たいコトもあって、さっきよりも意気揚々としている。
4人を見送った後、1人艦長室に残ったノーマンが、今回のアスペンケイドの本来の目的であった、特別な荷物の資料の内容を確認していると、
「ようやく2人だけになれたな………………」
自分以外誰もいないはずの室内で、背後から声がした。
驚き、無意識に机の上にあった拳銃を手にするが、すぐにそれが無意味なことに気づいた。 この相手にはいかなる武器も通じない事を知っているのだから。
「拳銃はいい。 何せ
「………………………」
「その点、ミサイルも大型ビーム兵器も、安全装置に制御装置、目標の設定など色々と面倒だ」
「……………………?」
「ああ、気にしないでくれ。 ただの独り言だ」
「わざわざ異世界まで来て、この私に何か用があるのか?」
「数千年ぶりに話しの通じそうな相手に出会ったのだ、少しくらい付き合ってくれてもいいだろ?」
拳銃を机に戻し、ノーマンはゆっくり振り返った。
そこには、黒い鎧のような外殻に覆われた、ロボットともアンドロイドとも、あるいは鎧を纏った戦士とも見える大男が立っていた。
その姿は、あの資料にあった「超次元変換システム搭載機兵」に間違いない。
「君のことは何と呼べばいい?」
「好きに呼んでくれ」
「では、とりあえず仮称となっている-Q-、でいいか?」
特に気にはしていないのだろう、-Q-は黙って頷いた。
「Qよ、千年以上もの封印を破ってまでして私に何の話がある?」
「封印か。 あんなものはいつでも解けたが、特に施設を出る理由もなかったのでね。 君達があの世界に来たのを機会に、気まぐれで出て来たのだ」
「いつでも? では何故、千年も?」
「君達人間で言えば、昼寝のようなものだ。 私もあの施設にいたあのアンドロイドも、無限に近い寿命を持っている。 それこそ星のように長い寿命がね」
そう言われ、ノーマンはアマンダの世界にいた、あのチェア足のアンドロイドの事を思い出した。
「星の寿命を人間の尺度で見てはいけない…………君の言葉だったと思うが?」
「返す言葉もないな。 それで、私達に何か興味深いものでも?」
「私の創造主、設計した科学者と言った方が正しいか? 彼は面白い考え方をする男でな、人間はコンピューターのようなものだ、と言っていた」
「コンピューター……………? そこまで知的な生物とも思えないがな」
「彼の考えはこうだ。 人間の肉体はハードウェア、脳は記憶デバイスやCPU、そして魂はOSだと言っていた。 そして肉体の死後、OSである魂は、何らかの方法で別の世界、別の時間、別の肉体に転生とよばれる形でインストールされるのだとな」
「それで私達を見た君は、私達がインストール前のOSではと思ったと?」
「いいや、創造主の想像は想像に過ぎん。 言っておくがダジャレではないぞ」
「思ってない思ってない」
(ダイアナの言った通り、意外といいヤツかもしれんな?)
「気まぐれと言ったろう? ただ他の世界を見てみたかっただけだ。 君には一応、挨拶も兼ねてここに来たのだよ」
「………………………」
「信じてはもらえないようだな。 無理もない。 君達から見れば私は殺戮兵器だ。 その為に作られた」
「すまない。 さすがに今は何とも言えないのでね。 それで、これからどうするつもりだい?」
「しばらくは様々な世界を旅してみるつもりだ。 ここに来るまでにも、いくつかの世界を巡って来た。 コレクションも増えた」
「コレクション?」
「異世界のテクノロジーで作られたアイテムや、他には武器等だな」
「武器を?」
「根が殺戮兵器なのでね、様々な世界の武器を集めて来た。 とは言え、さっきも言ったように大型の武器は使用のための再設定が色々と面倒だ。 使用直後の状態で私が作った特別な空間、君達のいうゼロ次元を擬似的に作り、そこに封印した。 ああ、心配はしないでくれ。 集める際には、誰も殺めてはいない」
「最強兵器である君に、武器が必要なのか?」
「心配性なのでね。 身を守る武器は多い方がいい。 身を守ると言えば、彼女、君の部下の少尉は何者なんだい? 封印から出て初めて感じた感覚だ。 自身の防御能力には絶対の自信があったが、光学迷彩で姿を隠していた私が睨まれた瞬間に初めて感じた感覚………………これが恐怖というものなのか?」
その言葉には、逆にノーマンの方が困惑した。
確かにダイアナの普段からの行動には驚かされはするが、
「すまないが、本当に私にも分からない。 彼女は特別な何か、だという資料とかは見たことがないのだ。 身体検査でも、普通の女子のハズなのだがな?」
「君ほどの男だ。 その言葉に嘘はないだろう………………さて、話も一応はここまでにしておこう。 どうやら私の天敵が来たようだ」
言ってQは、ノーマンに軽く手を振り、背後に現れた黒い闇の中に消えていった。
その直後、艦長室の分厚い特殊合金製の扉が蹴破られて吹き飛び、反対側の壁にめりこんだ。
「かんちょーっ!!」
勢いよく室内に飛び込んで来たのは、やはりダイアナであった。
Qとの接触を察して救援に来たのか?
慌てて来たのだろう、額に汗を浮かべ肩で息をしている。
「艦長!!」
「少尉……………」
「艦長、た、大変です」
「?」
「さっき食堂の前を通ったらいい匂いが……………、今日の夕食はビーフシチューですよぉっ!!」
目をキラキラさせて言う彼女と、壁にめり込んだドアを交互に見て、
「ああ、そうかい………………………」
Qと会った事以上に、疲れがドッとでてきたのを感じた。
今の会話を聞いて、闇の中に消えたQもずっこけているかもしれない。
「それだけを言いに?」
「え、と……………何か他に大事な報告もあったような………………?」
ダイアナはしばし黙考し、ようやく思い出したように、
「ああ、そうそう。 思い出した。 艦長、敵襲です」
ダイアナが他人事のように気楽に言った刹那、彼女の背後の窓に閃光が光り、攻撃を受けた衝撃と振動が艦長室にも伝わって来た。
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