第4話 少尉お姉さんの過激な報告

 アイとレベッカが散歩に出かけてすぐ、艦長室に来客が来た。

今、室内にはノーマンの他にアマンダとヴォルもいるが、当然2人の姿は誰にも見えはしないので、艦長室にはノーマン1人の姿しかない。

「失礼します」

「入れ」

ノーマンに促され、入って来たのはダイアナであった。

彼女はやはり軍人らしく上官であるノーマンの前では、さっきまでとは別人のように真面目に背筋を伸ばし、直立姿勢で手を後ろに組んで、ハキハキとした口調で語り出した。

「ダイアナ・ウェザビー少尉、25歳、獅子座のO型、ラッキーカラーは青だけど好きな色はショッキングピンクで、スリーサイズと今日の下着の色は内緒で〜す」

語り出しこそ軍人っぽかったのに、後半では腰をひねらせた、色っぽい合コンでの自己紹介のようになっている。

まあ、この流れもいつものことなのだろう、ノーマンはため息交じりにこめかみを押さえつつ、「いいから……」と話の先を促すが、ダイアナは頬に両手を添えて恥ずかしそうに、

「ただいま彼氏募集中♡ 理想のタイプは目からビーム出たりロケットパンチとか撃てる人ぉ〜♡ キャーッ、恥ずかしぃ〜っ♡」

「それはもはや人間ではないな」

「でもってぇ、夜はベッドで私と変形合体とか〜、イヤーッ! もぉ〜何言わせるんですかぁ〜っ!!」

「気は済んだか? 猥談はもういいから、報告を聞こうか?」

こういったお色気ボケトークもいつものことなのだろう、それでもノーマンの対応に変化はなく、ダイアナは不満そうにブゥ〜とふてくされた。

「分かりましたぁ。 え〜と何の話でしたっけ? ああ、そうそう、不審者の件でしたね………………………」

虚空を見上げ、それこそ本当にメンドくさそうながら、

「イロイロと鎌を掛けてみたんですが、なかなか尻尾を見せませんね」

ダイアナはさっきまでとは別人のように、真剣な眼差しで言った。

「そうか…………………」

「見た目と違って、なかなかの堅物のようですね、トビー・ハンター軍曹」

その名を聞いて驚いたのは、さっき廊下でダイアナとの会話を聞いていたアマンダだった。

『えっ、あの男が?????』

『知っているのか?』

『ええ、さっき彼女と何やら会話してたな。 あれは相手の真意を計るための演技だったのか。 とてもそういう風には見えなかったが、そんな意図があったとは、あの女、ああ見えてなかなかの曲者だ』

ダイアナを知らないヴォルには事情が分からないが、おどけているように見えても、確かに目の前にいる彼女からは、ただならぬ覇気を感じられた。

そのただならぬ覇気を纏うダイアナは、話を続けた。

「こぉ〜んな絶世のセクシー美女である私がどんなに誘っても、全然身体を求めてこないんですよぉ。 失礼しちゃいますよねぇ(プンプン)」

『………………………………』(×2)

「せっかく買ったおニューの高級ブラとパンツが無駄になりましたよ。 高かったのになぁ〜」

『…………………………ただの変質者だったか?』

『………………………さ、さあな?』

シリアス展開と思われたが、まさかの猥談の続きだったと気恥ずかしい2人だったが、聞いているノーマンの表情は変わらない。

彼はジッとダイアナを見つめた。

「……………………………………あ、やっぱマジ報告、聞きます?」

さすがにこれ以上の冗談はマズいと思ったダイアナ。

「も、少し色っぽい話をしたかったんだけど………………いいんですか?」

「何がだい?」

聞き返すノーマンに、ダイアナは室内をぐるりと見渡し、

「軍関係の話になります。 ここには部外者が3人もいますが?」

その言葉にヴォルとアマンダは緊張した。

『っ?!』

『やはり私達が見えているのか? え、いや3人って……………???』

辺りを見渡したが、ここには霊体はヴォルとアマンダの2人しかいない。

ノーマンも彼女の言った意味を確認しようと、ダイアナの方を見ると、彼女はヴォル達とは違う、別の方、窓がある外の方を見て、

「ああ、気を利かせてくれたのか、去っていきました。 見た目の割にいいヤツなのかもしれません」

「誰か………………いたのか?」

「おそらく異界のロボットかアンドロイドですね。 光学迷彩で姿を隠していたようですが、艦長や……………」

ダイアナはヴォル達の方をチラリと見て、

「そちらのお友達の知り合いなのでは?」

『アンドロイド……………まさかヤツがここまで追って来たのか?』

ダイアナ本人に対してもそうだが、まさか前の世界で自分達を監視していたと思われる「超次元変換システム搭載機兵 仮称 - Q -」が、ここまで追って来ているかもしれないということに、ノーマン達3人は驚嘆した。

とはいえ、その-Q-はもうどこかに行ってしまったと、ダイアナは言っている。

人に見えない霊体である自分達でさえ見えない相手が、いなくなったからといっても見えない以上、実感はないが、だからといって何かができるわけでもない。

では、今、確認すべき事は…………、

『少尉、本当に君には我らが見えているのか?』

ヴォルは確認するように問いかけた。

「ええ、色黒なナイスガイ。 実態がないのが残念だわ」

ダイアナはヴォルにウィンクしてから、もう1人の霊体、アマンダの姿をマジマジと、特に胸元を見つめた。

するとダイアナは負けじと制服の胸元のファスナーを開け広げ、 胸の谷間を露わにアマンダの方に突き出すが、

「張り合うな張り合うな!!」

「………………………」

「どうした?」

「か、艦長はこ〜いうのが好みなんですかぁぁぁ〜っ?」

「何で泣きそうなんだ? そしてアマンダそっちは何で誇らしげなんだ?!」

僅差で負けて残念だったか、制服の胸元から覗き見える高級ブラジャーのレースが、どこか物悲しく見えた。

その様子と、あと2人の霊体仲間の顔を思い浮かべ、ヴォルは思った。

(女ってメンドくせ〜)

そんな風に思われているとも知らず、

『気にするな気にするな(笑)、私の仲間のエルフよりは大きいから」

「知らない相手と比較されても嬉しくない。 このオッパイお化けっ!!」

『オッパイお化けか。 女に対する最大のだ』

(褒め言葉なんだ?)

今は何を言っても無駄と黙っていたノーマンではあったが、

「でぇ、そろそろいいか?(怒)」

超新星の如く怒気の込もった、それでいてブラックホールの如く静かな声音の一言に、

「すみません」

『ごめんなさい』

お色気シスターズは暗黒星雲の如く静かになった。


「爆弾犯はコール・カルカーノ軍曹で〜す」

『重大な話なのに、随分と軽いな、オイッ!!』

艦長直々のセクシートーク中止命令が下ったせいか、ダイアナの調査報告も妙に無気力なものだった。

「なぜ、彼が犯人だと?」

「感っ!!」

『いいのかっ、それで?』

「それで証拠か証言は取れたのか?」

「セクハラ銃殺刑を理由に尋問室で尻に2〜3発蹴り入れたら、あっさり白状しました。 自室にも証拠が無数にあったのに、何故か私の隠し撮り写真が一枚もなかったのが、何より許せません」

「そこはいい」

「え〜っ!!」

「まあ、実行犯は彼で間違いないだろう」

「む、無視しないで下さい」

「そんな事より、問題は黒幕だな」

「そ、そんな事って、艦長ヒドイ…………………あ、すみません。 そんな真顔で睨まないで下さい、今度こそホントに真面目にやりますから。 あ、後の聴取は憲兵に任せてあります。 しかしながら……………」

「?」

「これも部下の不祥事………………、ここは直属の上官である私が責任を取って……………………脱ぎますっ!!」

「脱がんでいいっ」

「え〜っ、何でぇぇぇぇ〜っ?!」

「だから何が不満なんだ?」

ノーマンの気苦労を知り、ヴォルは誰にも聞こえないようなため息をついた。

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