第4章 15万光年彼方の攻防

第1話 SF作品の女性キャラの衣装は、なぜエロいのだろう?

『うん、こうなると思ってた』

『予想の範囲内だったな』

『ところでここって、どこですか?』

「ああ、間違いなく私の世界だな」

今までと同じく、落ち着いた口調で答えるノーマン。

今、彼らは謎の閉所にいた。

建造物のフレームと思しき金属支柱が張り巡らされ、そこに無数のパイプや電気配線、それらに繋がる大小謎の機械類。

どこかのビルの壁の向こう側か、最上階の機械室で整備をする電気工にでもなったかのような感じで、そのパイプや配線に取り囲まれるように床に寝そべり、目の前にある電気回路の基盤から伸びたコードを、手にしたニッパーで切断しようとしているところだった。

その基盤にはデジタルタイマーが表示されていて、カウントダウンをしている。

残り時間は58秒。

『え、と、あの〜、こういった場面って、よく刑事ドラマで見たような気がするんですけど…………………(汗)』

幽霊なのに汗だくになって言うアイに、

「ほう、珍しく勘が働くじゃないか。 見ての通り、時限爆弾の解除中だ」

ノーマンは感心したように言った。

『や、やっぱりーっ!!』

「ちなみにここは、私が乗艦している輸送艦の動力炉と制御室の間の空間でな、何者かが仕掛けた爆弾を発見したので、その解体中に君らと出会ってしまったというわけだ。 あのときは爆破解除に失敗して死んだのかと思ったが」

『いやいや、それより残り時間42秒………………、よくこの状態で2つの世界で平然としてられましたね?』

「転移前とタイマーの時間が変わってないから、レベッカがゼロ次元に時間の概念がないと言っていたのは本当のようだな」

『そそそそ、そんなコトよりどうするんですかぁ? もう残り30秒ですよ』

「心配せずとも、君はすでに死んでいるから、爆発しても問題ないだろ?」

『そっかぁ〜、安心したぁ〜』

『その代わり、宇宙のど真ん中で置いてきぼりですけどね』

レベッカの一言に、アイは再び、

『どどどーするんですかぁぁぁっ!!』

騒がしくなった。

落ち着きのない娘である、

「爆弾の解除は最後のコードを切れば終わりだ。 問題はどちらのコードを切るかだが…………………」

目の前の時限爆弾から赤と青のコードが見える。

どちらかを切れば爆発解除、もしくはトラップでドカン、といったベタすぎる状況である。

「占いによると、今日のラッキーカラーは赤だから、赤を切ろうかと思っていたところなのだが………………さて、問題は赤を切るべきか、それともラッキーカラーだからこそ、赤は切らずに残すべきなのではと迷っているところだ」

『迷っているところ申し訳ありません。 残り12秒です』

「そうだな…………、では赤を…………………」

意を決し、ノーマンはニッパーの刃先を赤のコードに添えると、

『あ…………………』

と、アイが何か躊躇うような声を漏らした。

「……………ふむ、そうか」

ノーマンは刃先を赤から青に変え、迷うコトなく青のコードを切断した。

「…………………………………………ふう〜」

爆発は解除された。

タイマーは残り6秒が表示されている。

『わりと残り時間に余裕がありましたね』

『普通、こーいった場面だと、残りコンマ数秒、ってのがセオリーなんだけど」

「助かったのに、文句を言うなよ」

なんだか不服そうなレベッカとアイに、ため息混じりに言うノーマン。

ヴォルの世界でもそうだったが、アイはは信じられそうだ。

とりあえず一安心している中、何故かアマンダただ1人だけが、さっきから一言も発せずに、プルプルと肩を震わせている。

『あ、やっぱ怖かったですか? もう爆発しませんから、安心して……………』

レベッカが気遣うように声をかけると、

『ライノォォォッ!!』

『あ、そっちの方が心配ですよね……………………』

せっかくの妹との再会を喜ぶ暇もなく、再び異世界に転移させられた運命を呪っていたのだった。


    ※※※※※※※※※※※※※※


 ノーマン達が爆弾解除に奮闘している頃、時間軸では同一でも別次元にある別の宇宙の、とある恒星系のある惑星。 地球のように人類が栄え、文明程度はアイの地球よりも進んでいるその星に向かって、小型の彗星が衝突コースで向かっていた。 直撃した場合、生命体全滅や文明崩壊、というほどではないものの、核兵器数発くらいのダメージは避けられない。

しかし、この星ではその天災に対する準備は出来ていた。

衛星軌道上に設置された迎撃衛星20機を直撃コースに集結させ、重粒子砲の砲口を、向かい来る彗星に対し照準を合わせ、一斉に発射させた。

迎え撃つ20発ものビーム。 その1発1発が、小さな都市くらいなら壊滅出来うる破壊力があった。 これだけの攻撃が当たれば、迫り来る彗星を塵に変えることも容易いことであろう。

惑星中の科学者や関係者が監視モニターで見守る中、命中までのカウントダウンが迫る。 そしてビームが彗星を破壊する………………………ハズであった。 

しかし………………何も起こらなかった。

迎撃も爆発も、もちろん惑星に彗星が命中することもなかった。

全員がモニターで見守る中、彗星とビーム、両方が空中に吸い込まれるように消失し、その後には、何もなかったかのような静寂しかなかった。


    ※※※※※※※※※※※※※※


 爆破を解除し、配管や配線をくぐって床を這いずりながら移動して、通路に繋がるハッチを開けて表に出ると、数十人の軍服を着た乗員達が、心配そうな顔でノーマンを出迎えた。

「か、艦長っ!」

「艦長ーっ!!」

「かんちょぉぉぉぉっ、よ、よくぞご無事でぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

新人からベテラン、ノーマンの娘くらいの年齢の若い女性乗員もいた。

全員が全員、ノーマンの無事な姿に感極まった顔をしている。

ノーマンはかなり部下に慕われていることが分かった。

「おまえら、持ち場を離れるなと言ったろう? もしも解体に失敗していたら巻き込まれていたぞ」

「そうは言われましても……………」

「申し訳ありません。 我らの爆弾解体の技術が未熟なために、艦長自らこのような危険な作業を…………………」

「仕方あるまい。 あんな古い設計の爆弾の解体など、対応マニュアルにもないだろうからな」

と、もしかしたら自らが犠牲になっていたかもしれないというのに、部下を気遣うノーマンの姿に、ヴォル達は感嘆した。

『素晴らしい人望だ。 彼は見た目通りの好人物だったようだな』

『まったくです。 ホント羨ましい………………』

『ん………羨ましい?』

『あ、いえ、何でもありません(焦)』

『???』

レベッカが思わず漏らした一言が気になった。

ノーマンを羨ましがるということは、彼女も人の上に立つ立場なのだろうか?

気になって聞こうとするが、

『ライノォォォ〜、すぐに、すぐに戻るからなぁぁぁぁ………………』

まだ立ち直れず絶叫しているアマンダがうるさくて、何だか聞きづらい。

いくら他の人間には見えないと言っても、ポロリ一歩手前で叫ぶ美女。

もし、彼女の姿が他の乗員達もに見えていたら、不審者なんてものじゃ済まないだろう、改めて考えると、自分達は今、とんでもない状況にいるのだなと感じられる。 レベッカにさっきの事を聞く気が失せ、何となくアイの方を見ると、

『う〜……………、何か違うぅぅ〜』

と、不満げにノーマンの部下達の姿を見渡していた。

『どうした?』

『何で、何で女性乗員の制服が普通なの………………?』

『?』

『特撮でもアニメでも、宇宙船の女性乗員とかヒロインって、決まって実用性ゼロで、ボディラインがセクシーなエロい衣装なのに?』

アイに対してはかけるべき言葉が思いつかず、とりあえず頭を張り倒して黙らせた。 


 一段落して、ノーマンは部下をそれぞれの部署に戻らせ、艦長室に戻った。

向かう途中の通路の長さから、かなり巨大な艦であることは伺える。

輸送艦とは聞いていたが、ヴォルが乗艦していた「ドレッド・ノート」と同等の大きさだろう。 艦名「アスペンケイド」と言ったか、何を輸送しているか気になるが、ヴォルのときも、最初は「ライコウ」の事を言わなかったのだから、異世界とはいえ、ヴォルには機密の可能性もあって聞くのを躊躇われた。


 艦長室は、思いの外質素だった。

机と簡易ベッド、最低限の着替えを入れられる小さなクローゼット。 他には机の上の通信用モニターを兼用されたパッド。 あとは彼より過去の文明しか知らないアイ達には理解不能な小物くらいしかない。

『うん、まあアーチャー船長の艦長室も狭かったし………………』

と、アイは謎の言葉を残して不満そうな顔をしていた。

ちなみにアーチャー艦長とは、アイのお気に入り特撮の「スタートレック」に出てくる、初期のエンタープライズ号の艦長のコトである。

5人はしばらく室内で休んでいたが、この世界で何をすればいいのか分からず、部屋にはノーマンとヴォルだけ残って、アイ達3人は艦内の散策に出かけた。

部屋に残ったノーマンとヴォルは、それぞれくつろぎながら状況を整理した。

『ところで、どう思う?』

「何がだい?」

『まあ、今のところ、この世界に来た理由に爆弾を仕掛けた犯人は何者なのかと、疑問だらけだが、とりあえずはレベッカについてだ。 俺にはどうも、さっきの一言が気になるんだが?』

「ああ、羨ましい、とか言ってたな。 彼女は向こうの世界で平民だと思っていたが、そうではないのかもな。 しかし私はそれとは別に、前のアマンダの世界で彼女が言った言葉の方が気になっている」

『それは?』

「あの-Q-と呼称される機兵のスペックを見たとき、彼女はわざわざ『架空の存在である魔法や呪法があっても…………』と言っていた。 確かにあの世界において魔法は科学で擬似的に作られたものだった。 当然実在はしない。 そんな分かりきったコトを付け加えて言う必要があっただろうか?」

『確かにな。 彼女は他の2人と違って頭のいい娘だ。 無意味な発言はしないだろう。 と、いうことは、まさか?』

「レベッカの世界では、異世界の存在は前々から知られていた。 あのゼロ次元においても、妙に落ち着いていた。 彼女はもっと他の世界も知っているのではないのか? 例えば………………………」

『まさか存在するというのか? 魔法がある異世界が?』

今まで共に異世界を旅した仲間に対し抱く不信感。

本当に彼女は何者なのか?

新たな謎に2人が戸惑いを感じているその頃、アイ、アマンダと艦内をうろついていたレベッカは、さっきアイが言っていた、アニメでの女性乗員のエロ衣装とはどんなモノなのかとしつこく質問し、「森○キ」という謎の名を知った。

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