第11話 ありえない世界の正体

『茶番???』

『ふむ、そうだ。 この世界の正体をハッキリさせよう』

『この世界の…………………正体?』

ノーマンの言葉に、全員が顔を見合わせた。

『ゲームの中に入ってしまったんじゃ?』

『半分正解と言ったハズだが』

『はぁ…………………?』

確かに、実在するわけのない魔法や魔王、ここに来るまで何度か遭遇したモンスター等々、普通に考えればありえない存在ばかりだ。

この世界で育ったアマンダも、前の世界でヴォルに憑依したことにより、自分の世界の常識が非常識であると知り、今は多少なりと戸惑っている。

その非常識の正体とはいったい?

一同が見守る中、ノーマンは平然と、

『ついてはアマンダ、すまないが身体を私に貸してもらえないかね?』

「はぁっ??? え? そ、それは……………………(赤面)」

さっきヴォルに貸すまではあまり意識しなかったが、アイの『揉み揉み』発言のせいで、思わず胸を押さえ、乙女っぽく恥じらってしまう。

アイの方を見ると、両手でモミモミする仕草でエロい笑みを見せていた。

もちろん、ノーマンの生真面目さは今までの行動で知ってはいたが、それでも男に身体を預けることには躊躇してしまう。

『この後の説明のためには、この世界でのリアルな肉体が必要なのでな』

「………………わ、分かった」

もはや違和感しか感じないこの世界の正体とは?

仲間を蘇生し、ライノの目を治しても、しばらくはこの違和感は拭えそうにはない。 そのためにも、そのモヤモヤをハッキリさせておきたい。

アマンダはノーマンに身体を預けることにした。

目を閉じ、そのまま両者の霊体が入れ替わると、同じ顔なのに、妙に落ち着いた雰囲気と貫禄が備わったように見えてくる。

「ふむ、なるほど。 確かにこの感覚は落ち着かないな」

アマンダとなったノーマンは、とりあえず掌を眺めながら言った。

すると、アイとレベッカが『ハイ、ハイ』と手を挙げ、

『次、私、私ぃ!』

『ずる〜い。 アイさん、この世界で一度入れ替わったじゃないですかぁ』

『ち、ちょっとだけだったもん。 じっくり、パイオツ揉み揉みしたいじゃん』

そんな両者のいかがわしい会話を横で聞いていて、アマンダは呆れるように、

『いや、おまえら女だろ? 元の世界で自分の乳でも触ってろや』

言うが、アイとレベッカはガクッと肩を落とし、床に両手をついて、

『揉み揉みしたくても、私にはそんな胸ないんですよぉ〜。 弟からもよく、姉ちゃんの胸、洗濯板〜、って言われてたんです! ところで洗濯板って何?』

『私ら貧乳の悩みなんて、誰にも分かりっこありません。 ペチャ胸女子に明るい未来なんて……………………う、う、うわ〜ん(泣)』

『泣くな、泣くな同志よ。 貧乳だってミミズだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ、友達なんだ………………あ、私は死んでるけど………………』

アイは、ギターを奏でるようなポーズをして、

『聴いてください、-貧乳のバラード- ♪あ〜あ〜、産まれた時から貧乳で、お胸の成長が◯◯な、◯◯な私が◯◯に◯◯でぇ〜……………♫』

と、何やら放送コードギリギリな歌を、目の幅涙を滝のように流しながら歌い始めた。

そんな虚しいのか情けないのか分からないセクハラ娘など無視し、

「では行くか」

と、アマンダ(中身ノーマン)は、アマンダならしないだろう両手を後ろにまわして背筋を伸ばし、悠然と、貫禄たっぷりに玉座の間の外に歩を進めた。


 アイ達4人の霊体を引き連れ、通路の真ん中をゆったりと歩くアマンダの姿のノーマン。 姿はアマンダでも明らかにさっきまでとは別人のようだ。

そういえば彼は、元の世界では宇宙船の艦長を務めていたとのこと。 その貫禄はやはりそこからくるのだろう。

「前にも言ったが、魔法というものは昔の作家が物語を執筆する上で、必要な御都合主義の設定として考え作り上げたものと私は解釈している。 アマンダ、この世界において魔法がなぜ存在し、使えると聞いている?」

『そ、そうだな、前にラハティやモーゼルから聞いた話だと、精霊とか神、あるいは魔物の魔力ちからの一端を借りるのだとか?』

曖昧な記憶を辿ってアマンダは説明した。

「その場合、その精霊や神にはどんなメリットがある? 魔法を使うことによる身体に対する反動は? そもそもどうやって使わせてもらう契約を結ぶ?」

『う、う〜ん…………………???』

「そもそも、そんな契約をどこまで信用していいものか? 使える能力に対する代価をラハティは失っているようには見えないな」

『ええと、で、では、なぜこの世界に魔法が存在するんだ?』

「考えてみれば簡単なコトだったよ」

ノーマンは通路のある一角に立ち止まると、前もって見つけていたのだろう、壁の模様に擬態させたプレートをスライドさせると、液晶10キーボタンが現れた。

「何のコトはない。 科学で魔法を作っていたのだ」

ノーマンは迷うことなくキーを操作した。

暗証コードを入力すると、すぐ横の隠し扉がスライドして開く。

しばらく使っていなかったのだろう、開くと同時、土埃が舞った。

その奥は真っ直ぐに伸びた通路となっていたが、壁面はこれまでのような石造りではなく、金属版を多用した近代的なものとなっている。

『パスワードはどこで知った』

問うヴォルに、ノーマンは黙って隠し扉の向こう側に繋がる通路脇に貼られた、かなり古びて一部朽ちかけたプラ板製の注意書きを指差した。

「非常時対応マニュアルだ。 さっき偵察したときに見つけた」

見るとそこには、故障時や事故の際の対応、他の非常出口、管理室への直通通話番号に並んで、この隠し扉を開く暗証コードも記されていた。

しかしヴォルがそれ以上に気になったのは、その注意書きとは別に、足元に貼られた金属板に記された文字だった。

聞いたことのない企業名の下に記されたのは、ここが作られた年号。

 -SINCE 4898-

『西暦………………4898年、だと?』

「驚いただろ? この中世期のような時代風景を作ったのは、我らよりすっと未来の技術者達だったのだ」


 通路を少し進むと、すぐに行き止まりとなった。

立つと床がせり上がり、そのまま上昇していく。

『エレベーター? 下には転移魔法(転送装置)があったのに?』

「こちらの方が前に作られたのだろう、これだけの規模の施設が数年で完成するとは思えないからな」

『え、と? と、ところでこれからどこに行くんですか?』

「ここの管理者の所だ。 空に偽装された上空に管理棟がある」

『じ、じゃあ、誰かいて、ずっとこの世界を見ていたってコトですか?』

「うむ……………まあな」

何故かノーマンはそこから先は言葉を濁した。


 上昇するエレベーターから、今までいた世界を一望することができた。

外からは光学迷彩で見えないが、中からはマジックミラーのようになっているのだろう、透明なガラスの筒の中を昇って行く感じであった。

エレベーターは、今まで空だと思われていた天井の中に吸い込まれて行く。

そのことから、この世界は巨大なドームの中に作られた偽りの世界であることが分かった。 ドームの層は分厚のだろう、しばらく何の景色も見えない暗い闇を通り抜けると、少しひらけた薄暗い部屋に到着した。

広さは先ほどの玉座の間と同じくらいではあったが、壁には奇妙な装飾の代わりに無数のモニターや、スイッチ類が敷きつめられるように並んでいる。

それはまるで宇宙船の艦橋か、アニメで見る秘密基地の司令室のようであった。

モニターには、アマンダが今まで旅した各地の様子が映し出されている。

ただ、それよりアイ達が気になったのは、その室内の中央に佇む人影であった。

見た感じはスーツ姿の初老の紳士である。

白髪混じりの黒髪を七三に分け、見るからに真面目なサラリーマン風だが、その彼の下半身は、人のそれではない。

腰から下には足がなく、代わりに一本の支柱が伸び、下は三方に別れて車輪が付いている、オフィスチェアのようになっていた。

チェア足の彼は、管理室に現れたアマンダに気づくと、

「ああ、困りますお客様。 ここは立ち入り禁止となっておりますので」

彼はここを管理するアンドロイドであり、その声はいかにも、といった感じの作られたマシンボイスであった。

「いやぁ、すまないすまない。 帰り道を間違えてしまったようだ。 まあ、ゲームをクリアした特典だと見逃してくれ」

「仕方ありませんね。 まあ、ここをクリアした方は、357年と6ヶ月ぶりですし、特別といたしましょう」

(…………………え?)

アイ達一同は一瞬我が耳を疑った。

『そんなに難易度の高いゲームだったのか?』

『た、たしかに、ここに辿り着けたヤツの噂は聞いたことねえが?』

『ゲーム画面とリアルの差かもしれませんね』

『こ、攻略本も売ってましたから(汗)』

アンドロイドには聞こえないだろうに、ヒソヒソと話すが、それぐらいのコトは気にならないのか、アマンダの中のヴォルは質問をした。

「ところで、ここでの生活は我らは数世代にも渡っている。 そのせいか、正確な歴史は曖昧になってしまってな? ここは何故作られ、過去に何があったのか教えてはもらえないか?」

その問いに、チェア足アンドロイドは失礼とばかりに一礼し、

「そうでしたか。 我ら機械はナノマシンによるメンテナンスさえあれば、無限に活動できますので時間経過に疎くなります。 そのため、皆さまへの配慮が不足していたのかもしれません。 分かりました。 かつてこの地球で何があったのか、この施設は何のために作られたのか、全てお話ししましょう」

言って、奥の大型モニターへとノーマンを促した。

映し出されたのは、夕日に照らされるドームの外の世界。

赤く照らされる大地は荒れ果て、どこか遠くの未開の惑星のようにも見える。

夕刻かと思われたが、紅い太陽は真上にあった。 それも異常に巨大になって。

「西暦4022年の事です。 突如太陽の中心核の核融合が活発となり膨張、徐々に巨星化していきました。 本来太陽の表面温度はおよそ6000℃ではありますが、巨星化に伴い温度は3600℃ほどに低下したものの、巨大化した分地球に近くなり、年々気温は上昇。 多くの動植物は絶滅、もはや地球には住めないとなった人々は、他の星系へと移住先を求め、宇宙に旅立って行きましたが、地球上全ての人間を運ぶことは出来ず、半数は地球に残らざるを得なくなったのです」

「なるほど、太陽が紅いのも、赤色巨星ほどではないものの、それに近い状態になってしまったからだな? で、残った者達はシェルターに避難した、と」

アンドロイドはコクリと頷き、

「はい。 ですがこういった惑星規模の非常事態は想定されていません。 すぐにシェルターは満杯となり、残った人々はここ、仮想体験遊戯施設『ホライゾン』へと避難したのです」

アマンダと初めて会った時、彼女はホライゾンという大陸に住んでいると言っていたのを、ノーマンは思い出した。 ホライゾンは大陸ではなく、施設の名前だったのだ。 今は仮想体験遊戯施設の機能により、偶然アイが以前遊んだゲーム内容を施設内に再現している、といったところだったのだろう。

しかし今まで誰もクリアで出来なかったので、リセットされず何年も経過してしまったのだ。 そして長らくの仮想体験がいつしか避難者達にはリアルな世界となってしまったに違いない。 

チェア足の話はさらに続いた。

「ここ、ホライゾンは施設面積約500万㎢の巨大ドームとなっております」

「オーストラリア大陸に迫る広さだが、そんな場所が地球上のどこに?」

「南半球太平洋洋上でございます。 太陽の巨星化以前より温暖化がすすみ、太平洋の20%は干上がっていました。 それにここは元々、宇宙開発及び軍事開発施設だったため、民意に反するまま建設されたのですが、4898年には民間娯楽施設へと払い下げられました。 元、軍事関係施設とあって造りは堅牢、退避場所としてはうってつけでした」

「その後は君達が施設の管理を?」

「かつてはここも人間のスタッフが管理しておりましたが、皆様すでにお亡くなりになり、私達アンドロイドや管理ロボットが引き継ぎました。 このドームに避難していたお客様も、長い避難生活の間に多くは亡くなられて、今現在ドーム内の生存者は3228名になっております」

「他のシェルターに避難した人々は今はどうしている?」

「かつての人間の管理者が通信を試みましたが、すでに全滅してしまっているようでございます。 幸い、このドーム内では自然環境を再現することにより、生存サイクルが可能になりましたが」

「途中出会った亜人種やモンスター、魔王も仮想体験施設の?」

「小石に偽装した投影装置が作り出したホログラムでございます」

「それにしてもリアルだったが」

「仮想ながら力場の操作で質量を設定されております。 さらに個々にAIが内臓されていますので、ホログラム自身、自分が作り物であることさえ知りません」

その話に、森で見たシュマイザーとラハティのやりとりを思い出した。

作られた命ながら、愛し合う事さえ出来るのか?

恐るべき技術力である。

ノーマンは最後にもう一つ、質問した。

「ちなみに、今は西暦何年になっている?」

「はい、今は西暦6296年でございます」


 ノーマンは身体をアマンダに返し、アイ達と見物がてら、ドームの上に出てみた。 太陽の巨星化のため、気温は数百℃に達するが、霊体なら影響はない。

視界の全てがドームに覆われており、いかにこの施設が巨大だったかを改めて知った。 先ほどのモニターに映された場所は、ずっと遠くのドーム外縁のカメラ画像だったのであろう。

今、ここにはアマンダは来ず、先ほどの管理室で小休止していた。

彼女にしてみれば、今まで信じていた世界が虚像と知ってしまって、気持ちを落ち着かせるためにも、多少の時間が必要だったのである。

ノーマン達はその間の暇つぶしだったのだが、

『………………………』

『どうした? 何か感じるのか?』

先ほどより、アイは再び挙動不審になっていた。

前のヴォルの世界でも、アイは空母の中で雷武ライコウの気配に戸惑っていた。

今回も何か妙な気配を感じているようで、落ち着きなく辺りをキョロキョロ見渡し、しかも、今にも漏らしそうな顔をしていた。

『い、いえ、さっきの部屋あたりから、刺すような視線っていうか、何だか誰かに見られているような気が………………………』

それはヴォルも感じていた。

これは……………殺気か?

いや……………………?

それより、誰にも見えないハズなのに誰が?

『…………………アマンダの所に戻ろう』

ノーマンが急ぎ気味に促した。

『アイの直感は信用できる。 視線を感じるというなら、何かいる可能性は考えられるだろう』

『そ、そうだな………………』

わずかな異世界見学を終え、アイ達はさきほどの管理室に戻った。


 ドームの天井をすり抜けて管理室に行くと、チェア足アンドロイドの好意で出されたソファーで、アマンダはくつろいでいた。

彼女を見つけるとノーマンは急いで、

『すまない、もう一度身体を貸してもらえるかな? 彼らにもう一つ聞くことがあった』

「え、あ、ああ……………」

ノーマンは急いでアマンダに憑依すると、

「ところで、もう一つ聞いていいかな?」

とチェア足に声をかけた。

「かつてここは、軍事開発施設と言ってたな?」

「はい。 当時は新兵器の実験もされていたと聞いておりますので、巨星化した太陽熱にも耐えられるほどの強度がございます」

「では、もしかして当時、作られていた兵器…………例えば戦闘用ロボットとか何かが残っているんじゃないか?」

「そうですね………………、そういえば試作された機体が一体だけ、当時の施設のどこかに封印されているそうです。 私は開発関係者ではありませんので、詳しくは知りませんが」

「封印?」

「はい、制作途中であまりに危険だとかで………………」

チェア足はパネルを操作し、古い資料を検索してモニターに表示させた。

それの内容を見て、アマンダの中のノーマンは、その超兵器、戦闘用ロボットの資料に恐怖した。

「これは…………この内容は事実なのか?」

「そのはずです。 当時の技術力なら理論上は可能かと?」

隣で見ていた霊体のヴォルとレベッカも、資料の情報が信じられなかった。

『こ、こんなものが一体でも実在したら、どんな戦局でもひっくり返るぞ。 通常兵器どころか核兵器も通じないんじゃないか?』

『それどころか、この世界でも架空の存在である魔法や呪法があっても、確実に無効化されてしまいます。 しかもこの兵器からの攻撃を防ぐ術もない』

モニターに表示されたその機能。

   超次元変換システム搭載機兵 仮称 - Q -

その前では、いかなる攻撃も無力化される。 

しかしそれは物理的防御ではない。

空間単位で外部からの干渉は全て別次元に流されてしまうのだ。

『え〜とぉ、つまり映画で、シン ウル◯ラマンがゼッ◯ンの攻撃を防いだのと同じ理屈ですか?』

『その映画を知らないが、多分そういうコトだろう』

アイの質問に適当に答えるノーマン。

そして理論上、このシステムによる攻撃で破壊できない物質はこの世に存在しない。 攻撃を受けた部分そのものが存在する世界から、別次元に強制的に持って行かれてしまうのである。 つまり実体のない霊体や精霊、攻撃が素通りするはずのスライムさえ致命的ダメージは避けられない。

攻撃、防御といった点においては、このシステムの前では、いわゆるチートスキルさえ、何の意味を成さないだろう。

何よりノーマンが気になったは、そのシステムの仕組みは、次元を操るといった点で自分達ゼロドライバーに相通じるものがあった。

『早々に立ち去った方がよさそうですね』

『で、でも、それでもアマンダさんはこの世界に残ることになるんですよね? 何だか私達だけ逃げるみたいじゃないですか…………………』

『………………………………………………』

『構わないさ』

『………………え?』

霊体側意識で答えたアマンダに、レベッカが驚きの声のあげた。

『もう1000年以上何もしてこなかったんだろ? 今さら何をしかけてくるんだ』

『で、ですが………………………………………………』

一拍おいてノーマンが、

『そうだな。 今は我らにはどうすることもできない。 そもそも兵器だからといって、攻撃してくるとは限らないだろう』

『はぁ………………………………』

『どうかしたのか?』

『い、いえ、何でもありません…………………』

何か気まずそうに、レベッカは急に黙り込んでしまった。

違和感を感じたが、彼女なりに考えのあってのことだろうと、

『そうだな。 とりあえず我らも下に戻ろう』

ノーマンはアイ達を促し、管理室を去って行った。


 エレベーターで城に戻り、玉座の間でライノの眼球と蘇生魔法の方法を確認、ライノを連れて一階に降りて、確認した蘇生魔法を実行すると、死んだはずのシュマイザー達3人は、小石に偽装された投影装置から復活、感動の再会、そしてラハティの治癒魔法でライノの目は元通りとなってハッピーエンド、どこからともなく謎のエンディング曲が流れてきた。

その曲をバックに、作り物の夕焼けの中、帰路につく勇者一行………………。

『ラストはあまりに呆気ないな』

『ゲーム制作陣も、後半には演出とか面倒になったんでしょうね』

『み、身もふたもない………………』

『ところで、アマンダさんはこれからどうするんです? 妹さんと一緒にこのまま暮らしていくんですよね?』

ライノの手を取り、歩いて帰るアマンダに、アイが声をかけた。

「そのつもりだ」

『管理室に戻って、ゲーム設定をリセットすることもできるんじゃないか? また、こんな不便で魔物のいる世界より、もっと気楽なゲーム世界にすることだって出来るだろうに?』

「いや、そんな気はないよ………………」

『ほう?』

「リセットしたら、ライノ達の記憶もなくなるし、別に設定されたキャラクターに生まれ変わってしまうかもしれないんだろ? それに、この世界の事実を知らない連中が、この施設内に3000人以上いるってのに、どう説明してやればいいか分からないしよ」

『確かに。 ではこのままでいいんだな?』

「ああ、この事実は私の胸の内に仕まっておくさ」

アマンダはアイ達4人の方を向いて、

「おまえらのおかげで助かった。 この礼は…………………………………」

言いかけたところで、またも全員の意識は暗転した。


 帰路につくアマンダ達を、管理室のモニターで見ていたチェア足のアンドロイドは、勇者一行ではなく、その少し上方の見えない何かを見上げながら言った。

「皆さん、ご武運を…………………はて? 私はいったい何を………………? ん?」

自らの言葉に疑問を感じた刹那、わずかな振動を感じた。

次の瞬間、施設の地面を突き破り、何者かが高速で上昇、ドームの天井に激突する直前、空間に渦巻く次元の穴……………、アンドロイドは見た事がなかったが、そうとしか表現のしようのない穴が出現し、高速飛翔体がそこに飛び込んで行った。

「あ、あれは……………まさか…………………?」

先ほど、アマンダに憑依したノーマンに聞かれて説明した、封印されたQと仮称される戦闘用機兵か?

チェア足は施設管理コンピューターを確認すると、全てのデータから- Q -に関する資料が消去されていた。

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