第9話 再スタートから一気に全滅しました

 この世界を知り尽くし、全ての敵やダンジョンの攻略法を知るアイのアドバイスのおかげで、先ほどのケルベロス戦もウソのように勝ってしまったアマンダ。

楽すぎて戦った相手が気の毒に思えてくるのを感じつつ、さらには地下1階もこれまたダンジョン内での移動そのものが時間の無駄に思えるくらいサクサクと進み、気がつけばこの階でのラスボスのヴァンパイヤも瞬殺してしまっていた。

途中、通路のど真ん中に「いかにも…………」といった感じの魔法陣があったが、アイの話ではこれも最下層へ直行させられる転移魔法トラップで、迂回ルートもアイは熟知している。 アイ自身、伊達にこのゲーム内で何度も死んでいないのである。

ヴァンパイヤを退治すると、すぐに地上に繋がる階段が出現した。

「みんな、待ってろっ! すぐに戻るからなっ!!」

(イヤまあ、一歩も状況進展していないと思うけど)

アイの心の声を知らず、助け出したライノを背負い階段を昇るアマンダは、決意を新たに戦意を向上させてしていた。

ここまでで一番長い階段を登りきると、例の大広間にはさっきまでなかったはず出口が出現し、そこからアマンダ達は出てきた。

「みんなっ!」

「戻ったか、アマンダッ?」

アマンダの声に応えたダイヤモンドバックの方を見ると、

「えっ?」

魔法陣で地下に飛ばされてかなり時間は経過しているのに、彼だけじゃなく他の二人、シュマイザーもラハティも、飛ばされる前と同じ位置で、同じような雰囲気で待っていた。 続いて戦っていたハズの相手方モンスターの方も見たが、こっちも同様、同じ場所、同じ数、同じ装備で立っている。

もちろん、かつての仲間、ザウアーと瓜二つのリザードマンの姿もあった。

訳が分からず、アマンダはチラリとアイの方を見ると、何故か『ほらね』、とでも言ったような顔をしている。

「ライノを見つけたのっ?」

「あ………………ああ」

アマンダに背負われた見覚えのある少女の顔を見て、駆け寄り心配そうに聞いてくるラハティに、アマンダは戸惑いを見せつつ答える。

アマンダは意識を霊体に切り替え、

『どどどど、どーいうコトだ???』

『あ〜、うん、話すと長くなるから、今はとりあえず戦ってください』

『聞くが、あれは、あそこにいるのは私の知っているザウアーなのか?』

『ええ〜と……………………、違うよ。 うん、あれもソックリさん』

『今の間は何だぁっ?!』

『と、とにかく気にしないで下さい』

『……………まあいい。 で、この相手とはどう戦うんだ。 今までの敵と同じく弱点とか戦い方とかあるんだろ?』

『いえ、普通にガチンコで戦ってください。 どうやりあっても結果のシナリオは決まってますんで』

『????????????』

『え、と、ちょっと言いにくいんですけで、アマンダさん以外、全員死にます』

「はぁっ?!(怒)」

思わず霊体から本体に戻って怒気のこもった声で答えた。

当然それはラハティにも聞こえ、

「ちょっ、何よっ!」

驚いた彼女にアマンダは、気まずそうに詫びのジェスチャーをしつつ、ずっと中二階から見ていたレベッカ達の方に戻って行くアイを見上げた。

「ったく…………………」

今までアイの言った通りの展開になってきているが、全滅するとか言われたら、そのシナリオ通りの結果にさせるわけにはいかない。

なに、前の広間でドラゴンを退治したこのパーティーなら、並みのモンスターなど敵ではないではないか。

「よし」

アイの鼻を明かしてやろうと、アマンダは弓を構えた。


 一方、レベッカ達の方に戻ってきたアイに、ヴォルが暇そうな顔で聞いた。

『で、いったい何がどうなってる? お前らが消えた後、連中はこっちも敵方もフリーズしたままだったぞ』

『そーですよぉ。 最初はどうなってるのか分からなくって見てたんですが、いくら待っても石像みたいに動かないから、私達退屈で退屈で死にそうでした』

『いや、おまえ、あちこちの壁すり抜けて遊んでたろ? 床でシンクロナイズドスイミングの真似事してたよな? 足とか上半身とかだけ出してポーズつけてたの見たぞ!』

ヴォルはともかく、レベッカはさほど暇ではなかったようだ。

(サムライ世界でもシンクロあるんだ)

妙なところに感心しつつ、アイは説明した。

『これって、私のいた世界のあるテレビゲームの内容と同じなんです』

『?』

アイはあまりに以前のコトなので、思い出したゲームのタイトルや内容は曖昧ではあったが、それでもおバカさんなりに覚えている内容と、今までの展開とはあまりに一致している。

ここまでくればもう間違いない。

アイ達はゲームの中、デジタル世界に転移してしまったのだと。

『待て待て。 前は俺の世界に飛ばされたのは分かるが、いくら何でも仮想世界、しかもゲームの中なんて、科学に疎い俺でもありえないと分かるぞ?』

『私の世界には、まだ皆さんのような技術はありませんけど、やっぱりその発想は無茶苦茶だと思います』

ヴォルもレベッカも、どうにも納得いかないようだ。

それにアイの推理が正しいのだとしたら、霊体であるアイ達までデジタル化したことになる。 それはあまりにありえない。

『う〜ん…………で、でもそうとしか? 漫画やアニメでは定番の展開だし?』

言い出したものの、いきなり話が行き詰まったところで、

『その考えは半分正解だよ』

今までどこに行っていたのか、天井をすり抜けノーマンが現れた。

『半分…………ですか?』

『ふむ。 ところで、そのゲーム通りなら、この後の展開はどうなる?』

『え、ああ、はい。 このゲームはプレイヤーが最初にキャラを設定して仲間を増やし、魔王を退治するゲームなんですけど、この後、アマンダさんのパーティーは、本来ゲームのプレイヤーであるアマンダさんと、囚われのヒロインのライノさん以外、全滅します』

『穏やかじゃないな』

『いえ、その心配はいりません。 この後……………………』

言いかけたその時、広間で動きがあった。

アマンダ達と相対する、ザウアーのソックリさん有するモンスター達が一斉に駆け出し、乱戦が始まった。

『おお〜っ!!』

戦いの様子を見つめるアイ達。

仮想空間の中のゲーム画面と分かれば、もはや映画でも観ている気分となる。

事実を知らないアマンダには真剣勝負だが、アイ達から見れば気楽なものだ。

巨大な剣を振り上げ、敵に突っ込んで行くシュマイザーに、ラハティの魔法によるサポートを受けてダイヤモンドバックが左方から仕掛ける。 アマンダはこの状況でもまだ眠ったままのライノを広間の一角に下ろして休ませ、シュマイザーの援護射撃をした。 今は戦いに集中せねば、と思いつつも、無意識に敵のリザードマンに目が行ってしまう。

アイは『ソックリさん』と言っていたが、どうしても他人の空似とは思えない。

(……………………)

どうしても恩師であるザウアーの顔が浮かんで、援護に身が入らなかった。

すると、

「きゃぁっ!!」

ダイヤモンドバックの援護に集中していたラハティが、背後からの攻撃を受け、血しぶきを上げた。

「っ?!」

悲鳴に驚き一同がそちらを向くと同時、切断されたラハティの頭部が宙を舞い、アマンダのすぐ足元に落下した。

ゴトッ、と硬い石の床にぶつかったラハティの生首がアマンダの足元までゴロゴロと転がり、信じられない、といった顔で驚嘆するアマンダを見上げていた。

「なっ!」

首をなくしたラハティの身体から血が噴水のように噴き出ている。

その後ろには、血が滴る剣を持った、表情が分からない筈の爬虫類顔ながら、明らかに笑みを浮かべるザウアーと同じ顔のリザードマンがいた。

「そ、そんな…………………」

そこから、アマンダ達の戦況が瓦解するのは、あっという間だった。

支援をなくしたダイヤモンドバックは、数匹の敵を何とか倒したものの、何者かの放った槍を胸に受けて絶命。 シュマイザーもアマンダの援護で残りの敵の殆どを倒したが、最後の1匹、ラハティの命を奪ったリザードマンを相手に苦戦していた。

(ど、どうして…………………)

アイはソックリさんだと言うが、どうにも納得いかなかった。

しかし、さっき絶命したラハティの最期の顔が頭から離れない。

弓を持つ手が震えていた。

その一瞬の集中が途切れたそのとき、

「っ!!」

シュマイザーの苦悶する声が聞こえた。

慌てて視線を戻すと、目の前のシュマイザーの背中を、貫く刀身が見えた。

「えっ?」

知らず知らず、声も震えてきた。

やっとライノを救い出せたのに、代わりに次々と仲間が散って行く。

ゆっくりくずおれるシュマイザーの向こうで、怪しい笑みを見せるリザードマン。

師に似たそのリザードマンの笑みも、すぐにその表情は消えた。

「うわああああああああっっっ!!」

もはや理性も何もない。

発狂したような声を上げ、アマンダが放った矢がリザードマンの頭部を貫いた。

表情が分からないハズの爬虫類顔だが、アイ達にもハッキリと分かるくらいにリザードマンは驚嘆した顔を見せてゆっくりと崩れるように後ろに倒れた。

「う……………嘘だ…………………」

声が震えているのが、本人にも分かった。

分かってはいても意識は出来なかった。

混乱しているのだろうと、俯瞰の位置で見ているノーマン達は理解した。

「うああああああああああああああっ!!!!!!!!」

ヴォルの世界でも信じられないような体験をしたハズのアマンダ。

そんな彼女が今まででも見せたことのない狼狽を見せている。

しかしそんなアマンダに対し、

『ああ、ご心配なく……………』

間の抜けた声で、アイが声をかけた。

「何だと………………」

離れていても声にかなり怒気がこもっているのがわかる。

アマンダの怒りで空気が変わってしまったような気配を感じ、レベッカは背筋に寒いものを感じたが、鈍感なのかアイは相変わらずの調子で、

『問題ありません。 すぐに生き返りますから』

と、他人事のように平然と言った。

「な、何?」

同じアマンダの「何」でも、こっちの「何」は、どこか希望のようなものが感じられた。

聞いていたノーマン達も、アイの話の続きを興味をもって待っている。

『シナリオ通りなら、最後にみんな助かる筋書きになってますから』

「そ、それで、この後はどうすればいい?」

地下ではアイの指示で何とか戻ってこれた。

もしかしたら、本当に助かるかもしれないと、淡い期待を抱けたのだった。

『ここの魔王を退治してください。 そうすれば全部解決です』

『イヤイヤ、それって難易度高くありません?』

ゲームを知らないレベッカでも分かる無茶に、余裕の笑みをアイは見せた。

どこか勝ち誇ったような雰囲気さえ見せて、

『ふっふっふっ、普通ならね。 でも、こっちはすでに、地下でそれに必要なアイテムをゲット済みです!』

アイはアマンダが地下2階で手に入れ、今は弓と一緒に背負っている最強アイテム「村正」を指差した。

事情はよく分からない。

だが今はアイの言う通りにしなくてはならないのだろう。

「みんなを生き返らせる。 そしてライノと一緒に帰るんだ」

魔王がどんな強敵であろうとも、進むと決意したアマンダに迷いはなかった。

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