第5話 童顔の隻眼は邪眼?魔眼?

『特別?』

『ああ、ライノはただの娘ではない』

思い出すように視線を上に向けて言うアマンダ。

何気なく魂の抜けと身体の方を見ると、さっきまでと同じように木陰に座ったままだ。 普通に幽体離脱をするとは、何気に器用な女である。

『あれはまだ、ライノが他人だった頃………………………………』

『ち、ちょっと待て? 他人? 妹じゃなかったのか?』

『いつ、ライノが私の実の妹だと言った?』

何を馬鹿な、といった顔でこちらを見るアマンダ。

ああ、こういう女なんだな、と納得し、

『いい、分かった。 話を続けてくれ』

無駄に疲れたように、ヴォルは話を促した。

『私達は元々、いわゆる冒険者だった。 私とシュマイザー、ダイヤモンドバックとラハティ、他にも旅の途中死んでしまったが、リザードマンのザウアーと魔法使いのモーゼルの6人でな。 ちなみにザウアーは私の弓の師で、ラハティはモーゼルから魔法を学んだ』

『…………………………………』

リザードマンに魔法使い? 普通なら頭がおかしくなりそうな話だ。

ノーマンとヴォルは真面目に聞くだけで恥ずかしくなってきたが、アマンダのその話が絵空事とか妄想ではないコトも分かっている。

今は常識の範囲の知識を無視しなくてはいけない。

『ライノと出会ったのは今から2年前のことだ。 その頃にはもう今の4人になっていたが…………………』

(いや、さっきのリザードマンと魔法使いの話って必要?)

突っ込みたいのはやまやまだが、そこはグッと堪えて話の続きを待つ。

『思い出すなぁ〜。 ザウアーは厳しい男でな…………………』

『いや、もうソコはいいからっ!!(×2)』

話が脱線しそうなのを制して続きを促す。

アマンダは思い出話をしたかったのか、少し不服そうな顔だったが、改めてライノと出会った頃の話を続けようとしたのだが、空気読めない娘2号のレベッカが、

『リザードマンと魔法使いの人はどうなったんですか?』

と、関係ないコトを聞いてきた。

余計なコトを言うのはアイだけと思っていたので、まさか彼女に話を中断されるとは思ってもいなかった。

『ん、ああ、二人は冒険の途中、事故と敵との戦いでな。 死んで二人とも石になってしまった』

『石????????』

アマンダの一言に、一同は混乱した。

さすがに今の話の内容は聞き流せない。

人が死んで石になるとはどういうことだ?

『えっ、Dr.ス◯ーン?』

何故か空を見上げ、昼間の月を見つけて緊張の表情を見せるアイを無視し、

『石になる、とは石像のように?』

真顔で聞くヴォルに、聞かれたアマンダは「やはり?」といった顔で、

『どうやら他の世界では、そんなコトはないようだな? この世界ではどのくらいいるのか分からないが、死後、小石になってしまう者がいてな、何者かに呪いの魔法を受けている、と言われているんだ』

『石像ではなく小石か? ホントに不思議な世界だな?』

次から次へと、非科学的というか非常識な現実に、ノーマン達は困惑顔を見せている一方で、脳の思考領域の70%がオタク思想に占められているアイにしてみれば、夢のような世界なのだが、それでも残り30%の常識人の部分が現実を見ようとして、

『やっぱりあるんじゃないですか、魔法』

オタク思想がやはり勝ってしまう。

『すまない、しばらく黙っててくれ』

『グスン……………(悲)』

『とにかく今は、ライノだったか? 妹さんの話を聞かせてくれ』

『ああ。 さっき言ったが私達は冒険者だった。 未開の土地を調べたり、前人未踏の洞窟に入ったりな………………………』

(ふむふむ)

『宝の地図を手掛かりに、廃城や沈没船を調べたり』

(それはトレジャーハンターだ)

『悪徳貴族の屋敷に忍び込んで、奪った財宝を貧民にばらまいたり』

(それは冒険者とな言わない)

『そんなある日のことだ。 私達がライノと出会ったのは』

それは冒険の途中、とある山の中を進む街道から数メートル離れた茂みの中で、屍肉でも啄ばんでいるのか、無数のカラスが群がっているのに気づいた。

しかし、襲われているのが子供と分かるや、アマンダ達は急いで助け出したものの、生きているのか死んでいるのかも分からないほど、彼女は憔悴しきっていた。

その少女、ライノは何日も食事を摂ってなかったのか、手足はガリガリにやせ細って骨と皮だけの状態。 腕どころか瞼を開けて目を開く力さえ残っていない。

『助けたはいいが、この後どうするかが問題だった』

『家に送り届けるのが普通だろ?』

『それじゃ面白くないだろ?』

(人助けで何を面白がる必要があるんだ?)

『対処その1、まずは普通に助ける』

(それ一択だろ!!)

『対処その2、奴隷商人に売り飛ばす』

(鬼かっ!!)

『対処その3、3枚のおろして夕食にする』

(その娘は人魚か何か???)

『2と3はダイヤモンドバックとシュマイザーに却下された』

(エロフは賛成だったのね?)

『まあ、冗談はさておき…………………』

(おいっ)×4

全員の突っ込みに気付かず、アマンダはライノとの思い出話を始めた。

瀕死状態で見つかったときは、もう助からないと思われたものの、成り行き(ジャンケンで負けた)で介抱役にされたアマンダの介護のおかげで、数日後には歩けるまでに回復したライノは、いつしかパーティーに馴染んでいった。 そして落ち着いた頃に、彼女からこれまでの経緯を聞いた。

ライノは元々、とある良家の娘であったが、ある日盗賊に押し入られ、家族も使用人も殺されてしまう。 命からがら逃げ出したものの、良家育ちのライノは一人で生きて行く術を知らないし、盗賊に追われている身であるため、人里に行って助けを求めるのも危険だったこともあり、今まで野山で野草や川の水で何とか今まで逃げてきたのだという。

『ううう、何て可哀想な……………(涙)』

妙に嘘泣きっぽく見えるレベッカの横で、アイは改めてアマンダの衣装のTバックのお尻を見て、

(ああ、良家育ちの浮世離れしただったから、あの衣装チョイスなのね)

と、納得した。

『その後、ライノも不慣れながら我らと冒険者として旅を続けていたのだが、冒険者などそう儲かる仕事でもない。 ある日、私の弓が壊れて困っていると、買い出しに出かけていたライノは、片目に包帯を巻いて帰って来たんだ』

『何があった?』

アマンダは思いつめたように一呼吸置いてから、背負っていた弓を手に持ち、

『ライノは自分の片目を、臓器屋に売って代わりにこの弓を買って来てくれたんだ』

(っ!!)

『臓器屋って、そんな物騒な職業があるんですか?』

『医療用移植臓器とかだろう。 我らではモラル上、考えづらいがな』

『私の世界では他に魔法の材料にも使われるコトもあるらしい。 ライノの眼は青く美しかったからな、高く売れたと、痛みに表情がひきつるのを誤魔化すように、無理に笑顔を作っていたよ』

『なぜ、そこまでして?』

『ライノなりに、私達の役に立ちたかったんだろうな。 急いで買い戻しに行ったが、すでに転売されてどうすることも出来なかった』

『転売された先を………………』

『分かってる。 私達もそうしようとしたさ。 だが、見つけられなかった。 臓器屋の話では、ライノの眼は特殊で、どこの誰とも分からない魔法使いが高値で買って行ったらしい』

『何と………………』

『その日の夜、ライノは目の痛みを声を殺して泣いていた。 私達に余計な心配をさせまいとな』

ライノの健気さに声が出なかったが、黙っていても仕方ない。

話を進めるため、ノーマンはもう一度話の続きを促した。

『ところで、眼が特殊とはどういうことだ?』

『ライノの眼は普段は薄い青色をしているんだが、魔法使いの間では魔力を貯める事ができる貴重なアイテムになっているらしい。 放っておくだけで徐々に魔力を貯めていき、青い色が濃くなって最後には漆黒になっていく。 そこまで濃くなると、使う魔法次第で一国を破壊できるほどの威力を発揮できるらしい。 その眼の名は何て言ったかな、大げさな名前が付いてたな、ディ…………ディ、何だっけ?』

『………………ディープ・アイ』

『そうそう、ディープ………………って、何で知ってんだ?』

その名を、ボソッ、と言ったアイに注目が集まった。

『………………え?』

『いや、だからこっちの世界での、その特殊な名を何で知ってるんだって?』

『え、と………………あれ、何で知ってんだろ???????』

自分で言っておきながら、何故その言葉が出て来たのか分からない。

記憶の中にあったのか、それとも彼女が死ぬ直前にも聞こえた、謎の声によるものなのかも。

『わ、分かんない。 何故だか頭に浮かんできて…………………』

アタフタしながら言うアイの様子を見て、

『むぅ、ここは前のヴォルの世界以上に謎だらけだ』

と、考え込んだが、分からないものは考えても仕方ない。

ノーマンはさらに話の先を促した。

『その後、しばらく旅を続けていると、妙な事が起こるようになった』

『?』

『私達の行く先々で、見ず知らずの相手から、何度も襲われるようになったんだ。 どうやらそれは、ライノを狙ったモノのようでな』

『明らかに彼女の眼が目的だろうな』

『そして、ある街に着いたその夜、とうとうライノは何者かに誘拐されてしまった』

『……………』

『私達は必死にライノを探し、誘拐した犯人を見つけ出したが、連中はライノの誘拐を依頼され、すでに引き渡された後だった』

『それで、主犯は?』

『この世界の魔王』

『魔王……………だと?』

魔王ヤツの名は“フリントロック”』

とうとうお約束の存在が出て来て、ノーマンとヴォルは頭を抱え込んだ。

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