第4話 ナイショのお・は・な・し

 異世界にも朝は来る。

アイの世界でもレベッカの世界でも、ノーマンやヴォルの世界でも同様の朝は来る。 このアマンダの世界の朝も、他の世界と変わりはなかった。

少なくとも、この場にいた全員にはそう見えた。

あの後、イケメンとエロフはどこまでのだろう?

一方は上も下も丸見え状態だったから、きっととこまでまでやったに違いないと、中身がおっさんのアイとレベッカは、朝までキャイキャイ騒いでいた。


 焚き火を囲み、一晩過ごした場所からほんの一時間ほど歩くと森を抜け、開けた平原に出た。 彼方には広大な山脈も見え、それまでに幾つか小さな森も見えるが、見渡す限りどこにも、

『町も村も見えんな』

『普通、これだけの土地があれば、人家の一つもありそうなものだが?』

誰に聞くわけではなく、ノーマンとヴォルは会話するが、それに答える者はいなかった。

この場にはノーマン達4人と、この世界でリアルな存在であるシュマイザー達と本来の身体に戻ったアマンダを合わせて8人いるが、シュマイザー達にはその声は聞こえないし、聞こえるハズのアイとレベッカはというと、

『や、やっぱ初めてのトキって痛いのかな?』

『出血する人もいますしね。 でも、そう思うと初夜って怖いですよね』

『やだ〜、将来結婚考えちゃうなぁ〜(赤面)』

と、昨夜のエロトークの続きに夢中だった。

将来も何も、死んでいてはどうしようもないだろうと、ヴォルはジト目でアイを見るが、それに気付くような娘ではない。

初めてナマで見るキスシーンに、今も興奮状態なのである。

仕方ないので女子二人を無視し、ヴォルとノーマンは改めて状況を整理した。

 まず、この世界について。

ここでは魔法や魔物が存在し、アマンダとゼロ次元で初めて会った時の話では、本気で聞いてなかったからよく覚えていないが、彼女達は魔王を退治しに向かう途中で……………………、

『いかん、いきなり状況整理につまづいた』

ヴォルもノーマンも、アイ達から見れば科学の進んだ未来世界の住人だ。

その未来世界の常識が、この非常識な世界の現実を否定してしまい、どうにも考えがまとまらない。

困り顔の二人に気付いたレベッカが、

『どうしたんですかぁ〜?』

『顔がニヤけているぞ』

『えへへへ…………………』

さすがにバツが悪かったのか、レベッカは赤面しながらも笑ってごまかした。

この歳で性に目覚めた彼女の将来が心配ではあるが、とりあえずは同じ状況に巻き込まれた間柄である。 それにゼロ次元で聞いた話では、彼女の世界では異世界、今流で言えばマルチバースに対する考えが進んでいるようだった。

もしかしたら、この非常識世界について、何か知っているかもしれない。

『え〜、魔法ですかぁ?』

『実に信じがたいが、この世界には魔法ソレが存在するようだ。 君はコレをどう思う?』

『はぁ、私の世界で聞いた、他のゼロ・ドライバー関係の話でも、さすがに魔法なんて聞かないですねぇ?』

『やはりそうか』

『やはりアマンダさんに、直接聞いたらどうですか?』

『うむ…………………………』

確かにそれが一番の解決策だろうが、失恋て傷心しているであろうアマンダには、どうにも話しかけづらい。

すると、今の会話が聞こえていたのだろう、エロトークにそろそろ飽きてきた空気の読めないアイが、トテトテと間抜けな歩調でアマンダに近づいていき、

『アマンダさ〜ん、ちょっといいですかぁ? この世界の魔法のコトとぉ、あ、ソレから昨日言ってたライノって人のコトを……………………』

   スパーン!!

言いかけたところでアイは、急いで駆け寄ってきたノーマンに後頭部を平手で張り倒された。

『痛ぁ〜い(涙)』

 

 それから数時間、延々と続く平原を真っ直ぐ進み、小高い丘の上で一同は小休止していた。

アマンダはその場にあった木にもたれかかり、

『で、何の話だっけ?』

シュマイザー達に気付かれないよう、意識を身体から離して頭の中でノーマン達に声をかけた。

シュマイザー達にはノーマン達の姿も見えず声も聞こえない。

ヴォルの世界では、ほとんど他の者達と行動することがなかったから、霊体同士で会話しても問題なかったが、今の状況で普通にアマンダがノーマン達と会話したら、シュマイザー達には奇怪に見えただろうと判断してのことだ。

意外と彼女は落ち着いているようだった。

『すまない。 君としては今は我らを、気にしている余裕はないだろうが?』

『何で?』

失恋を気に病んでいると思っていたが、気丈に振る舞っているのだろうか?

『いや何……………、そ、そうだな……………………』

少し躊躇いながらもノーマンは、ヴォルとレベッカに目配せし(アイは無視)、改めてこの世界についての疑問をぶつけた。

『確かに私は今まで特に疑問も持たず魔法と接してきた。 まあ、私は使えないがな』

アマンダは、この世界においてのというものを説明した。

なぜ、そのような不思議な力が存在するのかは不明。

あまりに普通に存在していたため、それに疑問を持つ者もいなかったのだろう。

ただ、昔からラハティのようなエルフや、魔法使いと呼ばれる者が各地に何人かいて、生活の中で活用されてきていたそうだ。

その魔法の内容も、昨夜ラハティが森の中で使ったような、灯りに使う程度の便利な生活魔法から、殺戮にも使える広域破壊魔法のようなものまで様々ある。

もちろん、強力な破壊魔法は使える者も少なく、ある程度の修行が必要だ。

その魔法の系統も、光や雷、炎に氷、水など、いかにも、といった具合で、ゲームやアニメ、ラノベで見聞きするようなモノばかりで、何か予想外のコトが聞けるのではと思っていたレベッカは、少し残念そうにしている。

結局、この程度の情報では、魔法の謎に迫ることは出来そうにない。

今の段階ではどうしようもないと諦めかけていると、

『そう言えば、ライノの事も聞きたがってたな?』

言ってアマンダは、聞いてきたアイの方を見た。

いきなり話を振られ、キョトンとした顔で自身を指差してアイは、さっきそれを聞いてなぜ殴られたのか分からず、ノーマンを警戒しながら、

『え、と……………、そうそう、ちょっと気になったコトがあって……………』

『ライノは私の妹だが………………』

『ええまあ、そうだろうとは思ってました』

特に興味はなかったが、ヴォル達も一応耳を傾けた。

姉にエロコスを勧めるような妹だ。 姉以上のド天然娘に違いない。

それに、昨夜のシュマイザー達の反応に も気になった。

彼らは何故、「ライノ」の名が出ただけで黙り込んでしまったのか?

きっと彼らにとってライノは、特別な存在だったのだろう…………………。

『私がこっちに来てすぐ、アマンダさんに憑依してしまったじゃないですかぁ。 あの時、妹さん、えっと、ライノさんですか? 彼女の顔が記憶の中で見えたんですけど、同じ人物なのに何故か別の顔も見えた気がするんですよぉ?』

『別の顔?』

意味が分からず、ヴォル達も顔を見合わせて話の続きを待った。

『憑依していた時間が短かったからかな? 見えた記憶が中途半端でよく思い出せないんですけど、何か違うような………………ええ〜と…………あ、そうか!』

『?』

『別の顔じゃなくって、普通の顔の状態と、何かな…………………、包帯?  包帯か何かで頭をグルグル巻きになって、治療されてた感じ…………………? うん、そうそう包帯だ。 片目の辺りに血が滲んで真っ赤になってたような気がするんですけど?』

『………………………ああ、そうだよ。 あの子は片目を失ったんだ』

何だか重苦しい雰囲気を感じ、ヴォル達はアマンダの言葉を待った。

『ライノの目は、特別だったんだ』


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