第2話 巨乳と貧乳、正義はどっちだ?

『えーとぉ????????』

アイの頭上で(?)が影分身をしている。

彼女ほどではないまでも、アマンダ以外の三人も同様だろう、それぞれ辺りを見渡したり、焚き火を囲む騎士達の様子を観察していた。

『ふむ、騎士はともかく、他の二人は空想上の種族だと思っていたのだが?』

『オレはこういうのに疎いが、こいつらはお伽話の中での存在だろ。 まさか実在するわけが……………………?』

『私のいた世界は、みなさんの世界に比べて原始的かもしれませんが、それでもこの世界観はありえませんよ』

各々、困惑顔をしている中、ただ一人、違った意味で困惑している者がいた。

『アマンダさん?』

「ああ、ホントにどうなってるんだろうな……………………」

ヴォルと身体を共有した経験から、他の世界の常識を知ってしまったアマンダである。

今までこれが普通だと思っていた、このファンタジー世界。

しかしそれは、他の世界の常識から見れば、ありえない非常識な世界なのだ。

今更ながら、自分自身とこの世界に対し、少なからず違和感を感じてしまっている。 無意識に仲間パーティーの面々の顔も、凝視してしまう。

その視線を感じてか、仮眠から目を覚ました銀ピカ鎧の騎士が、

「どうかしたか、アマンダ?」

と、問いかける。 それに対してアマンダは、

「い、いや、何でもない………シュマイザー」

顔を上げ、シュマイザーという名の騎士と目があったアマンダ。

思わず視線をそらせた彼女は、気のせいか赤面している。

このとき、アマンダと同じように騎士の方を見ていたアイは、もちろん相手にはアイの姿は見えていなかったが、その騎士と目があってしまった。 

『ズキューン!!!』

『どうした?』

『イケメンに心臓ハートを射抜かれました♡』

『撃たれたのか?』

ボケではなく、乙女心の分からないヴォルが心配そうに聞いてくる。

アイは呆けた顔を火照らせ、

『私、死んでもいい』

『安心してください。あなたはすでに死んでいます』

言ったレベッカは、どこか面倒くさそうだ。

身体を仰け反らせ『ヒデブッ!』と叫んだアイの悲鳴の意味は、あえて誰も聞かなかった。

そんなやりとりを気にするでもなく、アマンダは誤魔化すように、

「ついウトウトとしてしまった。 どのくらい寝てしまってたかな?」

「ん、何を言っている? まだ来て数分も経ってないぞ?」

「えっ、そうなのか? 何だか数時間は経ったような気がするが?」

ヴォルの世界で大きな戦闘を経験したばかりだ。 数時間は向こうの世界にいたハズなのにと、アマンダは思った。

『これもゼロ次元とかいうもののせいなのか?』

『おそらく。 あの空間では時間の概念もありませんから、ゼロ次元を経由して時間がリセットされたのでは?』

『待て待て。 オレの世界での時間はどうなる? 元の世界に戻れたとして、またムサシと一戦交えるコトになるのか?』

『いや、あっちの時間と出来事は、すでに我らが関わって確定している。 元の世界に戻れたら、あの段階の続きとなるだろう。 いくつもの次元で時間が並列的に進むのなら、今現在、あっちの世界では我らが艦の中を移動しているところだろうな』

『すみません。 やっぱ頭の中も死んでしまってるようです。 何言ってるか分かりません』

アイ一人が今の会話の内容が理解できないでいた。

いや、隣にいたアマンダにもさっぱり分からなかったが、どうやらヴォルの世界の心配はいらなさそうである。

『所詮我らは4次元世界の存在だ。 時間は未来にしか進まないからな』

『ふむ』

『そうですね』

『……………………………?』

「……………………………?」

分からないことをいくら思慮しても仕方ない。

そういうことなのだと判断し、頭を切り替えようとすると、

「まったく、いつ寝たかも分からないなんて、脳の栄養まで胸に持って行かれてしまってるんじゃないの」

静かに、それでいて低く、耳の奥によく響く綺麗な声。

コンサートのオペラ歌手を思わせる澄んだ声が毒のある一言を吐く。

その声の方に向くと、焚き火を挟んだ反対側、例のミニスカエルフが、暗い中、細い切れ長の目をこちらに向け、面白くなさそうな顔をしていた。

「ラハティ」

ミニスカエルフ、ラハティは嘆息し、

「昔っからそう。 アマンダは肝心なとこが抜けてるのよ」

「むっ!」

ラハティの一言に、ムッとした顔のアマンダ。

両者の間に目に見えない火花が散る。

『どう思います?』

『子供の時に聞いたお伽話では、エルフは知的な種族と聞いていたが、どうやらそれほどでもないようだ』

アイの問いに、何故かノーマンは肩をすくめて言った。

『と、言うと?』

『脳は糖分しか摂取しない。 つまり、脂肪の塊である胸に行くわけがない』

『いや、そーいうコトじゃなくって……………』

そう言えば以前、某有名原作のアニメで、死神と戦った世界的な天才探偵が、いつもケーキばかり食べていたのを、アイは思い出した。

頭脳労働には糖分が必要不可欠なのであろう。

一方、糖分不足らしいラハティとアマンダは、口喧嘩を始めだした。

「とにかくアマンダは……………」

「黙れっ、っ!!」

『何とっ(×2)』

アマンダが叫んだラハティへ一言に、何故か他人のアイとレベッカが反応した。

「い、言ったなこの牛女っ!」

「絶壁胸っ!」

「キィィィィィッ!!」

不毛な口論を続けるアマンダ達を、アイとレベッカはその二人の一方、何故かラハティの胸を凝視している。

鎧のような物は纏っておらず、服の上から胸の大凡のサイズは分かった。

続いて自分達の胸をペタペタと触って確認する。

アイとレベッカはお互いの顔を見合わせると、熱く握手を交わした。

『この世界にも仲間がいたっ!』

『はいっ。 私達は孤独な存在ではなかったんですね』

『何の話をしてるんだ?』

横目で問うヴォルの声は、聞こえないフリをして、アイ達は心の中で罵声を飛ばしあっているアマンダとラハティのうち、ラハティの方を応援した。

まさか仲間がラハティを応援しているとも知らず、アマンダはというと、

「あんたなんか◯◯◯◯◯が∀∀∀∀∀で×××××のくせにっ!」

「そっちこそ□□□□□に⏂⏂⏂⏂⏂の❋❋❋❋❋でしょっ!」

地上波なら確実に「ピー」が入るであろう、とても美人の口からでたとは思えない下品な言葉で、双方罵り合いをしていた。

その騒がしさに我慢できなかったのか、最後の一人のドワーフが、

「おまえら、いい加減にしろっ!!」

二人を睨み据え、まるで声優の大塚◯夫氏のような迫力のある声で叱責した。

その声にビビったのか、今まで言い争っていたアマンダ達は、二人並んでピシッと直立不動で硬直し、

「は、はいっ!」

「ごごご、ごめんなさいっ」

声を震わせ謝ってから、大人しく口を噤んだ。

「そもそもお前達はだな…………………」

両者を並ばせ、懇懇と説教を始めるドワーフ。

説教されているアマンダとラハティは聞いているフリをしながらも、ドワーフに見えないように、相手のスネを蹴飛ばしあっていた。

『やっぱエルフも、そんなに知的じゃありませんね』

『だろ』

『高貴なエルフのイメージがぁぁぁ〜…………………』

ファンタジー世界のイメージが崩壊する音を聞きながら、現実に落胆するアイのコトなど知るワケもなく、くどくどと説教するドワーフに、

「まあまあ、ダイヤモンドバックもそのくらいで許してやって下さい。 二人も反省しているようですし……………………」

シュマイザーが申し訳なさそうに言う。

ドワーフのダイヤモンドバックは嘆息し、

「シュマイザー、おまえさんは甘やかし過ぎなんだ」

「はは、すみません。 それにしても、二人とも何でそんなに仲が悪くなってしまったんだ? 昔は姉妹のように仲良しだったのに?」

問うシュマイザーに、二人は急に顔を真っ赤にしてそっぽを向いて、

「そ、そ、そ、そりゃぁ……………………」

「まぁ、その、ええ〜とぉ…………………」

と、気まずそうにしている。

「ホントに気づいてないのか?」

ダイヤモンドバックは、呆れ顔でシュマイザーを見て言った。

その様子を見て、

『あ〜、なるほど(×4)』

会ったばかりのアイ達にも事情はすぐ分かった。

「??????????」

当人であるシュマイザーただ一人、何も分かっていない様子だ。

異世界レベルのど天然娘アイでさえ、アマンダ達の気持ちは分からなくもない。

ただ、だからといって女同士が男巡って険悪になるのは、傍目に見ても気持ちいいものではない。

『巨乳と貧乳がイケメンで争うなんて、みっともない。 少しはシェ◯ルとラ◯カを見習えっての』

『誰だ、ソレ?』

『ア◯トは幸せ者だってコト』

『だから誰っ!?』

『〜♪』

説明が面倒なアイは名曲「ライオン」を鼻歌で歌った。

ただ、途中で曲調が怪しくなって、いつの間にか「愛、覚えてますか」に替わっていたが、VF1とVF25の区別がつかない彼女なら仕方のないことかもしれない。

まあ今は、そんなことは超時空レベルにどうでもいいことだろう、どうにもバツが悪く感じたラハティは、紅くなった顔をシュマイザーに見せないよう、

「ち、ちょっと、夜風に当たってくる………………」

狼狽えている自分を誤魔化すよう、一人、森の奥の方に歩いて行った。

彼女の姿が見えなくなると、ダイヤモンドバックは嘆息して、

「ああ、こんなとき、ライノがいてくれればな……………………」

思い出したように言うと、シュマイザーは表情を曇らせ、アマンダは悔しそうな顔をした。

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