第3章 ありえない世界

第1話 Tバックは絶対お尻(𝝎)に悪い!!

(…………………誰???)

気を失っていたのか寝ていたのか、霊体でありながらありえない体験をしたアイは、突如目の前に現れた少女に問いかけたが、声が出ない。

歳は見た感じ、10歳前後といったところか、肩までで切りそろえられた赤毛は少しウェーブがかった癖がある髪質。 背丈もこの年齢なら低い方に見える。

それよりこちらを見上げる顔は天使か妖精か、その愛らしい笑顔のあまりの眩しさに、彼女を直視できないアイではあるが、それ以上に気になったのは、本当に目の代わりに宝石でも入っているのではないかと思える、美しい青い瞳だった。

あまりの美しさに、脳裏に一人のイケメンが浮かんだアイは、人差し指と中指を絡め、「領域◯開・無◯空処!」と叫びそうになったほどだ。

(ホ、ホントに誰…………………あ、ラ…………ライノ???)

その名が、急に脳裏に浮かんだ。 浮かんだだけなのに、それが本当に彼女の名前であると分かった。 でも何故??????

(あ…………)

何もかもが頭の中に浮かんでくる。 

ライノが目の前に現れたのではない。

彼女のコトが記憶にある、夢の中にいるのだ。

さっき、何故か急に意識が暗転した後に、何かがあった。

そしてこの記憶の夢を見ているのは、

(アマンダさんだ)

目を覚まし、ふと、視線を落とす。

自分の胸元には、ついさっきまでは確かになかった、巨大な脂肪の塊が二つ、双丘をなしている。 それを理解すると同時、両肩に急激な負荷を感じた。

ちち、重っ!)

少し前に、ヴォルの身体にアマンダやノーマンが憑依したときのように、アイは今、アマンダの身体に憑依していたのである。

(な、なになに? 爆乳ってこんなキツイの? 将来、絶対に巨乳にだけはなりたくない! なれっこないけど………………)

少し虚しくなって落ち着いたか、改めて今の自分の状況を見つめ直す。

(やっぱ重い重い重い、パイオツ根元からちぎれるぅぅぅっ!)

女の夢、大きな胸になった感動などどこへやら、思いの他に胸元や肩にかかる負荷に心の中で悲鳴をあげた。

すると、

『どうだ、超貧乳娘から巨乳美女になった気分は?』

と、いつの間にか隣に来ていたアマンダ聞いた。

見ればアマンダはさっきまでと同じように半透明のままで、そのすぐ後ろでは、急に視界が暗転したことに、何事が起きたのかと辺りを見渡すヴォルとノーマン、レベッカの、やはり半透明な姿があった。

『超貧乳だけは余計です。 ってか無理無理無理っ、乳重すぎっ! でもってTバックはもっと無理! 脱いだら絶対ウン◯ついてるよっ!!』

『つ、つくかっ、バカ野郎っ! 私と代われっ!』

ちょっと赤面しているアマンダが叫ぶと、アイはアマンダの身体から弾き出されるように放り出されて地面に激突、さっきまでと同じ霊体の半透明な身体に戻り、アマンダはさっきまでのヴォルと同じように元の身体に戻った。

(ううう、巨乳ってこんな辛いのね。ブラしてたら肩紐喰い込んで肩の骨折れちゃうよ。 巨乳多い町のお医者さん大儲けだよ。 貧乳バンザイ!!)

などとぼやきつつ、アイの手は自分の胸ではなく尻をなでていた。

まだTバックの違和感が残っていて少々気持ち悪い。

海水浴でよく見かけるTバック水着のお姉さん達は、何でこんなの着て平気でいられるのだろうか???

(アレ? でも何でアマンダさんの身体に?) 

そう。 アマンダはヴォル世界の住人ではない。

さっきまでいた世界に実在しないハズなのだ。

と、いうコトは………………………、

『アマンダさんの身体があるってことは、もしかして?』

『そういうことだ、な』

同じ疑問をもったノーマン達は、残念そうな顔でアイに周りを見るよう促した。

言われ、改めて周囲に視線を巡らせるが、時間が夜でよく見えなかったせいで、すぐには周りの状況が分からなかった。 ただ、すぐ目の前で焚き火がたかれており、それを囲むようにアマンダの他に三人の人影は、暗闇の中で確認できた。

深夜に森の中でキャンプをしているところのようだ。

『まさか、ヴォルさんの世界から、またゼロ何とかのせいで、今度はアマンダさんの世界に……………………?』

『そのようだ。 その証拠に………………』

ノーマンが視線で、辺りをしめした。

アイは再びさっきの三人を見つめ直す。

ようやく暗さに慣れてきたアイの目にも、その三人の姿が確認できた。

『………………………え?』

その三人の姿にアイは我が目を疑った。

右端の一人は背丈はアマンダよりも少し高いくらいの長身の黒髪、20歳程の男性で、ちょっとアイ好みのイケメンは全身銀ピカの、中世ヨーロッパ風の鎧を纏っており、背中には身の丈ほどもある大剣を背負っている、映画かRPGのケームの中から飛び出して来た、騎士か勇者のような姿をしている。

ここがアイの世界での街中なら、ちょっとイタい人か、来る場所間違えたコミケのコスプレイヤーに間違われただろう。 最悪、銃刀法違反で警察のお世話になっていたかもしれない。

ただ、彼以上に問題なのは後の二人だった。

アマンダとは焚き火を挟んで反対側、三人の真ん中にいたのは、アイが今までの人生の中で見た美女ってナニ? と言いたくなるほどの絶世の超美女。 アマンダのそれよりも更に美しい金髪は、背中にまで伸びたストレートで、夜だからか色素が少ないのか、白髪のようにさえ見える。 そしてその髪以上にインパクトがあったのは、異様に伸びた耳は上部が尖っている。

アイの愛車ママチャリの名前の由来となった、某特撮映画に出てくるバル◯ン人ではない。

いわゆるエルフと呼ばれる種族だ。

彼女の体型にあった細い剣、レイピアを携えた腰に視線を向けると、

(やばいやばいやばい、パンツ見えるぅぅぅ!)

この世界観に近い中世ヨーロッパを舞台にした映画では、絶対見ないような超ミニスカからのぞく太ももに目がいってしまった。

改めて、時々自分の中身はおっさんなのではないかと思えてくる。

そんな自分が少し悲しいアイは、そのエルフ美女の隣、最後の一人を見た。

一瞬(子供?)と思うほど小柄ながら、手足は異様に太くて見るからに筋肉質で屈強そうに見える。 顔は下半分が質の悪そうな無精髭に覆われ、髪と髭の間からみえる顔は皺だらけで、見た感じは60歳くらいに見えた。 彼は自分のすぐ脇に置いた戦斧バトルアックスに肘を預けて休んでいる。

ただの小柄でマッチョな老人かもしれないが、今までの流れからして、

『ドワーフなの? え、ナ、ナニこれ? RPGのパーティー?』

勇者にエルフにドワーフって、いかにもって感じの構成メンバー。

下手なシナリオならクソゲーになってしまいそうだ。

しかし残念ながら、これはまともなRPGでもクソゲーでもない。

紛れもない現実であることは、ヴォルの世界での経験で分かった。

それにしても何故、

『いったい何がどうなったら、こんな世界になるの???』

ど天然おバカ娘のアイでも分かった。

こんなファンタジーな世界、絶対に存在するわけないのだ。

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