第9話 決着

「…………………ふっ」

『どうした?』

「いや、こんな事もあるんだな、と思ってな」

『?』

ヴォルはモニター越しにムサシの重写刀Sanemoriと、自機であるライコウの重写刀Douzigiriを交互に眺めた。 そのまま視線を前方に移す。

双方の重写刀のオリジナル、童子切と真守の作者は親子なのである。

『それで、勝てるのか?』

「さあな」

『そりゃぁ、そうだな』

この状況で軍人と剣士、戦士の三人は不思議と落ち着いていた。


 その様子を、少し離れた場所で見ていたパンピー(?)な二人はというと、

『い、いったいどうなるんでしょう?』

『わ、分かんないよ。 で、でも…………………』

レベッカの手をとり、アイは駆け出した。

『止めないといけない。 あの黒いロボ、あの中にいるのって…………………』

『日記に何が書いてあったんです?』

『信じられないけど、もしかしたら……………………』

そこから先は、アイとしてもイマイチ信じられない事であったため、言葉が出なかった。

『とにかくレベッカちゃん、みんなのところへ行って。 わ、私は怖いけど、黒いロボに声をかけてみる。 向こうには私達が見えているみたいだし、話が通じると思うから』

『分かりました。 ところで』

『?』

『そろそろ、名前で呼んであげてください。 ロボって呼び方はちょっと』

『……………………ええ〜と、なんて名前だっけ、あのロボ?』


 レベッカからムサシの名を聞いてアイは走った。

ライコウは二人には初見なので、レベッカにも名前は分からなかったのである。

もっとも、分かったとしてもその名をアイは覚えてられたかどうか?

さすがにムサシの名は覚えただろうが、ライコウの名はすぐに忘れてしまうであろう、霊体になっても少しおバカな娘である。

宮本武蔵は超有名であるが、歴史の教科書に源頼光の名は、そうそう出てこないので仕方ないかもしれない。

せめて足柄山の金太郎が仕えた主人だと、教科書に書いてあったら覚えていたかもしれないが、その場合、彼女なら架空の人物と勘違いしただろう。

(注・金太郎は実在した人物です)

アイとレベッカは、両機が戦うすぐ間近までやって来た。

遠くで見ていた時には気づかなかったが、いざ雷武同士の戦闘を間近で見ると、その迫力はさすがである。

この島に来る途中での戦闘は、ヒジカタ内で見ていたからか、その実感は何故かなかった。 近くで全体の動きが見え、動く際の地響きや衝撃が伝わる分、その戦いの凄さが改めて感じられたのである。

『………………ゴクリ』

『生唾飲む音を口で言う人、初めて見ました』

『そこ、突っ込まないで。 シリアスな場面なのに悲しくなるから』

アイが泣き顔でそう言ったそのとき、すぐ眼前で両機の重写刀が刃を交えた。

    ギンッ!!!

普通、動作のストロークが長い分、動きが緩慢に見える巨大な機械の動きとは思えぬ速さで、ムサシとライコウの重写刀がぶつかり合う。

その衝撃波で、物理の影響を受けないはずの霊体のアイ達の身体が吹き飛んだ。

『ふんぎゃーっ!!』

飛ばされた身体が砂地で数回跳ねて、近くの岩場に頭から突っ込む。

普通なら即死だろうが、すでに死んでいるアイの身体は岩をすり抜け、なぜかその向こう側の砂地の地面には頭から突き刺さり、犬○家状態に。

『プハーッ!』

頭についた砂つぶを払い落としながら、泣き顔でアイは絶叫する。

『な、何で岩は通り抜けたのに、地面には……………って、そこ、笑うなぁっ!!』

すっかりギャグキャラに戻ったアイの間抜けな姿に、何とか被害を免れたレベッカは腹を抱えて笑うと、悪い悪い、と手を振って軽く謝り、ライコウの方に走って行った。

気まずく赤面してアイは、ゆっくり立って一呼吸入れ、ムサシの方に向かった。

とはいえ、人の動きを凌ぐ高性能雷武の動きについていけず、なかなかたどり着けそうにない。 しかも、両機の重写刀による剣戟により発する衝撃波が届く度、アイの身体は飛ばされそうになり、なかなかたどり着けないでいた。

ふと、レベッカの方を見ると、彼女は近くの岩場の上に移動していた。

そして、動き回っていたライコウが近くに寄ったタイミングを見計らい、機体の背中に飛びついたのを見て、

『うあ、カッケー!!』

お子様なのに、その行動力は、まるでどこかの見た目は子供、頭脳は大人な某名探偵の坊やのようであった。

それを見て、ちょっと感動してしまったアイではあるが、それでもムサシに近寄るコトができない。

一方、ライコウ内のヴォル達に合流したレベッカ。

「おう、戻ったか」

『アイさんが、相手を説得します。 搭乗者に接触できるよう、相手の動きを止めて下さい』

「説得って、ムサシの乗員は霊が見えるのか?」

『恐らく。 森の中で挨拶されました』

『あ、挨拶って……………………???』

意味がわからず、ヴォル達3人はしばし戸惑ったが、

「ええいっ、事情は分からんが、とにかくやってみる」

ヴォルは重写刀を下段に構え直した。

どこか雰囲気の変わったライコウの様子に気付いたか、ムサシも一呼吸おいて、二刀流の大小二振りの重写刀を上段に構える。

数秒の間をおいて、両機は同時に加速して間合いを詰めた。

ムサシが振り下ろす二刀を、ライコウはスイングするように振り上げた刀身で受け止め、体勢を崩したムサシに今度は上段から重写刀を振り下ろす。

ムサシはそれを受け止めたがヴォルは力任せに抑え込んだ。 重装甲な分、ライコウの方が質量があり、それを生かすため、ワザと機体の重力制御を緩めたのである。

ライコウの重みでさらに体勢を崩すムサシに、さらに体重をかけて覆いかぶさるように、重写刀に力を込めた。

動きを封じられたムサシを見据えながら、

『今だっ!』

ライコウの背後に近寄っていたアイは、その背中を伝って肩に乗り、

『ふぅ…………………』

一呼吸置いてから、眼前のムサシに飛びついた。

アイはドラム缶ほどの大きさがあるムサシの頭部に抱きつき、

『聞いてっ!!』

叫んだ。

それはまるで、操縦者にではなく、機体に叫んでいるように見えた。

『何で機体の中に入らないんだ? 霊体なら装甲をすり抜けて、操縦者に直接話しかけることもできるだろう』

「いったい何を…………………ん?」

見れば、アイはムサシに何かを話しかけているようだったが、何を言っているのかよく聞こえない。

『えっ?』

『まさか?』

ついさっきまで覇気を滾らせ刃を交わしていたムサシが、ゆっくりと重写刀の鋒を下に向け肩を落としたかと思ったら、

「ど、どうして……………………………」

呆気にとられるヴォル達と、ようやく到着した救助艇に乗り込む負傷者達が見ている前で、ムサシは糸が切れた人形のように頽れ、沈黙した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る