第8話 モンキーではない-D-

 重写刀を失い、ムサシに切っ先を向けられたヴォル搭乗のライコウ。

ジリジリと間合いを詰められ、打つ手はない。

脇差の重写刀に手を添えるが、見れば相手ムサシもまた、大刀を向けながらも片手は腰の脇差に手を添えている。

それに気づいてヴォルは戦慄した。

ムサシのモデルとなった剣豪、宮本武蔵の剣術を思い出す。

宮本武蔵と言えば二刀流が有名だ。 目の前の雷武ムサシは今まで重写刀の大刀一振りだけで応戦していた。 つまり今まで本領を発揮していないということである。 そのムサシが脇差に手を添えているということは、下手な動きをすれば本気の攻撃が来るということ。 今までの段階で押され気味だというのに、脇差一振りだけで本当に応戦しきれるのだろうか?

「……………………………………」

言葉も発せられず、コックピット内で脂汗を流すヴォル。

すると

『……………………おい』

沈黙に耐えかねたわけではない。 海の方を凝視しながら、アマンダが声をかけた。 彼女は目を細め、ずっと沖を見つめている。

『何か飛んでくるぞ。お前の船があった方角だ』

「?」

『?』

ヴォルとノーマンは何事かとそちらに視線をやった。

ヴォルは目の前の敵から視線を離すわけにはいかず、チラリと横目でだが、

「何?」

『ありゃぁ、剣か? お前らのいう重写刀だったか? やたら金ピカの派手に飾られたのが、真っ直ぐこちらに飛んでくるぜ』

『よく見えるな。私には何も見えないぞ』

『言ったろ、私は目はいいんだ』

アマンダがニヤリと笑う刹那、の接近を知らせる警報が鳴った。

「………………………接近したらタイミングを知らせてくれ。俺は今、目の前の相手から目を離すわけにはいかない」

『分かった』

ヴォルの意を悟り、ノーマンが答える。

そして数秒の後、

『…………今だ』

「っ!!」

ほぼ同時、接近する重写刀に気付いたムサシにも、一瞬のスキが生じた。

それを見逃さず、脇差でムサシの重写刀Sanemoriを弾く。

間を置かず、ライコウは後方に跳躍した。

そして背面ブースターで姿勢を整えながら、接近する重写刀を確認する。

さすがはノーマンの指示で飛翔しただけのことはあった。

重写刀が丁度手の届く場所に飛来している。

ヴォルの操るライコウは、まるで機体に意思があるかのように手を伸ばし、空中でその重写刀を手に取って腰に添えた。

するとライコウの腰のアタッチメントが重写刀の鞘を固定、同時、コックピットに重写刀の銘が表示された。

その銘は、

  -Douzigiri-

その誉れ高い名に呼応するように、機体の全パラメーターが一気に上昇し、

  ヴォォォォォォォッ!!!!!!!!

外部スピーカーがないハズのライコウが、雄叫びをあげた。

『いったいどういう構造だ?』

「さあな」

ニヤリと笑みを浮かべるヴォルを横目にアマンダは、

『根性のある機械だ』

と、その程度の反応だった。

重写刀-Douzigiri-を帯刀したライコウは、ゆっくりと下降し、ムサシの前に再び対峙した。 対するムサシも落ち着いたように、静かに脇差を抜刀した。

二刀流の最強雷武が、真なる力を示そうとしている。

ライコウの中でヴォル達は、改めて目の前の敵の覇気に震えた。


 一方、その様子を見ていたアイも、-Douzigiri-を帯刀したライコウの姿に、何かを感じていた。 その姿はユ◯コーンの3番目の兄弟でも、赤い◯星が搭った金色のMSでも、某神様が作った黄金でできた巨大ロボでもない。

『アレは…………、夢の中で見た…………………………』

アイが死ぬ直前、気を失って病院の中で見た不思議な夢で、宇宙船の中から出てきてドラゴンを斬った巨人の侍を思い起こさせた。

時代劇の侍と違い、刀の刃を下向きに帯刀した姿は、目の前の金色の侍に似ている。 江戸時代が舞台となることの多い現代の時代劇では、帯刀するときの刀は刃を上向きにするが、太刀と呼ばれるさらに昔の刀は、刃を下向きにする。

それを知らなかったアイにしてみれば、その姿に違和感を感じていたようだが。

『そうか……………、これだったんだ………………』

『どうかしたんですか?』

『船の中で感じた何か………、アレはロボと刀が揃った状態の気配だったんだ』

『でも、そんな不思議な気配を発するって、あの二体って何なんです? まさか生きてるとか思えないし?』

『分かんない。 でも、きっと何かあるのは確かだよ』

そう言うアイの表情は、さっきまでのど天然おバカ娘のそれではなかった。


(中尉、何とか受け取ってくれたな)

ライコウにドレッド・ノートから通信が届いた。

『艦長』

(交戦中に通信は危険と思ってな、そのまま打ち出した)

『しかし、まさかこの名刀まで……………………』

-Douzigiri-

重写刀は、歴史的な名刀を模したものが主流である。

しかし、この-Douzigiri-はその中で別格の一振りだった。

元となった名刀「童子切安綱」とは、ライコウのモデルとなった源頼光の愛刀にして国宝であり、かつて酒呑童子と呼ばれる鬼を斬ったとも伝えられる、天下五剣の中の一振りでもある。

そして重写刀-Douzigiri-は、作刀時に童子切安綱の茎の一部を削って玉鋼に混ぜて作られた、特別な重写刀なのであった。

つまり、名刀の魂の一部が宿った、本当に特別な重写刀なのである。

(中尉の戦闘が始まってすぐ、コンテナの中で-Douzigiri-が唸り声をあげだしてな)

「妖刀村雨ですかっ?」

さすがに「ありえない」と、ヴォルは思ったが、幽霊と同行している今の自分の方がよっぽどありえないと、苦笑いを見せた。

「お借りしますっ!!」

(必ず勝て)

「はっ!」

ライコウはゆっくりと-Douzigiri-を抜刀した。

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