第7話 ワタシハカモメ ∧( 'Θ' )∧
少し時間は遡り、海岸から少し離れた山の中。
ムサシを追って来たアイとレベッカの二人は、いかにも、といった感じの洞窟の前に来ていた。 森の奥の少し拓けた場所に面した岩山に、ポッカリと人が入れるくらいの穴が空いている。 今にも埃まみれの探検家か、槍を持った裸族の原住民でも出て来そうだ。
追っていたハズのムサシの姿はなぜかそこにはなく、人の気配はないが、さっきまでムサシがそこにいたのは確かなようで、真新しい足跡が残っていた。
『ロボがいないということは、乗ってた人はまだ降りてないんだよね?』
『はい。 搭乗者とコンタクトとはいけないまでも、姿の確認はできると思ったんですけど、もう移動したみたいですね』
『乗ってた人、私達が見えるっぽいし、悪い人でもなさそうだから、お話聞けるかもって思ったけど……………………』
とはいえ、それでも怖かったので、いなかったことにアイは少し安心した。
二人はもう一度辺りを見渡し、恐る恐る洞窟の中を覗き込んだ。
搭乗者の仲間がいるかもしれないと思ったのだが、どうやら洞窟の中には誰もいそうにない。 それでもよ〜く奥の方を凝視すると、
『何か落ちてる?』
念のため四方を気にしつつ洞窟内に入り、それを確認すると、
『日記…………?』
『ですね』
『ロボに乗ってた人の?』
『さぁ?』
『見てみる? 内容?』
『い、いやいや、ダメですよ。プライバシーの侵害ですよぉ』
言いつつも、レベッカもまた日記の内容が気になる。
『……………………』
『……………………』
『ま、まぁ、ここまで来て手ぶらで皆んなの所に戻るのも何だしぃ……………』
『そ、そうですよね。神に仕える立場の私としては不本意ですが』
そういえばレベッカは、元の世界で何とかって宗教の信者とか言ってたのをアイは思い出したが、特にそのことは気にせず、
『で、では………………………………』
と、日記に手をかけたが、ホログラム映像にでも触れるかのように、かけた手が日記を素通りしていく。 アイはパニックを起こして、
『ええええ、何で何で? 気色悪ぅぅぅぅっ!!』
『そ、そうでした。 私達は今霊体だから、通常の物質に触れることが出来ないんですよ』
『じゃあ、だったら何で身体が地面に沈まないの?』
『そこには触れないで下さい。お約束というヤツです』
『そーいうモノなの?』
『そーいうモノです。 でも困りました。 これではせっかく他人の日記を盗み読めるという、背徳な行いを正当化する絶好の機会を逃してしまいます』
『出てる出てる、心の声っ!』
『うっ、つ、つい本音が……………………』
『レベッカちゃんって、真面目な
『わ、私に限ってそんなコト…………………(汗)』
『ア○キンもベ◯・ソロも暗黒面に堕ちたくらいだもの。 分からないよぉ』
『誰です、それ???』
『気にしないで気にしないで。特撮オタクの独り言だから………………』
『とにかくどうにかして日記のページをめくる方法を……………………』
と、レベッカは辺りを見渡した。 すると洞窟に入口近くに、何やら動く影が。
アレは、
『鳥……………? カモメでしょうか、ここは海に近いんでしょうね』
ここを住処にしているのか、それともただエサを探しにでも来たのか、入口辺りをウロウロしている。
『そ、そうだ。 さっきアマンダさん達はヴォルさんの身体に憑依することが出来たんだから、私達だって他人に憑依出来るんじゃないですか?』
『え、って、まさか他人じゃなくてあの鳥に?』
『試してみる価値はあると思いますよ』
言うやレベッカは、そのカモメに近寄り憑依を試みた。
野生動物とはいえ、霊体は見えないのか、近づくレベッカに気づく様子もない。
憑依されたカモメは一瞬驚いたようで、中で両者の魂のぶつかり合いがあったのだろう、しばらくバタバタともがくように暴れていたが、
『…………………………』
一瞬の沈黙と間をおいてから、レベッカにとり憑かれたカモメは、何事もなかったかのようにアイの方に向いて、翼を大きく広げて丸を描いた。
『おおっ、成功したの? リアル心転◯の術』
不慣れな鳥類の身体に戸惑いつつも
アイはそれを羨ましがそうに見て、
『あ〜、いいないいな、私もやってみたい心◯身の術ぅ!!』
言って辺りを見渡した。 他にカモメの姿は見えないので、別の生物を探すが、見つけたのは洞窟内の岩場の壁を這い回るフナムシかゲジゲジのような、見るからに気味の悪い虫だけだ。
『ゔっ、さ、さすがに虫だけは……………………』
虫になった自分を想像して青ざめた顔をしていると、カモメになったレベッカが器用に鳥の足で、こちらに手(足)招きをしていた。
何事かとアイは近づいてめくられた日記の視線を落とすと、
『あ、日本語だ』
いくら武士道が世界に広まった世界とはいっても、まさか日本語が世界の標準語になったとは思えない。事実、ヴォルとはゼロ次元で霊体でつながっているので会話できるが、彼が普段喋っていたのは英語だった。
執筆者は日本人だったのだろう、日記は日本語で書かれていた。
『私に読めってのね?』
それにうなづくレベッカ。
『よ〜し、日本語なら任せてよ』
ここに来て初めて役に立てると、アイは少し得意げに言った。
『ええ〜と、何々……………………え?』
数ページ読み進めていって、アイは驚嘆の表情となった。
カモメ(レベッカ)は何事かと小首を傾げると、遠くで何かが衝突する音と地響きに、洞窟内が揺れて土埃が二人の上に降って来た。
レベッカが振動に驚いた拍子に、カモメは身体の主導権を取り戻して憑依していたレベッカは外に放り出されてしまったが、彼女はそのことよりも事態にパニックになってしまっている。
『これって、いったい何が?』
『ま、またロボのメカ戦が始まったの?』
丁度そのとき、ヴォル達によるライコウとムサシの戦闘が開始されたのである。
『は、早くみんなの所に戻らな…………………どうかしたの?』
ふとレベッカの方を見ると、憑依に体力を消耗したのか、何やら気分が悪そうに前かがみに苦しそうにしている。
『憑依中にクチバシで突かれちゃった?』
『い、いえ、それもありますけど、憑依する前に気付くべきでした。 憑依している間、カモメの記憶が私の中に流れ込んで来て…………………』
『え、何々? カモメが飛んでいるときの記憶でも見た? もしかしてレベッカちゃん、高所恐怖症?』
『何で嬉しそうなんです? そうじゃなくて、カモメの食事の記憶が見えてしまって…………………』
『ああ、カモメって生魚食べるからね。 実は私もお刺身苦手ぇ〜』
『いえ、魚じゃなくて、野生の鳥ですから、時々虫とかも……………………』
『え?』
『黒くてグロい虫が口の中でカサカサ動いたり、そのうちに苦い何かの汁が出てきたり……………………』
『や、やめてっ!! 想像しただけで………………………………』
二人はチラリと、さっき壁を這い回っていたフナムシの方を見て、
『うっ!!』
『おえぇぇぇぇぇっ』
並んで嗚咽し、一気に霊体なのに生命力を大幅に削ってしまった。
『結局、あの日記には何が書かれていたんです?』
『驚きの真実! 言っても誰も信じてくれないだろうけど』
一気にライフポイント消耗しつつも、アイとレベッカはヴォル達との合流地点に急いだ。 さっきの振動は今も断続的に地面から伝わってくる。
どうやら戦闘中なのは間違いないだろう、出来れば行きたくはないが、二人はそれでもしばらく走ると森の中から出る事が出来た。
海岸の方を見ると、さきほどのムサシとかいう雷武と、初めて見る金ピカの雷武がチャンバラをしている。
『おおっ、ユニ◯ーンの3番目の兄弟♡』
『え、誰の兄弟って???』
『いやいや、百◯、それともK◯G? そーいや暁とかいうガン◯ムいたけど、アレは弱かったからいいや』
『えーと?』
『あ〜ゴメンゴメン。 再びオタクの独り言だから気にしないで。 それよりあの金ピカ乗ってるの、ヴォルさん達だよね』
『多分そうですね。 もしかしてアレですか? アイさんが出撃前に言ってた、コンテナの中に感じた、とても大事なモノって?』
『………………ううん、違う。 いや違わないけど、何か違う』
『どういう意味です? 文法的に変ですよ?』
『う、うん。 でも、あの時とちょっと違う感じがするんだよ』
原因は分からない。 ただ、どうしても何かが違うような気がした。
と、その時、対峙していたライコウとムサシの方で、何かがぶつかり弾けるような音がした刹那、上空で何かがキラリと光ったかと思うと、それが真っ直ぐアイ達の前に落下してきた。
ズズーン…………………………
轟音を轟かせ、見上げると眼前に巨大な重写刀が突き刺さっていた。
二機の戦闘で、ライコウの重写刀がムサシの攻撃で弾き飛ばされたようだ。
『こ、こ、殺す気かぁぁぁぁっ(絶叫)!!』
『いえ、自分で言ってたじゃないですか。アイさん、すでに死んでるんですよ』
『か、返す言葉もございません(恥&汗&赤面)』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます