第6話 金ピカ武将、御出座!!

 捜索を続けつつ、島の反対側に向かうヴォルは、途中でノーマンたちと合流。

アイ達はまだ近くには来ていないようだが、3人はそのまま海岸に向かった。

到着すると、そこはさっきまでいた岩場よりは広く、そこかしこに雷武の残骸が散らばっていた。 来る途中、森の中でも今までに破壊されたであろう、朽ち果ててスクラップと化した雷武の残骸は幾つかあったが、この場で骸となった機体は、どれも見覚えのある機体ばかりである。

『やはり迎撃されたようだな。敵は何機いたんだ?』

そう言ったノーマンの問いに答えたのは、意外にもアマンダであった。

『砂地の足場がさほど乱れていない。つまり乱戦にはならなかった。敵はせいぜい数機だろう。 もしかしたらさっきのヤツ、一機だけかもしれないな』

『まさか? それに君はこの雷武戦には素人だろう?』

『武器は何であれ、近接なら状況は似たようなモノさ。弓射手アーチャーの私にでも、その程度の判断はできる』

チラリとノーマンはヴォルの方を見て『そうなのか?』と、目で問いかけると、彼は黙ってうなづいた。

『そんなことより……………』

『?』

アマンダは海岸近くの岩場を指差し、

『あそこにいるのは、生存者じゃないのか?』

「どこだ???」

と彼女の指差す方を凝視する二人。

すると、かなり離れた場所の岩陰に、確かに人影のようなものが見える。

「よく見えたな?」

『目は、いいんだよ。頭は怪しいがね』

苦笑いを見せるアマンダに、ヴォルは怪訝な顔をし、ノーマンはアマンダと同じような苦笑いを見せた。

「何かあったのか?」

『まあな』


「ち、中尉っ、無事でしたかっ!?」

行くと、岩場の陰に身を隠すようにして数人の兵士がいた。

全員、負傷しているようで、何人かは命に関わるような傷を負った者もいる。

ヴォルの姿に安堵の表情を見せたのは、直属の部下ではないが、知った顔だ。

確かモーゼス少尉だったか、雷武戦でもかなりの実力者だったハズである。

そんな彼でさえこのザマだ。

襲撃者は、ムサシの乗員はかなりの手練れと見える。

「これで全員か?」

「一応、生き残った者は…………………。中尉の方は?」

「島の反対側で襲撃された。エドワードとコバヤシは無事だ、貴様らと同じように重傷ではあるがな」

「中尉、アレはやはり………………」

「ああ、間違いない。ムサシ零型だ」

「……………………………」

モーゼスと他の負傷兵は絶句した。

それほどまでにムサシの名は、彼らには偉大な存在だったのである。

するとそこに、ハモンドから無線が繋がった。

(中尉、状況を報告しろ)

「負傷兵数名を確認しました。彼らも例の雷武に遭遇した模様です」

(分かった。こちらは今、そこから沖合50㎞の位置に待機している)

艦橋のレーダーから無線相手のヴォルの位置を再確認し、

(どうやら事態は、一刻を争う事になりそうだな)

ハモンドは一拍おいて、意を決したように言った。

(-R-を射出する。壊しても構わん、貴様が使えっ!)

Rの名に、ヴォルだけではなく、一緒に聞いていたモーゼス達にも緊張が走った。

(それで敵機を引き付けろ。その間に救出部隊を送る)

「り、了解しました」

責任感にヴォルの額に脂汗が滲んだ。

略称-R-。

3大雷武、ライコウ・弐型。

世界に4機しか存在しない、最強の機体であった。


 ドレッド・ノート艦内に非常事態のサイレンが鳴り響いた。

特に雷武を格納していた格納庫内は、戦場のような慌ただしさだ。

ヴォルの出撃前に、アイが気にしていた巨大コンテナの前に、整備班全員が集結し、拘束しているワイヤーの数重ものロックを恐る恐る解錠し、コンテナの扉を開ける。金属の扉が擦れる耳障りな音が、今回ばかりは荘厳に聞こえた。

扉が全開にされると、コンテナ内部の床がスライドして前に迫り出し、格納されていたライコウ・弐型が、その姿を表す。

金色に塗装された装甲を纏い、全高はヒジカタよりは少し高い14m前後、鎧武者をイメージさせたフォルムはムサシと同じくバランスがとれており、まるで中に人が入っているようにも見える。

「よし、動力炉エンジンに火を入れるぞ。武将の出撃だ!」

整備班の老班長、この道30年のベテラン、トーマス・ワイルドマンの号令に、数人の整備員がライコウの背後にまわり込んで、肩の上によじ登る。

頭部をスライドさせ、コックピットを覗き込んで整備員は怪訝顔になった。

「誰か……………………、起動させたか?」

「何言ってる? 今、解錠したばかりだぞ。前にメンテしたのは一月も前だ」

足元のトーマスが、少し怒気を込めて聞き返した。

「いや、しかし、システムが起動しているんですけど?」

もしや前のメンテ時に、システム終了し忘れたかと思ったが、タイムスタンプはついさっき、ハモンドがライコウ出撃指示を出した直後に起動した事を示している。それを確認してトーマスは、思わず笑みをこぼした。

「武将が、ライコウが強敵の存在に勇みたっているようだ。こいつはスゲェ!」

機械である雷武が、勝手に起動することなどありえない。

だが、そのような事に彼らは緊張はしたが、不思議には思わなかった。

この世界の侍軍人にとって、刀も雷武も武士の魂なのである。

整備員達の驚く前で、ライコウ内部の動力炉が唸りをあげ、武者の兜を模した頭部の奥で、鋭い二眼が輝いた。

「は、班長…………………」

「急いで発艦準備を整えろ。やる気になってる武将の機嫌を損なう前になっ!!」

「り、了解しましたっ!」

整備班全員が駆け出し、仕事を再開した。

全員がライコウに触発されたかのように、いつに増して手際がスムーズで早い。

かつてない最強同士の戦いを前に、全員が興奮している。

彼らもまた、武人なのである。


(艦長、武将の出撃準備、出来たぜぇ)

艦橋でトーマスの通信を聞いてハモンドは、甲板に目を向けた。

甲板にリフトアップされて姿を現わす黄金色の武将の姿に生唾を呑む。

オートでカタパルトに歩を進めるその姿は、神々しい。

艦橋の士官全員にも緊張が走った。

「コース設定。このまま島の海岸まで飛ばします」

「聞こえたな中尉。無人の状態のまま迎撃されては敵わん。着陸次第、急いで搭乗しろ」

(了解)

簡潔な返答ながら、無線越しでもヴォルが緊張していることが伝わってくる。

無理もない、彼はこれから国宝級の機体に乗り、伝説と戦うのだ。

そのプレッシャーは相当なものであろう。

「中尉、健闘を祈る」

無線よりヴォルの返事を待たずして、ライコウがカタパルトで射出された。

青い海面を、風圧で白波をたて、金色の一閃を残し直進する機体は、すぐに艦橋から目に見えない距離に飛翔して行く。

少し遅れて、救出艇がそれを追うように海面を疾走して行った。


 一方、こちらに真直ぐ飛んでくる黄金色の機体を、岩場で待機しているヴォルは見つめていた。

今からこの最強の機体に登場することに、緊張と興奮、そして恐怖を感じて。

すると、

「っ!!」

気配を感じ、すぐ後方の岩場の上を見上げた。

いつからそこにいたのか、今から剣を交える相手であるムサシ零型が、こちらに向かって来るライコウを見据えていたのである。

かつて巌流島での決闘において、宮本武蔵は佐々木小次郎を待たせたが、今回はムサシが好敵手の到着を待つ側となった。

『気付かれたか。まずいな。搭乗前に破壊されるんじゃないか?』

ノーマンはヴォルにそう聞いたが、問われたヴォルはムサシを見上げ、

「…………………いや、その気はなさそうだ」

彼の言葉通り、ムサシはライコウを見ているだけだった。

そして上空にまで飛翔してきたライコウは、逆噴射で姿勢制御をし、少し離れた場所にゆっくり降り立った。

ヴォルはムサシを気にしつつ、急いで着陸したライコウに向かって走っていく。

10m程まで近づくと、ヴォルの搭乗者として登録された生態信号を感じ、ライコウは彼を受け入れるため片足を突いてコックピットを開放した。

緊張する自身を深呼吸で落ち着かせる。

もう一度ムサシの方を確認し、搭乗して前方モニターに目をやると、ムサシはこちらの準備を待っているかのように、ゆっくりとこちらに歩を進めていた。

その静かな所作ながら、刺すような殺気と闘気が装甲越しにも伝わってくる。

それはヴォルだけではなく、ノーマンとアマンダも感じていた。

今度は前回のように瞬殺とはならないだろうが、凄まじい戦いとなるだろうことは明らかだ。それは雷武には素人のノーマン達に分かった。

もう一度深呼吸し、コックピット前方のレバーに手を添える。

「さあ、再戦だっ!」

左モニターに救助艇接近の表示が出たが、今は気にならなかった。

前方モニターのムサシが、重写刀Sanemoriを抜刀したのである。

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