第5話 島を探検しよう🎵

 修理された通信機で、ヴォルはドレッド・ノートに事態を報告した。

今や伝説級の雷武『ムサシ・零型』の存在に、ハモンドも驚きを隠せなかった。

しかも、先に到着していたハズの仲間の雷武20機からなる部隊からも、ずっと連絡が途絶え、絶望的な状況に困惑していたところだったのである。

連絡が途絶える直前に届いた先行部隊の報告によると、島の反対側に何者かの機影を確認し、全機がそちらに向かったが、それ以降音信不通になったらしい。

道理でヴォル達が上陸した辺りに仲間の残骸がないはずだ。

いったいどれだけの敵戦力が、この小島にあるのか分からない以上、迂闊には救援部隊も送れそうにない。

《すまないな。艦載機の大半を送り込んだのだが………………》

「まだ他の部隊がやられたとも限りません。 曹長達の症状も深刻ではなさそうですので、これより島の捜索に行こうと思うのですが?」

《分かった。あまり無茶はするなよ。救出部隊は、可能な限り早く送る》

「了解です」

簡潔に通信を終わらせ、エドワード達を岩場の影に休ませてから、ヴォルは『ムサシ』の後を追うことにした。

気配を消せても、足跡を消すことは出来ない。

重力を制御していても、地上では機動性を活かすため、地面を蹴れるくらいに出力をセーブしてあるのだ。


 通信を切ってヴィルはアイ達に、

「では、ヤツを追って島の探索をするが……………」

言いかけると、

『ふむ、いいな。異世界の見学するいい機会だ』

『はい。それにこの世界での生態系にも興味がそそられます』

ノーマンとレベッカはお気楽に状況を楽しみ、

『バナナはオヤツに入りますかぁ〜?』

アイは何故か遠足気分だった。

「………………………………………」

『ごめんなさいごめんなさい、冗談ですぅ(汗)』

「まあ、別にいいのだが……………………」

言って何気なくアマンダの方に視線をやると、さっき気絶する前までとは、何か雰囲気が違っていた。 この数分の間に何があったのか、別人のように神妙な表情で、何か思い悩んでいるような顔をしている。

つられてアイ達もそちらを見るが、やはり様子がおかしい。

『……………どうかしたんですか?』

『え、ああ、その、な、何でもない』 

慌てて答える彼女は、何故か今更のように恥ずかしそうにしていた。

(エロコス衣装で平然としてるくせに、何で赤面してんの?)

『い、いや、元の世界に残してきた妹のコトを思い出してな……………」

(今までの流れで、何で妹さんのコトを?)

アマンダは虚空を見上げ、思い出したように語りだした。

『私はよく天然、というか、恥知らずのバカ娘と言われていたのだが』

(よく存じております)

『妹は私と違ってしっかり者でな』

(ほほう)

『モンスターとの戦闘に、私はフリフリスカート姿で出かけようとしたのだが』

(何キュア? パツキン爆乳ポロリ有って、女児よりお父さん方に人気出そう)

『そんな姿ではダメだと、妹はこの衣装を選んでくれたんだ』

(元凶はそいつかっ!!)

口に出さず、アイが突っ込みを入れる。

恐らく、ここにいる全員が同じ気持ちだったろう。

妙に気まずくなって一同が沈黙していると、

『ところで、ここで一つ提案があるのだが』

ノーマンがおずおずと語りだした。


『やぁ、まさかホントに別行動できるとは驚きだねぇ』

『はぁ、正直私は不本意なんですけど』

『なんで?』

『どうせなら、会話の通じる人と同行したかったです(小声)』

『え?』

『な、何でもないです(焦)』

先ほどの海岸より離れた島の中央の山に向かう茂みの中、アイとレベッカの二人は、まるで浮遊霊のように進んでいた。

実はあの後、ノーマンの提案で、それぞれ別れて島の探索をしようということになったのである。とはいえ、全員今までにない特殊な状態なので、どの程度離れて行動できるのか分からなかったが、自由度は意外と高かく、思った以上に離れられることが分かった。

しかも5人中4人は幽霊状態。野生動物や敵の雷武に遭遇しても危険はなかろうとのこと、特に反対意見もなかった。

ただ、念のために個別ではなく3班に分かれてとなり、相談の結果、ヴォル一人の五体満足生身チーム(?)と、ノーマンとアマンダのアダルトチーム、アイとレベッカのお子様チームと分かれての行動となったのである。

気持ち、アイと距離をとって歩くレベッカは、

(天然って感染しないと思うけど………………………で、でも、こんな状況、今までに前例がなかったし、万が一という可能性も……………………………)

と、心の中で得体の知れない恐怖と戦っていた。


 一方、そこから1㎞ほど離れた海岸沿いに、ノーマンとアマンダはいた。

ノーマンは岩場の植物や足元の虫を観察しながら歩き、アマンダは先ほどより心ここに在らずといった無表情のまま、やはり初めてあった時までとは別人のように無口となっていた。

ノーマンはチラリとそちらを見て、彼女に語りかけた。

『気づいたんだろう、自分の存在がいかに不自然か、を』

『え………………?』

ノーマンは一呼吸入れ、

『さっき、ヴォルの身体と入れ替わって私も分かったコトがある』

『……………………』

『考えてみれば当然の事だ。彼の身体に同化したのだ。脳も共有し、彼の記憶や知識もまた、私に流れ込んで来た。君もそうなんだろ?』

『………………………ああ、そうさ。だから分かった』

アマンダも一呼吸入れた。

『私のいた世界は…………………絶対にと、いうことがな』

『ふむ』

『この姿が、とてつもなくハレンチな事も』

『いやまあ、そうだ………………な』

『しかし、確かに私のいた世界は存在するんだ。妹も仲間も、そして君達から見ればバカげた世界も、確かにな。 別に信じてもらおうとは思わな……………』

『いや、同じ経験をした君の言葉だからこそ信じよう。むしろ、どういった歴史を辿れば、そういった世界が成り立つのか、といった事の方が興味深い』

『ふん、そうかい』

アマンダは少し悔しそうに微笑んだ。


 さらにそこから離れた森の中、単独で行動していたヴォルは困惑していた。

「妙だ…………………?」

海岸でアイ達と分かれてから、かなり広範囲を捜索したハズなのだが、雷武どころか人間の足跡も見つけられなかったのである。

ようやく見つけた足跡も、さきほどのムサシのモノ一種だけ。

「他に雷武はいないのか? まさか派遣された機体全部、ヤツ一機に???」

信じがたい事ではあるが、実際ムサシと相対したヴォルには妙に納得できた。

しかし、だとしたら一体何者が搭乗しているのか?

そして何故、こんな小さな島で何年もの間、隠れ潜んでいたのだろう?


 ちょうどその頃、アイとレベッカは、山の中で意外なモノを発見した。

森の中の少し開けた一画に、小さな盛られた土に木の板が立てかけられた、

『お墓………………?』

『………………ですね』

確かココは無人島のハズだったと、来る途中でヴォルが言っていたようないなかったような、曖昧の記憶を思い出す。

『え〜とぉ…………………、このまま素通りするの、なんか悪いような気がするんでぇ』

アイは墓に手を合わせ、レベッカもつられて同じく手を合わせた。

死者への弔い方法が、レベッカがいた世界と多少違うところもあったが、この世界での弔い方を知らないでの、どれが正解か分からないから仕方ない。

『死んだ私がお墓参りって、なんか変だよね』

『アハハハ………………(汗)』

『…………………あれ?』

『えっ?』

その時である。

並んで手を合わせている二人は、同時に背後に巨大な気配に気づいた。

『ええ〜とぉ………………』

『イ、イヤな予感しか……………………』

もしやと恐る恐る振り返ると、

『ひぃっ!!(×2)』

すぐ真後ろ、ほんの4〜5mのところにあの雷武「ムサシ・零型」が立っていた。

いつからそこにいたのか、その巨体がそこまで近づいた事に、霊体である二人でさえ全く気付かなかったのである。

『ゆっ、幽霊を威かさないでよっ!』

『お、お、落ち着いて下さいっ。相手にこちらが見えるわけないんだから』

慌てふためくアイに、レベッカは何とか自制しながら言った。

機械の目に霊体が見えるわけがない。

分かっているのに二人は、墓を背にすり足で足音も気配も気づかれないよう、相手を避けるように横に移動した。

すると、ムサシはそれを待っていたかのように一歩前に出、墓前に片膝をつき、小さな花を一輪供えたのである。

『………………………………………え?』

『ロボットがお墓詣り???』

呆気にとられながら見ている二人に、ムサシは立ち上がってから振り返り、

『え、う、嘘でしょ?』

小さく会釈をしたのだった。

まるで彼女達が墓に手を合わせた事に対し、礼を言っているかのように。

そしてムサシは二人に背を向け、森の奥にゆっくり歩いて去って行った。

『どどどどどど、どーいうことぉぉぉぉっ???????? 見えてた、え、まさか私達、ロボに見えてたってコトぉぉぉぉ????????????』

『おおおおおお、おち、おち、落ち着いて下さ……………痛っ、舌噛んだっ!』

『あ、あんたが落ち着けぇぇぇっ、ってか霊体でも舌噛むと痛いのぉ?』

パニックを起こした二人は、しばらくそこから動けなかった。

ムサシの姿が、森の奥に消えて見えなくなってから、

『ど、どうしよう?』

『ここはやっぱり、後をつけるしかないと…………………』

『ええーっ、マジ怖いよぉ』

『でも、今回の事件の真相を突き止めるチャンスなんですよ』

『うう〜ん、でもやっぱり………………』

『ノーマンさんも言ってたじゃないですか。得難き機会は、何とかって』

『私らは猫じゃないよぉ』

恐る恐る、霊体ゆえに足音はしないというのに、二人は忍び足でムサシの後を追った。

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