第4話 君の◯は◯◯が◯◯で、前世が◯◯で下ネタ好き♡

 金属が金属で斬られる音が、頭の中で何度も響いていた。だが、すぐにそれも聞こえなくなり、それからしばらくの間、いったい何があって、何をしていたのか、どうにも思い出せずにいると、

『オメーは運がいい。中に私がいたからな』

「………………?」

どうにもハッキリしない意識の奥で、自分とは違う誰かが話しかけてきていた。

さっき打ったのだろう、痛む頭を押さえながら目を開けると、自らの意思とは関係なく身体が勝手に動いて、負傷した部下2人に、応急手当てをしていた。

「????????」

『ナニ、ボサッとしていやがる。さっさと代われ。どうにも他人の身体は使いにくい』

何者かの声がそう言うと、急に身体が自分のものに戻った。

そして同時、重力を感じて急に身体が重たくなる。

自分の身体なのに、五感はすぐには戻らなかったが。

『ったく、何をパニクったのか知らないが、戦場で気絶とは、情けないぞ!』

ヴォルの頭の中で、アマンダが少し憤慨しながら言った。

「あの後いったい、何があったんだ?」

『私以外、全員気絶しちまったから、私が代わりにその身体で、他の連中を助け出しただけだ。まったく異世界の道具の使い方は分かりにくいから、扉を開けてやつら引張り出すの、苦労したんだぞ』

「他人のおまえがオレの身体を? そんな事ができるのか?」

『知るかよっ。やったら出来たんだ。そういう仕掛けになってんだろ、このゼロ何とかって現象はよ』

「そうか………………、はっ、そんなことよりも敵機は?」

『こっちが動けないと分かるや、どっかに帰ってったよ。んなことより、ヤツは何者なんだ? 正体を知ってんだろ?』

『私達も知りたいな。何か隠しているわけでもないんだろ?』

ヴォルと同じように、気絶していたノーマン達も目を覚ました。

レベッカも少し頭をふらつかせながら、

『ええ、危うく異世界で魂だけ消滅しかねなかったし、もはや他人事でもありませんよ』

言い、最後にアイが目をグルグル回しながら、

『連邦のMSはバケモノかぁっ!!』

謎の悲鳴をあげていた。

一同の質問に、ヴォルはため息まじりに、重々しい口調で言った。

「あれは……………、『ムサシ・零型』だ」


 アイの警告のおかげで、すぐに対応できたのがよかったのか、エドワード達は致命傷を負わずにすんだ。とはいえ、数箇所の骨折は免れず、しばらくは動けそうにはない。

「雷武は現在、およそ70種ほど存在するが、その中でも『3大雷武』と称される機体は別格で、それぞれ数体しか製造されていない」

『それでは、さっきの機体はその中の?』

「いや、厳密には違う」

『?』

「前にも言った通り、雷武には歴史上の高名な武人や剣豪の名が付けられる。

柳生十兵衛をモデルにした『ミツヨシ・伍型』、平安時代の武将、源頼光よりみつの『ライコウ・弐型』、そして最も有名な宮本武蔵の『ムサシ・壱型』の3機種が、3大雷武と呼ばれている」

『壱型? さっきのは零型じゃなかったのか?』

「壱型はプロトタイプの零型のコピーに過ぎない。しかも、何故か零型のスペックを、どうしても越えることが出来なかったそうだ」

『機械なのに?』

「雷武は普通の機械とは違う。職人による手作りの部分も多く、同じ設計図から造っているのに、完成すると何故か、同じ機体で天地ほどの出来不出来が発生するのだ。人間に天才と凡人があるようにな。それに…………」

『それに?』

「それにあの零型には、何かと噂話も絶えない。零型はある技術者が一人で完成させたと言われていて、機体の中に解明不能なブラックボックスがある。それがあの圧倒的な性能差を産んでいると言われていた。だが、今から10年前にその零型は、忽然と世間から姿を消してしまったのだ」

『それがまさか、こんな離れ小島にいたとはと、驚いていたんだな』

「まあ、それもあるが、名機を前に緊張したというのもあるな」

負けたというのに、ヴォルは少し嬉しそうに苦笑いを浮かべて言った。

その一方で、アイ達3人娘はというと、

『と、ところでアマンダさん、ヴォルさんになったって、男の人の身体になった感じってどんなの?』

『わ、私も気になる♥』

『そ〜だなぁ、何て言うか股下に妙なモノがぶら下がってて気味悪かったな』

『や〜ん、エッチエッチィ♥♥♥』

『あ〜、でも胸がないから腕とか動かしやすかったけど、ああ、すまん。おまえらには関係なかったな』

『あーっ、それって傷つくぅ!』

『な、何年か先には関係ありますよぉ! あ、でも私死んでました』

と、エロバカトークに盛り上がっていた。

幼女ながら知的なレベッカでも、こういった下ネタトークを面白がるのは、やはり子供だからか、それとも異性の話題に興味をそそられる女のさがなのかと、横目で見ていたノーマンはちょっと残念に思った。

『で、でも、一度でいいから男の人になってみたいなぁ』

言うアイの脳裏に、数年前にヒットした某アニメ映画の1シーンが過ぎった。

考えてみれば、霊体である今の自分なら、彗星が降って来ようが、何億光年だろうが、前前前世だろうが、関係ないので安心だ。

それに今はここに自分の身体がないので、胸を◯◯◯◯される心配はない。

もっとも、貧乳を◯◯◯◯しようがないが。

映画の感動と相まって、妙に楽しそうな顔をするアイを横目で見て、レベッカは不謹慎と思いつつも好奇心には勝てず、

『そ、そうですね。どうやら魂の入れ替わりは可能ってコトですから』

言って2人がヴォルの方をチラリと見ると、

「絶対貸さんぞっ!」

ヴォルは自らの身体の主導権を主張した。


 救出されたエドワード達の容態は安定していた。

もう心配はないだろうが、早くちゃんとした医療施設に運ぶ必用はあった。

とはいえ、さっきの戦闘で3機の雷武の通信装置も故障してしまっている。

どうやって、ドレッド・ノートと連絡をとるかが問題だった。

『さっきのアマンダのように、君の身体の主導権を貸してはくれないか?』

と、ノーマンが言った。

未来の技術者である彼なら、通信機の修理が出来るかもしれない。

ヴォルはしばし考えて、

「分かった」

と、身体の自由を彼に預けることにした。

どうすれば、精神と身体の入れ替えが出来るのか分からなかったが、さっきの感じを思いだし、無意識にしていると、意外にもあっさり、身体の自由はノーマンのものとなった。

「ふむ、なるほど」

ヴォルの身体を得たノーマンは、異世界の住人とは思えない手際のよさで、スクラップ状態の『ヒジカタ』頭部にある通信装置を分解し、他の機体から手ごろな部品を集め、見る見る組み立てていった。

『本当に、雷武を触るのは初めてなのか?』

「ああ、機械の構造など、住む世界が代わっても、そんなに違いがあるものではないさ」

言うヴォルの身体のノーマンは、まさに機械職人の目になっていた。

それを横目で見ながら、ヴォルはアイに、

『それにしても、さっきは何故、敵機が迫って来ている事がわかったのだ? 未だに信じられないが、あの機体は森の中を高速移動しながら、音も気配も感じさせなかった。 だというのに、何故?』

『何故って聞かれても………………?』

小首を傾げ答えるアイにも、何故なのかが分からなかった。

『よく分かんないですけど、ずっと子供の頃から、妙にそんなコトだけが、分かってしまうんです。誰かが教えてくれるって言うか、どこかから謎の声が、時々聞こえるんです』

『不思議な事もあるものだ。最も、今の我らも十分不思議ではあるがな』

『違いねぇ』

『確かに』

そう言って、4人は笑った。

だが、その中で一人、アマンダの笑顔が本当の笑みではないと、アイには何故か分かった。 これも、あの妙な感覚の影響である。

(アマンダさん、元の世界に何かをやり残しているんだ)

そう思うも、それは心の中に留めておいた。

言ってその気掛かりな事を、余計思い出させるのも悪いと思ったのである。

アイもおバカさんなりに、人に対する気遣いというものがあった。

ただ、アマンダの表情が曇ったのは、元の世界への気がかりだけではなかった。

ここに来て、新たな事実を知ってしまった事への動揺があったのである。

(まさか、な………………)

一方、その横でノーマンの作業は着々と進んでいた。

さっきまでは、素人にはワケの分からなかった部品が、見る見る組み合わされていき、ものの10分後には、いかにもそれらしい機械が出来上がった。

ありあわせの部品なので、見た目は不格好だが、元の通信機よりもコンパクトな仕上がりになっている。しかも、

「繋がる雷武本体のアンテナにも手を加えておいた。これで通信可能領域は大幅に広がったし、微調整すれば殆どの周波数を傍受する事も可能だ。さすがに亜空間通信は出来ないがな」

元の通信装置の性能を凌駕していた。

まさかこのシステムが、この世界で後々のスタンダードになってしまおうなどと、このときは誰も予想していなかったが。

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