第3話 ト、ト◯ンザムーッ!!(悲鳴)

 3機の雷武は、その後もどんどん加速し、本当に1分もたたずに現地に到着した。 現場の状況は報告にもあった通り、商船が海賊の襲撃を受けている。

ただ、それはアイ達のイメージした海賊の姿ではなかった。

鉤爪の義手も眼帯もない、片手がサイ◯ガンでもなければ麦わら帽子も被っていないその姿は、やはり文化の違いであろう、雷武が使用されている。

数は5機。いずれも年代物で、どこかから盗んできたものだろう、違う機種の部品で所々が補修されている、通称「落武者」とあだ名される機体であった。

近い洋上には、海賊の母船と思われる船影も確認される。

まだ他にも雷武が搭載されているかもしれなかった。

一方、襲われている商船は、かろうじてシールドで船体を守っているが、それでもダメージを受けて船尾から煙も出ていた。

「軍曹は船の援護を、曹長はオレと一緒に敵の排除」

「はっ!」

ヴォルの指示を受けて、コバヤシの雷武は重写刀を抜刀し、水面ギリギリまで降下して、水柱を上げながら船のそばまで一気に加速した。

ようやくそこで援軍の到着に気付いた海賊の雷武が1機、コバヤシ機を迎え撃とうと、同じように水面にまで降下して構えた。

海賊でありながら、かなりの手練と見えて、その構えには隙がない。

だが、それに対してコバヤシ機は、微塵も怯む様子はない。彼も第一線で闘い続けてきた武人なのである。コバヤシ機はさらに加速し、刀を正面に構えた。

まるで西洋の剣のような、特徴ある直刀切刃造りの刃が、水滴を纏いキラリと光る。そして、減速せずに、そのまま両者の刃が火花を散らして交錯した。

一閃、二閃と刃を交えた次の瞬間、賊の雷武は袈裟斬りで2つに両断されて海に沈んだ。

その間、ほんの数秒。

まさに刹那の闘いであった。

その様子を、ヴォル機の中で見ていたアイとレベッカは、

『す、すごい。まるで特撮映画みたい』

『これがこの世界の技術力なの?!』

と、感嘆の声をあげた。

実際のところ、2人にはコバヤシ機の動きは、生身の人間以上の動きに見えた。

しかし、

『まさか、信じられん…………………』

『あれを本当に、人が操っているのか?』

と、ノーマンとアマンダは驚嘆の表情でそれに見入っていた。

闘いの中に身を置いていた2人には、今の戦闘が、いかに人間離れした闘いであったのかが分かった。

しかしヴォルは、

「驚くほどのことではない。彼の腕とあの雷武の性能ならな」

そう言って、コバヤシ機が船の護衛にまわったのを確認し、残りの敵4機を見据えた。

相手も一瞬で仲間がやられたことに、動揺している様子が見て取れる。

今回は楽な任務で終わりそうだ。

「曹長、敵を殲滅するぞ」

「了解」

ヴォル機とエドワード機が抜刀し、敵機に向い、正面から突っ込んだ。

ノーマンから見れば、無茶な戦術にしか見えないが、これが彼らの闘い方なのである。

敵の落武者4機も、それを正面から受けて立つしかない。

最初に刀を交えたのは、エドワード機と左端の敵機であった。エドワードの『オオトリ』は、通常の倍近い刀身の刀を使っている。

モデルとなった江戸期の侍、大鳥逸兵衛も、3尺8寸という長身の刀(多くは2尺数寸位が一般的)を使っていたという。

普通なら使いこなせそうにない大刀を、この小柄な雷武は難なく振り回し、瞬く間に敵を頭頂部から唐竹割りに切り裂いてしまった。

それを見て、さすがに1対1では勝ち目がないと、後の3機は、ヴォル機に一斉に斬りかかってきた。

しかし、相手が悪い。

量産機では最強と言われる『ヒジカタ』を、優れたの剣技の持ち主が使えば、雷武は通常の性能を、遥かに凌駕してしまう。

敵の刀がヴォル機に届くか届かないか、その次の瞬間には、機体は敵のすぐ背後にまで移動していた。もはやそれは機械の動きではない。

外から見ていたとしても、機体の動きを肉眼で追うのが、やっとのスピードだったに違いない。

その動きに驚いた敵機は、パニックをおこして、無茶苦茶に刀を振り回した。

だが、それさえもヴォル機は、鉄の塊とは思えない動きで躱していく。

もちろん、その動きに対しても慣性制御は働いて、中のヴォルや機体には、それほど大きなGはかからなかったが、訓練を受けていないアイやレベッカにはたまったものではない。

特にアイは顔を真っ青にして、『ト、トラ◯ザムーッ』と、謎の悲鳴をあげて目を回している始末だ。そして…………、

「任務完了」

その間、十秒とかからなかっただろう、残りの敵機は、あっという間にヴォル機の重写刀の錆落としとなって、海に散っていった。

あまりに呆気ない敗退に、遠くで様子を見ていた海賊船は全速で逃げだしたが、すでに近くの海域に、同盟国の海軍が包囲網をひいている。

彼らにはもう逃げ道はなかった。

しかし、その海賊以上に今回の闘いに驚いたのは、ノーマンであった。

ヴォルの話しでは、この世界は22世紀だというが、その圧倒的な戦闘能力に、28世紀の軍人である彼が、驚異を感じてしまっていたのである。

『これは、もしも私の世界の軍が闘っても、勝てるかどうか………………』

確かに総合的なテクノロジーでは勝っているだろうが、近接戦闘ともなれば、未来の戦闘機が、この鋼の侍に勝てると思えなかった。


 海賊殲滅後、洋上のヴォル達3機の雷武は、合流地点を目指し飛翔した。

作戦会議の方もすでに終わったらしく、ヴォル機のモニターに、今回の作戦資料が転送されている。数重にロックされたパスワードを開き、データに目を通す。

ただ、前もって作戦内容を知っていたので、見ても特に驚く様子もなかった。

それに、今から行っても作戦は終了しているかもしれない。

程なくして一同を乗せた超音速の鋼の侍3機は、目的地の孤島を視界に捉えられる距離にまで近付いてきていた。


 島はいかにも南国の孤島、といった感じのありふれた島であった。

もっとも、これは過去形の表現である。 以前は野生動物も多くいただろう、島の大半をジャングルのような森に覆われていたがあった。

『いったい何が?』

大きな戦闘でもあったのだろうか、今は荒れ果て森の所々で地膚があらわとなっている。

「昔はいい場所だったそうだがな」

『これも、さっき言ってた襲撃者の仕業なんですか?』

「いや、百年くらい前に、どこかの企業がレジャー施設を造ろうとして、そのときに壊されたらしい。各方面から非難が出たそうだがな、それでも強制的に工事が進んで、結果、このザマだ。しかも工事は途中で何らかの理由で頓挫。後は破壊された自然だけが残り、今は立ち入り禁止になっている」

『生態系もかなり壊されてしまっているようですね』

レベッカが悲痛そうな顔で言った。

彼女の視線の先、近くの岩場あたりに無数の動物の白骨死体が散乱している。

そしてその言葉に呼応するように、何故かアイは胸が締めつけられるような、あの謎の声が聞こえたときのような感覚を感じた。

「我らは数日前に、ここで何者かの戦闘があったらしいとの報告を受け、それを調査に行ったまま行方不明になった者の捜索だ」

『行方不明者の捜索に軍が出動するのか?』

ノーマンが当然の質問をする。

もちろん、それなりの理由があるのであろうことは承知の上だが。

「何せ戦闘があっただろう現場の調査隊だった。 数体の雷武が参加していたにも関わらず、全機が攻撃を受けたうえ大破したと思われる信号を受信したのだ。 上も慎重になろうというものだろう?」

『確かにな』

納得し、ノーマンは肩をすくめ、聞いていたアイとアマンダは、意味がわからず目を点にしていた。


 ヴォル達3機の雷武は、海岸の岩場に着陸した。

襲撃者の居場所は不明だが、島中が相手のテリトリーと考えた場合、少しでもこちらが早く対応できるよう、視界のいい場所を選んだ方が賢明である。

いざというときでも、すぐに広い海上に後退することも可能だった。

だが、妙なことに、

「先行していた他の部隊がいませんね?」

辺りを見渡しながらコバヤシが言った。

予定なら海賊退治に向かった自分達よりも先に、他の部隊が上陸しているハズであり、ここで合流する手筈になっていたが?

「まさかもう襲撃者にやられた、なんてコトないでしょうね?」

「バカなことを言うな」

不安そうに言うコバヤシを、エドワードが叱責する。

しかしエドワードも、気にはなっていたのか、落ち着きなく辺りを見渡した。

そのときだった。

『何か…………………何か来るっ!!』

アイが再び、あの気配を感じた。

得体の知れない何かが、森の中を凄まじい早さで近付いてきているようだ。

「どうした?」

『何だか分からない。でも、危険な何か』

「…………………………」

アイの様子に、ただ事ではないと悟ったヴォルは、

「曹長、軍曹、構えろっ!」

「は? どうかしたんですか?」

「抜刀っ!!」

呆気にとられたエドワードとコバヤシの2人に、ヴォルの叱責がとぶ。

「どの方角だ?」

『あっち』

アイが指し示す方を見て、ヴォルの指示が2人に下る。

「2時の方向、構えろっ!」

「り、了解っ」

理由は分からなかったが、上官の緊迫した様子に危機感を感じて、2人は重写刀を抜刀して構えた。

その直後、アイが言った通りに、その方角から巨大な影が一体、現れた。

一瞬見えた大きさと形から、相手も雷武のようであったが、その形状はヴォル達の機体よりも人型に近く、目は左右に2つ、腹部は引き締まっているのに対し、胸部から両肩が大きく力強いフォルムで、巨大で不格好な重力制御装置さえも、あたかもデザインの一部であるかのようで不自然ではない。

黒を基調としたカラーリングも機体に合っていて、どこか荒武者を感じさせるその姿は、よほどアイのイメージする正義のヒーローロボっぽい。

そして何より、腰の大小2本の重写刀が、不思議と似合っていた。

だが、それを見たヴォル達、この世界の侍軍人3人は、

「まさか…………………、そんな?!」

驚嘆していた。それはまるで、幽霊でも見たかのような表情であった。

とはいえ、さすがは最前線で闘ってきた軍人である。

すぐさま重写刀を構え直し、戦闘態勢を整えた。

こちらの対応の早さに、相手も一瞬驚いたように見えたが、しかし次の瞬間に敵機は、重写刀の間合いにまで入ってきていて、

「っ!!」

瞬く間にエドワード機とコバヤシ機は、スクラップと化していた。

「バ、バカなっ?!」

『まさか、あんな強かった2人の機体が?』

驚いたのは、その一部始終を見ていたノーマン達も同じである。

しかも信じられないことに、敵機の抜刀を、誰も肉眼で捕らえることもできなかった。

『何なんだアイツはっ?』

「あ、あれは……………………」

説明するも、間合いを開けようと、ヴォルは後方に跳躍した。

しかし、いったいどんなマジックかと思うほどに、おそらくは凄まじいジャンプなのだろう、すぐに敵機はこちらの眼前に迫って来ていた。

ヴォル機が相手の一撃を重写刀で受け止められたのは奇跡に近い。

同時、モニターに相手の重写刀の情報が表示される。

そこに示された相手の重写刀の名は「Sanemori」。

「まさか、本当にヤツなのか?」

一気にヴォルの緊張が高まった。

同じ身体を共有していたアイ達にも、それが伝わってくる。

一瞬、全員が恐怖に近い何かを感じたと同時、機体が切り裂かれる衝撃を感じ、モニターがブラックアウトした。

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