第7話
「あ、鳴海先輩。珍しい場所で会いましたね」
「ん? ああ、柊か」
場所は社内食堂、時間は昼休み。
柊と鳴海は偶然隣同士で昼食を摂ることになった。
そして、鳴海は柊の隣に見覚えのない人がいることに気付く。
「あ。鳴海先輩、この子
「…宜しくお願いします」
ジト目、というのだろうか。少し眠た
大きな丸眼鏡が印象に残るなと考えながら、櫻木という名が聞いたことのあるものだと思い出す。
「櫻木、って言うと解析技術部の新人さん?」
「はい。…良く知ってますね」
丸眼鏡の奥の瞳が更に細くなる。
どうやら不思議さより、警戒心の方が先に来るタイプのようだ。
あまり変に勘違いされるのを嫌った鳴海は直ぐに理由を話す。
「櫻木さんの教育担当の
「! そ、そうですか。成る程…」
細めた目の奥が一瞬、左右にぶれる。
褒められ馴れていないのか、はっきり喜びを表すわけではないが、満更でもなさそうだ。
そんなことを考えていると、柊が少し不機嫌そうに横槍を入れる。
「…あの。鳴海先輩は何故食堂に? いつもはお弁当ですよね?」
「今日は、ご飯を研いで炊飯器にセットしたのに、炊飯開始のボタン押し忘れた」
「え!?」
「…えー…」
真顔で抜けたことを言い出す先輩社員にそれぞれ、こいつ大丈夫か?という視線を投げ掛ける二人の新人。
そんな視線を受けて、鳴海は心外とばかりにこう続ける。
「や。よくやるよ? なんでだろうな」
「いやいやいや! 鳴海先輩、中々無いですよ! しかもお米研いでセットまでしてるんですよ!?」
「…美晴の先輩、抜けてる?」
「む。失礼な評価か?」
「そ、そんなことない! 仕事中とかホント頼りになる先輩なんだからっ!」
「おお、嬉しい評価」
「良かったですね、先輩」
柊が一人でツッコミからフォローまでする形で、櫻木と鳴海は通常運転で淡々と会話を続けていく。
「櫻木さんは柊と付き合い長いの?」
「いえ、新人研修からです。美晴、ぼっちだったので」
「え!? 違いますよ、先輩! ぼっちだったのは
「そうか。時間は短くても仲が良い人が居たみたいで安心した」
「任せて下さい」
「な、鳴海先輩もそんな印象持ってたんですか!?」
「いや、だってお前。あの日以来しょっちゅう帰りに遊びに連れて行かせるよな? 遊びに行く同期とかいないのかなと」
「む、ぐぬぬ…それは…!!」
「…私、ぐぬぬって口で言ってる人初めて見た」
「口癖並に聞くぞ、こいつの場合」
確かに柊は、鍵を無くした際に鳴海を強制連行したときから、何かと誘いをかけていた。
鳴海もなんだかんだ面倒見が良いため、その誘いを受け、サシ飲みやカラオケ等に付き合っていた。
実際、鳴海は他に遊ぶ奴居ないのかと同情半ばで付き合っていた部分もあったのだ。
柊にはそのような事実は…少しあったが、それだけが理由な訳がない。
そして、その理由。実はこの櫻木穂花に何度も相談しており、わかっていながらこの様におちょくっているのである。
「…先輩。美晴可愛いですよね」
「ん? ああ、確かに。ぼっちなのが不思議なくらい」
「混ぜっ返さないで下さい。…そんな可愛い子が二人きりで何度も逢瀬してる訳です。ぐらっと来たりしませんか?」
「ま、そうなあ。…実は、ある。あるけど──」
「…けど?」
櫻木は、予想外な同意に少し驚きつつ、鳴海の言葉の続きを促す。
そんな鳴海はチラリと柊に視線をやる。
「ふふふ…鳴海先輩。いつもしれっとした顔してたくせにぐらっと来てたなんて。もっと素直になっていいんですよぉ?」
「……な? 何かと残念なんだ」
「……美晴ぅ…」
「えぇ!? なんで!? 今そういう流れだったでしょ!?」
普通にしていれば蠱惑的と言ってもおかしくない笑みを浮かべるも、先程まで食べていたパスタにあるミートソースが口の周りに付着し台無しとなっている。
柊は、このように悉く決まらないのである。鳴海はわざとやっているのではないかと疑うくらいには遭遇している。
櫻木はそんな柊の姿を見て、ガックリと肩を落とす。
「…美晴。出直そう。貴女はレベルが足りない。修行パートが必要」
「急にRPG!? うーん、私ゲーム好きだけど苦手…」
「そういうとこ」
「どういうとこ!?」
(ほんと仲良いなこいつら…)
既に昼食を終えてお茶を啜る鳴海は、まだ食事途中の二人を横目に午後の業務の予定を思い返すのであった。
尚、二人はこのあともお互いの話で午後の業務開始時間ギリギリに自席へ戻ることになる。
「穂花こそ小坂先輩にアタックしないの?」
「…私は、私のペースがあるから」
「へたれ」
「うっさい残念美人」
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