第2話 もう一人のアリシア。

 私はその夜、流れ星を見た。


 いえ、見たことは見たのだけれど、私の部屋に墜ちてきた。


 ものすごい静寂から突然のものすごい轟音。


 私のベッドは大穴が開いていた。


 ついでに屋根にも大穴だ。


 私は幸いバルコニーで星空を眺めていたので無事だったが、もし寝ていたらと思うとゾッとする。


 家族や衛兵さん達が慌てて駆けつけ、私の無事な姿を見ると安堵の表情をしていた。

 専属メイドのキャシーなんて「お嬢ざまぁ〜良がっだァ」と叫んで大泣きしていた。


 父様も母様も私を抱きしめ安堵していた。

 抱きしめる腕が震えていた。

 その事に気が付き私も抱きしめる腕に力を込めた。


 しばらくの間、騒然としていたけれど、日を跨ぐ時間になったこともあり、皆とりあえず休む事になった。

 只、私の寝むる場所に大穴が開いているので、客間のベッドで寝る事になった。


 次の日の朝、着替えの為に自室に入ると朽ち果てたベッドの中央に不思議な宝石が落ちていた。


 宝石?なのだろうか?滑らかな菱形。


 昨晩は何が落ちて来たのかと皆で調べた時には何も無かった筈なのに。


 それは綺麗な夜空を写す様な輝きを放つ不思議な石。


 私は一瞬で魅せられ思わず触れる。


 触れた瞬間ビリっとして思わず悲鳴を上げた為、後ろで服をチョイスしていたメイドのキャシーが慌てて近付いてきた。


「アリシアお嬢様!どうされました!」


「ああ、ごめんなさい。少しびっくりしてしまって」


「?そうですか。ご無事なら良いのです」


「ごめんなさいね、驚かせてしまって……所でキャシー。これって何かしら?」


「?これとは」


「いえ、この私の周りを回っている、この宝石?のような石の事なのだけれど」


 そう、先程の宝石らしき石が触れた瞬間に空中に浮かび上がり私の周りを回り初めたのだ。


「お嬢様?いったい何をおっしゃっておいででしょう?」


「え?え?こ、これよ!これ!この私の周りをくるくる回っているこれの事よ!」


「……お嬢様。昨晩の事もございますし、気が動転されるて余り深く眠れなかったでしょうから仕方のない事ではございますが、あまり寝惚けられるのはどうかと思われます」


「え?……キャシー?これ見えてないの?」


「アリシアお嬢様。これとは一体どれのことでしょう。悪ふざけも度が過ぎれば嫌われますよ」


「そんな!悪ふざけだなんて……」


「お嬢様。きっとお疲れなのです。一歩間違えれば命に関わる出来事でしたもの。……旦那様にお話して、今日は学院をお休みなされては如何でしょう」


「……そ、そうね。そうさせて頂くわ。ありがとうキャシー」


「いえ。では私は旦那様と奥様にもお伝えして参りますね。お嬢様は自室は使えませんのでゆっくりとは行きませんでしょうが、客室にてご養生くださいませ」


「そ、そうね、ありがとう。後はお願いね。キャシー」


「はい。では何かごさいましたら、お呼び下さい」


「ええ」


 ◇◆◇


 (さて、これは怪我の功名というのかしら。)


 (堂々と学院をサボタージュ出来るなんて。ふふ。)



 客室のベッドでゴロゴロする。



 はー。無駄にゴロゴロ出来るなんて、なんて最高なのかしら!

〈成る程。十代の女性は無駄にゴロゴロするのが好き。入力〉



 当然じゃない。人生ゴロゴロしないで、いつゴロゴロするのよ。

〈確かに。私も59億5269万5627時間程の間、宇宙空間を漂いましたが、あれも考え様によってはゴロゴロしてたのでしょうか?〉



 そうよ。ゴロゴロは最強……59億時間?

〈はい。59億5269万5627時間です〉




「……どうしよう私。本気で、頭おかしくなった?」

〈観測結果としては正常の部類に当てはまるかと思われますわ〉



「わー!」


「アリシアお嬢様!今度はどうなさいました!」



 叫び声を聞いて慌ててやって来たキャシー。



「キャシー!私!どうしよう。頭、本気でおかしくなったかもです」


「何をおっしゃっているのか解りません。もう少し詳しく」


「頭の中で別の人の声がするの!……あれ?でも私の声に似ていたような。あれ?なんで?」


「……お嬢様。少しお休みください。起きていると色々と思考し過ぎて頭が混乱しておられるのです」


「そうなのかな?」


「はい。ですから少しベッドでお休みください」


「キャシー」


「はい。なんでしょう。アリシアお嬢様」



「ね、眠るまで手を握って貰ってもいい?」


「うぐぅ。お、お嬢様。か、しこまりました。眠るまでですよ」


「いつもありがとうキャシー」



 ぱぁっと花開くように笑みを浮かべ、手繋いで眠りにつくアリシア。




「お嬢様。……何時でもお側におります」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る