第17話 贖罪

「ねぇ、黒嶋くん。これはどういうことなの?」


「それは私も聞きたいな。武宮さんに私は呼ばれたんだけど?」


 俺は今、秋風と大倉さんの2人と向かい合っていた。なぜか? そう聞かれたなら答えは簡単だ。俺が2人を呼び出したのだ。と言っても、俺が呼び出したのは秋風だけで大倉さんは武宮さんに声を掛けてもらった。なので、大倉さんは申し訳ないけど少し騙させてもらったことになる。


 昼休みに俺は秋風に学校が終わったら駅近くで少し会えないか? とLINEのメッセージを送ったところ了承の返事が来たので武宮さんにお願いして大倉さんに声を掛けてもらっておいたのだ。


「何かを話す前にこれだけは言わせて欲しい。すまんかった!」


「「?」」


「今日の急な呼び出しもそうだけど、中学時代に関してもだ」


「黒嶋くん? いきなり、何を言ってるの?」


「そうだよ黒嶋。理由を説明して」


 そう言って2人は俺に詰め寄ってくる。やっぱりそうだ。この2人はさっきから俺にばかり話し掛けてお互いには見向きもしていない。


 駅前に集まってから今は、駅近くの公園にいるのだが移動している間もこうして話している時も2人は一言も会話していない。この状況でここまで徹底しているとお互いに意識しているということだろう。このことで俺は確信していた。この2人はまだやり直せると。あとは、俺の立ち振る舞い次第ということだ。


「2人には申し訳ないけど、俺の諸事情的に仲直りしてもらいたい」


「「……は?」」


「だから、仲直りして欲しいって」


「それはさっき聞いたよ! その意味が分からないの!」


「そうだよ黒嶋! どうして、よりによって澪と私を引き合わせてるの!?」


「だって2人とも中学時代は友達だっただろ?」


 ここで初めて2人はお互いの顔を見合わせた。俺の発言に間違いはないが、どうして今更こんなことを? それも突然。意味が分からない。それが間違いなく今の2人の心境だろう。2人からしてみれば突然呼び出されたと思ったら中学時代に疎遠になった友人といきなり引き合わされているのだから。


「……私帰る」


「……澪」


「それでいいのか?」


「それでいいのかってなに!? 私がどうして片道1時間以上もかけて高校に通ってるのか知ってるよね!?」


「いや、知らないな。聞いたことないし」


 これは本当だ。だが、理由くらい簡単に検討はつく。中学時代の知り合いに会わないように。新しい環境での生活が送りたいから。なら、大倉さんは? いじめられていた秋風はともかく大倉さんはどうしてなのか? 慎也みたいに友人がこの高校に通うから? それはないと断言できる。なぜなら、大倉さんは基本的にずっと1人でいるからだ。彼女もまた自分の環境を変えたかったのだ。秋風という友人を救えなかった自分を許せなかったが故に。そんな、元友人同士が今も疎遠というのは良くない。そして、その原因が少しでも俺にあるのなら尚更である。


「……最低だよ」


「それは最初に謝っただろ?」


「ねぇ、黒嶋くん。私、本当に怒ってるからね?」


「それは覚悟の上だ。俺は俺が2人に嫌われようとも仲直りして欲しい」


 秋風はまるで意味が分からないっていった顔で俺の方を見てくる……いや、睨んでいる。そりゃ、そうだろう。俺は本人達が1番して欲しくないであろうことをしているのだから。


「……中学生の時は無駄なんて言ったくせに」


「大倉さん。そのことについては本当に悪かった。あの時は本当に言葉が足りなかった」


「言葉が足りなかった?」


「あぁ。今更言っても言い訳にしか聞こえないだろうけど、無駄だと言ったのは考えている時間こと。時間が経つだけ余計に気まずくなるって俺は言いたかったんだよ」


「……そんなこと今更言われても」


「あぁ。だから、気にしなくていい。大事なのは2人が仲直りしてくれることだから」


 そのためなら俺は何でもしてやる。これは、みゆに言われたからじゃない。きっかけはそうだったとしても俺は心の底から2人には仲直りして欲しいと思っている。


 2人は何も悪くないのに、周りの環境のせいで仲が良かった2人が引き離されるなんてことはあっていいはずはない。これは、それを助長するようなことをしてしまった俺の贖罪だ。だから、今日はみゆは傍にいない。これは、俺1人でしなければならないのだから。


「……無理だよ」


「秋風。それでも俺は2人には仲良くしていて欲しい」


「いきなりそんなことを言われても無理に決まってるよ! 私だって唯華とは友達と思ってた! そう思ってたよ! けど、中学時代の私は1人だった! 誰もいなかったんだよ!?」


「……澪」


「何よりも友達のことをこんな風に言っちゃう私が1番嫌いだよ! もうこんな思いはしたくなかったのに!」


「それがお前の本音か」


 俺がそう言うと秋風は肩で息をしながら俺の方を睨みつけてくる。まるで親の仇を見るかのような目で。正直に言ってしまうと、秋風からこんな目で見られるのは辛いものがある。けど、それだけは言ってはいけない。思ってもいけない。俺は友人を1人失う覚悟でここにいるのだ。その代わりにその友人が本当に大切な友人とまたいられるようになるならと。だから、俺が今声を掛けるべきなのは……


「だそうだよ大倉さん」

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