第16話 招集

 みゆに許されない宣言をされてしまった翌日の昼休み。俺は秋風と大倉さんに仲直りをしてもらうべく、どうすれば良いかを考えるために俺が声を掛けられる人全員に食堂へと集まってもらった。


「よし、全員集まったな」


「全員って言ってもいつもの4人だけどね……」


「…………」


 みゆの言う通り俺が声を掛けて集まってもらったのは、慎也と武宮さんだけなのだが……。いや、今回の内容はかなりシビアなものだ。多くの人に言いふらすのも違うだろう! うん! 


「それで、和哉。俺はどうして呼ばれたんだ?」


「私もまだ聞いてないよー」


「いや、それはだな。大倉さんと秋風のことで相談があってな」


「「?」」


 当たり前だが慎也と武宮さんは全くなんのことだか分かってなさそうだ。俺は昨日みゆにも話したことを全く同じように慎也と武宮さんに伝える。その上でどうにかしてあげたいから力を貸してくれと頼んだのだが……


「「……最低」」


「うっ……」


「おい、和哉。さすがにそれはダメだろ!?」


「そうだよ黒嶋くん! 言葉が足りないにも程があるでしょ!?」


「全くもって返す言葉もございません……」


 分かっていたことだが、この2人にもみゆと全く同じような反応をされてしまった……。実際に今思い返してみると、確かにあれはないなと自分でも思ってしまうのだから仕方の無いことなのだが。当時の俺は一体何をしているんだ……いや、本当に。


「それでまぁ、あの2人を今更ながらもどうにかしてあげたいなと思うわけなんですけど……」


「はぁ……全く和哉は仕方の無いやつだな」


「本当にね。黒嶋くんらしいと言えばらしいんだけど今回ばかりはねぇ」


「……反省してます」


「それで? どうにかしてあげたいって言うが、和哉は最終的にどうしたいんだ?」


「は?」


 いきなり慎也は何を言っているんだ? そりゃ、中学時代の仲が良かった2人に戻してあげたいと俺は思っている。今の話の流れならそれ以外に何があるというんだ?


「そりゃ、仲が良かった頃に戻って欲しいと思ってるけど」


「本人達はそれを望んでるのか?」


「「「!?」」」


「本人達が心の底からそう思っているなら、俺達が干渉する必要なんてないんじゃねぇの?」


「それは……」


 確かに慎也の言うことも一理あるのかもしれない。本人達が心の底からそれを望んでいたのならば、そもそも今みたいなことにはなっていないはずなのだ。


 俺は悩むだけ時間が無駄だと思ったように、実際問題としてどうすればいいかは本人達が1番分かっているはずなのだ。けど、そうしなかったのはなぜだ? 


「慎也のくせに核心を突いたようなことを……」


「俺のくせにってなんだよ!? 俺は思ったことを言っただけだぞ!?」


「確かに加賀くんの言う通り……なのかな?」


「ううん。それは絶対に違うよ」


「みゆ?」


 食堂に来てからずっと黙っていたみゆがここにきて声を大にして主張している。それは絶対に違うと。みゆは確信を持って言っているように見える。


「絶対にあの2人は仲直りした方がいいに決まってる。だって、あの2人の時間は今も止まったままなんだよ」


「時間が止まったまま?」


「うん。大倉さんが友達を作らないでずっと1人でいるのはどうして? 澪ちゃんが片道1時間以上もかけて高校に通っているのはどうして?」


「それは……」


「大倉さんも澪ちゃんも中学時代の自分が許せないんだよ」


「秋風も?」


「うん。澪ちゃんもだよ」


 大倉さんが自分を許せないのは分かる。けど、どうして秋風も自分を責め続けていることになるんだ?


「澪ちゃんはいじめられたのは全部自分が悪いって思ってるんだよ」


「は? なんで、そうなるんだよ」


「澪ちゃんは優しいから。だから、もう二度とこんな思いはしないでいいように環境を変えて、自分も変えてるんだよ。本当の自分を押し殺してね」


 それならば、確かに2人の時間は止まったままなのだろう。大倉さんは周りを拒絶したままの時間を。秋風は自分自身を拒絶したままの時間を。共通していることは2人とも己を押し殺しているということ。そんなの、死んでいるのと何も変わらないのかもしれない。


「はぁ……それならすることは最初から1つしかなかったわけだな」


「どうするのか決めたの?」


「なぁ、みゆ。俺が泣いたら慰めてくれるか?」


「その時は一生私から離れなくなるくらいに甘やかしてあげるよ」


「そりゃ最高だな」


 それならもう躊躇う必要は無いだろう。俺は中学時代からの友人に嫌われてしまうかもしれないという覚悟を決めてスマホを取り出してメッセージを送るのであった。

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