第15話 最低
大倉さんは変わった。俺の知っている大倉さんと今の大倉さんはまるで別人なのだ。思い出した今でも、同姓同名の別人だと言われた方がしっくりとくる。
「具体的にどう変わったの?」
「全部」
「全部って.........」
「俺の知っている中学時代の大倉さんはギャルじゃなかったんだよ」
「容姿のことなの? それだけで忘れるなんて和哉くん.........」
「いや、容姿もそうなんだけど性格的な面でも全然違うと思う.........多分だけど」
多分といった曖昧な表現なのは、俺が大倉さんと高校生になってから話をした回数というのは片手で収まる程の回数でしかないからである。というか、修学旅行の班決めの時くらいである。
「そんなに違うの?」
「多分だけどな。大倉さんって教室にいる時はいつも一人じゃないか?」
「確かに誰かと一緒にいるところはあまり見ないね.........。強いて言うなら伊織ちゃんくらいかな?」
「俺の知っている大倉さんはクラスでも人気者って感じの明るい感じの人だったんだよ」
当時の俺は秋風について話をされる時に、どうして俺なんだろうか? 他にも相談相手はいるだろうにって思っていたくらいだし間違いないだろう。
「確かに今の大倉さんとは全然違いそうだね.........」
「だろ?」
「だからって、開き直るのは良くないよ」
「ごめんなさい.........」
「でも、どうしてそんなに変わっちゃったのかな?」
「まぁ、それは間違いなく秋風のいじめの件が原因だろうな.........」
「そういえば、和哉くんは大倉さんから澪ちゃんのことで相談されていたんだったね」
今にして思えば、俺に相談するくらいだし、相当追い込まれていたのかもしれない。中学三年の頃は秋風とまともに関わりがあるのが俺と慎也くらいだったのも大きいだろうけど。
「ちなみにどんな相談をされてたの?」
「秋風と大倉さんって友達だったんだよ」
「うん。それは聞いたよ?」
「けど、秋風がいじめられるようになってからは少し距離を置いていたみたいでな」
「あぁ.........仲直りしたくても出来なかったんだね?」
「本人は謝りたいとしか言っていなかったけど、それで間違いないと思う」
俺としては、だったら謝ればいいじゃん? と思うのだが、時間が経ちすぎるとそんな簡単なことすら難しくなってしまうらしい。そこで悩むだけ時間の無駄だと思うんだけどなぁ。
「今日の澪ちゃんの様子を見る限りだと.........」
「まぁ、そういうことみたいだな」
「私としては今からでも仲直りして欲しいんだけど.........」
「今更、俺達がどうこう言う話でもないだろ」
「そうだよね.........。和哉くんは大倉さんに相談されている時はちゃんとしてたの?」
「当たり前だろ? ちゃんとアドバイスとかもしていたぞ」
秋風とは中学生の頃からよく話すようにはなっていたし、友達だとも思っていた。だから、秋風が一人でいるのを見るのは思うところがあったし、謝りたいと言ってくれる人がいるなら是非とも謝ってもらって仲直りして欲しかったしな。
「和哉くんはどんなアドバイスをしていたの?」
「確か.........そんなこと悩むだけ時間の無駄みたいなことを言った気がする」
「.........最低」
おっと、みゆが今までで見たことも無いような冷めた目で俺の方を見てくる。これは大変よろしくない誤解をされている気がする。
「違うぞ? 俺が言いたかったのは悩むだけ無駄だから諦めろって意味でも、時間の無駄だから話しかけるなって意味でも無いからな?」
「.........ほんとに?」
「当たり前だろ! いくら俺でも、そんなことは言えないからな?」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「だから、どうすればいいか悩んで考えてる暇があるなら早く謝りにいかないと時間が経つだけでより気まずくなるぞ? って意味で言ったんだよ」
ただ謝るという行為一つのために悩み続けるなんて意味がわからない。謝り方を知らない中学生なんている訳もないのだから。それに、時間が経ちすぎて気まずくなっているのに、これ以上時間を経過させるなんて馬鹿のすることだ。
「ねぇ、和哉くん。そういう意味だとちゃんと大倉さんに説明した?」
「してない.........か? なんか、気づいたら相談されなくなってたし?」
「和哉くんの馬鹿!!」
「!?」
「ただでさえ傷心してるのに、時間の無駄なんて言われたら誰だって傷つくでしょ!」
「いや、だから俺は」
「言い訳しない!」
「はい!」
俺としてはさっき説明した通り、別に傷つける気なんて全く無かったし、真剣にアドバイスをしたつもりだったんだけど.........。けど、みゆみたいに大倉さんが誤解していたら? .........あれ?
「もしかして俺、最低な奴になってる?」
「最低だよ!」
「うぐっ.........」
みゆに最低なんて言われると、死にたくなるくらい辛い.........。けど、今回に関しては俺が悪い.........のかもしれない。大倉さんが誤解してしまっていたなら俺はただの最低な奴となってしまう。
「和哉くん! 澪ちゃんと大倉さんのことは和哉くんが何とかして!」
「頑張ります.........」
「私も協力はするけど、何とかしてくれるまで和哉くんのこと許さないから!」
「!?」
それは大問題だ。早急に何とかしなければ.........。とりあえず、俺一人でどうこうできるとも思わないし、みゆも協力してくれるそうなので他の人にも協力してもらおう。と言っても、俺が相談できる人なんて二人しかいないのだが.........。
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