第12話 プレゼント
「........プレゼント?」
「大正解! 改めて和哉くん! お誕生日おめでとう!」
そう言ってみゆは俺にラッピングされた箱を手渡してくれる。
なるほど。確かに誕生日といえばプレゼントを貰うものだと聞いたことがある。俺は何か貰っていたような記憶はないけど........というより、昔から俺には物欲というものがあまり無かっただけなのだが。それでも、世間的には誕生日とはそういうイベントだということくらいは俺でも知っている。
「和哉が欲しそうなものなんか検討もつかないから大変だったんだぜ?」
「ほんとにね! 黒嶋くんってみゆちゃんさえいれば他に何もいらなさそうだしね!」
「黒嶋くんって物欲あるの?」
そんな文句のようなことを言いながらも慎也達も俺にプレゼントをくれる。文句に関しては俺も認めるところではあるので何も言い返すことはしないんだが........あれ?
「和哉くん........?」
「なんだこれ........あれ?」
何故だか分からないが俺の足元へとポツポツと雨のように水滴が落ちてくる。それが自分の涙であることを認識するのに俺は数秒を要した。
「なんだ和哉! 泣くほど嬉しかったのか!」
「あっ........」
「ふふ。和哉くんどうして自分が泣いてるのか分かってなかったでしょ?」
「はは。みゆには敵わないな........」
俺は嬉しかったのか........。こうやって誕生日を祝ってもらえただけでも嬉しかったのに、プレゼントまで貰えるなんて思ってなかった。これはもう嬉しいを通り越して幸せなのかもしれない。それなら、涙が出るのも仕方ないってもんだ。
「今日は普段は見れない黒嶋くんばかりだね!」
「ほんとにね。本当に普段はどうしてこう素直じゃないんだろうね」
「ふふ。私の知ってる和哉くんは普段からこれくらい可愛いんだけどね」
「うっ........」
「でも、和哉くん? 私としてはあまり可愛い和哉くんは他の人には見せて欲しくないんだけどな?」
みゆがそう冗談っぽく言うと笑いが起こり、場が和やかになる。同級生の前で泣いてしまったことは俺にとっては恥ずかしくもあったのでこうやって冗談を言って場を和ませてくれるのは正直助かる。もしかしたら、みゆは分かってて言ってくれたのかもしれないな。ほんと、俺にはもったいなすぎる彼女だと改めて思うよ。
「なぁ、和哉。せっかくだしプレゼントを開けてみてくれよ」
「いいのか?」
「もちろんだよ!」
「そういうことなら........」
俺はそう言って、まずは慎也からのプレゼントを開封してみる。
「スマホケース?」
「おう! 和哉って今使ってるスマホケースしか持ってなかっただろ?」
「確かに今使ってるやつもボロくなってきてたからな」
「だろ!?」
「慎也にしては気が利いたプレゼントだな」
「そこは素直に喜べよ! 泣いてくれてもいいんだぜ?」
「うるせぇ!」
口では悪態をつきながらもこのプレゼントは正直かなり嬉しかった。デザインも俺好みのシンプルな黒色のものであるあたり、この中で一番付き合いの長いだけはあるのかもしれないな。
「はいはい! 次は私のを開けてみてよ!」
「了解」
武宮さんの要望に応える形で俺は武宮さんからのプレゼントを開封する。サイズ的には一番大きかったので俺も何が入っているのか気になっていたのだが........
「水筒?」
「ぶっぶー! はずれ!」
ラッピングを剥がしていくと中からは透明のボトルのような物にデザインが施された物が出てきたので水筒だと思ったのだがどうやら違ったらしい。
「正解は筆箱でしたぁ!」
「通りで水筒にしては少し小さいわけだ」
「黒嶋くんの欲しい物が分からなかったからねぇ。それなら、役に立つものにしようと思ってね!」
「なるほど。武宮さんもありがとう」
「うん! どういたしまして!」
残るプレゼントは二つなのだが........さっきからやたらと視線を送りつけてくるので、先に秋風の方から開けようと思う。多分だが、この視線はそういう意味なのだろうから。
「CD?」
「うん。私も黒嶋くんの欲しい物がわからなかったから。だから、私のオススメの物にしようと思ってね」
「このアーティストが最近のトレンドなのか?」
「私的にはね。世間的にはそこまで有名じゃないから黒嶋くんも知らないと思って」
「確かに知らないな........。秋風がオススメだって言うのなら期待しとくよ」
「あまり好みじゃなくても怒らないでよね」
秋風は少し照れたようにそっぽ向くが、仮にも吹奏楽部の秋風がオススメだと言うのなら期待してもいいだろう。吹奏楽部が関係あるのかは知らないが同じ音楽なのだし問題ないだろう!
「それじゃあ、最後は私のだね!」
「だな」
俺は本日最後のプレゼントを開封する。ラッピングを剥がして見ると中からは何のデザインもない白箱が出てくるので、その箱を開ける。
「チケット?」
「うん」
箱の中からは何かのチケットが裏向きに入っていた。最後の最後までお楽しみ感を出させるのはみゆらしいと言えるのかもしれない。今日の誕生日会だってサプライズの連続だった訳だし。
「えっと........美術館?」
「うん! 私は和哉くんに喜んで欲しくて、私が和哉くんにされて嬉しいことはお出掛けに誘ってくれることだったから」
「はは。みゆらしいな。でも、ありがとう」
「うん!」
俺が礼を言うとみゆは嬉しそうに微笑んでくれる。さすがは俺の彼女とでも言うべきなのか、本当にみゆは俺が望んでいるものをピンポイントで当ててくれる。それが何よりも嬉しいと思えたのは秘密である。
「さすがに彼女さんには勝てませんなぁ」
「だねぇ。美術館のチケットなんて彼女の特権だしねぇ」
「うん。私達が黒嶋くんを二人で遊びに誘う訳にもいかないしね」
プレゼントの開封が終わってからは明日も学校があるので、時間的には少し早いがお開きとすることになった。もちろん、武宮さん家を散らかしたまま帰る訳にも行かないので片付けを済ませてからだ。なお、俺は今日の主役だとか何とか言って片付けには参加させてもらうことは出来なった。
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