第11話 意地悪
誕生日会が始まるとリビングに置いてあったテーブルの上に様々な料理が運ばれてくる。と言っても、デリバリーピザやスーパーで売っている惣菜なのだが学生の誕生日会にしては十分すぎるほどだ。それらを食べながら盛り上がっていると時間はあっという間に過ぎていき、テーブルの上に置いてあった料理も残り少なっていく。
「........なんかいいな」
「和哉くん?」
「ん? あぁ、口に出てたか?」
「うん。急にどうしたの?」
「誕生日なんて実家にいた時はその日の夕飯がいつもより豪華になるくらいだったからさ。こうやって祝ってもらうなんて初めてだったからさ。なんか、こういうのもいいなと思って」
俺にとっては、誕生日と言っても夕飯がいつもより豪華になるだけのただの平日だった。別にそのことに対して不満なんてものは全くなかった。それが俺にとっての普通であったし、じいちゃんとばあちゃんにもちゃんと祝ってもらってはいたのだから。だから、まさか俺が彼女や友人達にこうやって祝ってもらえる日が来るとは思いもしなかった。この事に対して違和感のようなものがあるが、今はその違和感が心地良いとさえ思える。
「ふふ。そう思ってもらえたなら誕生日会は大成功だね」
「ほんとに感謝してるよ」
「「「え?」」」
「なんだよ........」
俺が素直に感謝を伝えるとみゆ以外の三人が何かありえないものを見たっといたような顔で俺の方を見てくる。
「和哉が素直に礼を言うなんて........」
「黒嶋くんがデレた?」
「いつもこれくらい素直だったらいいのに........」
「泣くぞ?」
「大丈夫だよ。和哉くんはいつも素直だからね?」
「「「みゆちゃん(白夢さん)にはね」」」
みゆが慰めてはくれるものの、他の三人が俺の事をどう思っていたのかがよく分かった。そこまで言われるほどのことはしてないと思うんだけどな........。
「そう言えばみゆちゃん」
「なに?」
「今日来るの少し遅くなかった?」
「あぁ、それはね........ふふ」
「「「「?」」」」
「和哉くんが可愛かったからつい意地悪しちゃってね」
「は?」
意地悪? 俺、なんかされたっけ? みゆに何かされた記憶が全くないのだが........。
「私ね、一昨日に和哉くんを少し怒ったの」
「誕生日を教えてくれてなかったことだよね? それは怒って当然だよ」
「うん。でね、その時に和哉くんには二日後の予定を空けとくようにキツく言っちゃったんだけど、二日経っても何も無いことに戸惑っている和哉くんを見ていると可愛くて焦らしちゃってたんだ」
あぁ、なるほど。確かに家を出る直前までみゆは本を読みながらもこちらをチラチラと見ていたのか。あれは俺の反応を見て楽しんでいたということか........。確かにこれは意地悪だ。まぁ、これくらいなら甘んじて受けて入れるけども。
「へぇぇ。和哉はそんなに楽しみにしてたのかぁ」
「黒嶋くんも可愛いとこあるんだねぇ」
「いつもそれくらい可愛げがあればいいんだけどねぇ」
「........うるさい」
それに俺は、みゆ以外のの三人にそんな生暖かい目で見られる筋合いはないのだ。俺は、みゆに誕生日を祝ってもらえることを期待していただけで、まさか三人もいるとは思ってなかったのだから。ありがたくはあるんだけども........。
「いやぁ、和哉がそんなに楽しみにしてたならそろそろいっとくか?」
「だね!」
「仕方ないね」
「なんの話しだ?」
「ふふ。和哉くん。誕生日と言ったら?」
「美味しいご飯?」
「残念はずれ」
そう言われても俺の誕生日は何度も言ってると思うが、夕飯が豪華になるだけの平日なのであって誕生日と言えば? と聞かれたらそれ以外に答えられないのだが........。
「正解はねぇ........これ!」
そう言ってみゆが持ってきていた鞄から取り出したのは綺麗にラッピングされた箱であった。
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