第35話 遊園地

「やっぱ人多いよなぁ.......」


「春休みだからね。それに今、春休みキャンペーンだとかで入場料半額だったし」


 俺とみゆは駅でみゆがナンパされるなんていうアクシデントも発生したが、その後は特に何事もなく電車に乗って何回か乗り換えをしたあと、目的地であるテーマパークに到着した。どこに行くかという話になった時にみゆが遊園地に行ってみたいとのことだったので来たわけなのだが.......


「どうしよう和哉くん.......私もう人に酔いそうなんだけど.......見てるだけでもしんどくなってきた.......」


「おい」


 言い出しっぺであるはずのみゆが既にこのザマなのだ。まだ、入場さえしていないというのに.......。

 けどまぁ、みゆの言いたいことも分からなくもない。開園してから3時間ほど経ってから来たというのに、入場チケットを購入するための列も未だに長蛇な列となっているのだから。


「まだチケットも買ってないし、どうしても無理そうなら別のとこ行くか?」


「やだ」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫.......とは言えないかもだけど、ここがいい」


「みゆがそう言うならいいんだけど、もう無理だってなったらちゃんと言ってくれよ?」


「.......分かった」


 30分ほど並んでからチケットを購入することができ、さらに15分ほど並んでからやっとテーマパーク内に入場することが出来た。


「入場さえしちゃえば、中は広いからさっきまでよりはマシだね」


「だなぁ。けど、乗り物に乗る時はまた並ばないと行けないぞ? それこそ1時間以上は並ぶものも多いと思うぞ?」


「.......もう何も乗らなくても良くない?」


「一体ここに何しに来たんだよ.......」


 とりあえず、園内を見て回ろうということで何に乗るでもなくテーマパーク内を散策し始めることにした。時間的にお昼時なのでご飯を食べるかと提案したところ乙女的に死ぬことになるからダメだそうだ。乙女的に死ぬってなんだよと聞いたところ怒られてしまった。乙女的に死ぬって何なんだろうか?


「それにしても広いな」


「だね。園内マップを見てもまだ半分くらいしか回れてないよ」


「まじかよ.......まっ、そのおかげで人と人との距離はあるから人に酔うことも無さそうだな」


「うん」


 人は確かに果てしなく多いのだが、それよりも園内の広さが勝るので人とぶつかったりだとかそういった事は全くなかった。むしろ、快適に園内を見て回れている。


「ふぅ.......これで一通り見て回れたか?」


「うん」


「ちょうどそこのベンチ空いてるし少し休むか?」


「うん。正直もう疲れたよ.......」


「まだ何も乗ってすらいないけどな?」


 けどまぁ、確かにインドアなみゆにとってこの人混みとテーマパーク独特の雰囲気はしんどいのかもしれないな。俺もインドア派ではあるが、日々のバイトのおかげで体力だけはそこそこあるから大丈夫なのだ。


「私、こういったところには初めて来たけど今日1日で私に向いてないことだけは分かったよ.......」


「まぁ、確かにみゆにはこういった所は向いてなさそうだもんな」


「.......ごめんね」


「なにが?」


「私のせいで和哉くん.......あんまり楽しめてない気がしたから.......」


「別にいいよ。それに、こうしてフラフラしてるだけでも意外と楽しいしな」


「.......ありがと」


 別に謝罪もお礼も必要は無い。確かに乗り物とかには乗っていないが、みゆと2人であぁだこうだ言い合いながら園内を見て回るのもまったりしていて悪くないと思ったのは本当なのだから。


「とは言っても、せっかく来たんだから何か乗っとくか?」


「それならあれがいい」


 そう言ってみゆの指さしたのはジェットコースターであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る