第34話 アクシデント
「それじゃあ、10時に駅前に集合ね?」
みゆはそう言って家を出て行った。ただいまの時刻は9時30分である。なので、30分後に駅で集合ということになる。
今日は春休みに入って初めて俺とみゆの共にバイトの無い日なので、前に約束していたどこかに遊びに行こうという約束を今日果たすことになっていた。同じ家に住んでるんだから駅まで一緒に行けばいいだろって? もちろん、俺もそう思うし、そう言った。
「それだといつもと変わらないでしょ?」
とのことだ。一体何を変えたいのだろうか? いつもと一緒で何がいけないのかは俺には分からないが、駅まで1人で行くかみゆと行くかだけの違いなので別にそれくらいなら全然問題は無いから了承したのだが.......
「みゆのやつ.......思いっきりナンパされてるじゃねぇか.......」
俺の家から最寄りの駅までは歩いて15分くらいかかるのでみゆが家を出てからほとんど間を空けることなく家を出て駅に向かった。春休みなので、駅には人もそれなりに多くいたのでみゆを見つけられるかが若干不安ではあったのだが、俺のそんな心配を他所にすぐにみゆは見つかった。1ヶ所だけ明らかに周りの人が距離をとっている空間ができており、そこを見るとチャラそうな4人の男達に囲われる1人の美少女。お察しの通り、みゆが4人のチャラそうな男達に囲まれていたのだ。
「ねぇ、君。可愛いね。今から暇でしょ?」
「人を待っているので」
「そんな嘘ついちゃってぇ。まぁ、仮に本当だったとしても絶対に俺達の方が楽しませてあげられるぜ?」
「結構です」
「つれないねぇ.......俺泣いちゃいそうだよぉ.......ヨヨヨ」
「はぁ.......」
「そんな楽しく無さそうな顔しないでさ、俺達と遊ぼうぜ? 最高に楽しませてやるからよ?」
「もう本当に結構なんで.......」
なんか、大変そうだなぁ.......いざとなったら警察でも呼ぼうとか考えていると思いっきりみゆと目があった。うん、これ警察なんか呼んでる暇さえ無さそうだ。
「あの~すいません」
「なんだ? 俺達になんか用か?」
うわぁ、ちょっと声掛けただけで喧嘩腰だよ。痛いのとめんどくさいのだけは勘弁して欲しいな.......。
「いや~お兄さん達じゃなくて、そこの女の子は俺の連れなんで」
「何なのお前? この子の彼氏とかなの?」
「まぁ、そんな感じですかね? ほら、さっさと行くぞ」
「うん」
そう言って、みゆの手を取ってこの場を立ち去ろうとするとみゆの手は震えていた。
「和哉くん遅い.......」
「.......すまん」
やっぱ強がってはいても女の子にだもんな。そりゃ、見ず知らずのチャラそうな男に囲まれた怖いに決まってるよな.......警察なんかに頼ろうとするんじゃなくてもっと早くこうしておけば良かった.......。そのまま、この場を立ち去ろうとしたのだが、
「おい、待てよ」
「そうだぜ? お前みたいなやつがその子の彼氏とかふざけるなや?」
「例えそうだったとしても、今すぐ別れりゃ問題ないだろ? お前みたいなやつにはその子は勿体ねぇよ」
「その子を置いて今すぐ消えろや」
はぁ.......やっぱダメかぁ.......。けど、こいつらには俺が何を言っても無駄だろうし、今からでも警察呼ぶか?
「.......ふざけないで」
「「「「え?」」」」
「ふざけないでって言ったの。お前みたいなやつ? お前には勿体ない? 今すぐ消えろや? あなた達は誰に向かってそんなことを言っているの?」
あの.......みゆさん.......? やばい、色々と言われているのは俺なはずなのにみゆがブチギレてしまっている? こんなにも底冷えしたような恐ろしい声は人生で初めて聞いた.......。さっきまで震えていた人とは思えない迫力だ.......。さっきまで繋いでいた俺の手を離して4人のチャラ男達にみゆの方から近づていく。
「いや、だからそこの男に.......」
「あなたは和哉くんの何を知っているの? 何をもって私には勿体ないなんて言ってるの? むしろ、私なんかが和哉くんにとって勿体ないくらいだよ?」
いや、それは無いだろ。顔だけ見ても、美少女とそこら辺のモブくらいの差はあると思うぞ? 何なら、俺はモブの中でも顔すら書いて貰えない部類のモブまであるぞ?
「何も知らないくせにまだ和哉くんのことを悪く言うなら私、容赦しないよ?」
「「「「.............」」」」
「和哉くん行こ」
「あ、あぁ.......」
そう言ってみゆは離した俺の手を取ってこの場を去っていく。正直言って、あのチャラ男4人組なんか比べ物にならないほどみゆが怖かったんですけど.......。
「せっかくのデート気分だったのに.......これじゃあ、台無しじゃない.......」
「いや、デートって.......」
「.......違うの?」
う~ん.......どうなんだろうか? 付き合っていない男女であったとしても男女2人で出掛けたらそれはもうデートなのだろうか? まぁ、広い意味で見たらデートということで間違いはないだろう。
「違わなくもないんじゃないか?」
「!? .......まさか、和哉くんがこれをデートとして認識してくれるなんて」
「いや、みゆから言ったんじゃん.......もしかして違ったか?」
「ううん! 違わない!」
「お、おう」
すごい勢いで反応されてしまった.......普段は大人しいみゆからは想像も出来ないくらいの勢いだった。
「それじゃ、行こっか」
そう言って俺に微笑みかけるみゆはさっきまでのみゆとは完全に別人であった。
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