第36話 恐怖


「.......本気で言ってるのか?」


「遊園地といったらジェットコースターでしょ?」


「あれ多分っていうか、絶対めちゃくちゃ並ぶぞ? 人もいっぱいいると思うぞ?」


「そんなの分かってる」


「本当に大丈夫か?」


「和哉くん過保護すぎ」


 正直に言ってしまおう。俺はめちゃくちゃビビっている。怖いからやめて欲しいと言えばみゆもやめてくれるのだろうが、そんなことは情けなさすぎて言えないのでどうにかみゆに諦めてもらおうと思ったのだが.......


「早く行こ?」


「お、おう.......」


 これは俺も覚悟を決めないといけないらしい.......。やはり案の定というべきか、ジェットコースターの列は果てしなく続いており電光掲示板には1時間30分待ちとなっていた。


「なぁ、みゆ。本当にジェットコースターにするのか? 1時間半も並ばないとダメみたいだぞ?」


「大丈夫。思ってたより短くて安心したくらいだから」


「さっきまで人に酔いそうとか疲れたとか言ってみゆの口からそんな言葉が出るとは.......」


「もう、さっきからなんなのって、もしかして和哉くん怖いの?」


「!? そ、そんなわけないだろ.......」


「ふーん、そうなんだぁ。和哉くんがねぇ。怖かったらやめてもいいんだよ?」


 くっ.......ここで素直に怖いって言えるならどれだけ良かっただろうか.......。こんな挑発に、何より俺の男としてのプライドがそれを絶対に許さなかった。あとで、後悔すると分かっていてもここで引くことはできないのだ。


「訳わかんないこと言ってないで行くぞ」


「和哉くんって本当に子供っぽいところあるよね」


「.......うるせぇ」


 それから俺とみゆは長蛇の列に並び始めた。少して話しては無言の時間を交互に繰り返していた。それから1時間ほど並んでいるとやっとジェットコースターの乗り降りする場所が見え始めた。


「.......もうすぐだな」


「だね。もしかして怖くてやっぱりやめとけば良かったとか思い始めてる?」


 図星であった。ジェットコースターを乗り降りする人を見る度に自分の番がもう少しでくると思うと段々と怖くなってきていた。死刑を待つ死刑囚もこんな気持ちなんだろうか? それからも並び続けているととうとう次にジェットコースターが行って帰ってきたら俺達の番という所まで来ていた。そして、この時が来てしまった.......


「やっと私達の順番が来たね?」


「あ、あぁ、そ、そうだな.......」


「和哉くんもう怖がっているのを隠そうともしなくなったね.......」


 隠そうにも俺にはそんな余裕は無かった。情けないどころの話ではないが正直ビビりすぎてお腹が痛くなってきた。それから俺とみゆはスタッフの人に案内されて所定の位置に座らされていた。


「あぁ.......俺もう今日死ぬかもしれない.......」


「いや、死なないから.......私達の前に乗ってた人もみんな生きてるでしょ?」


「でも、俺達も死なないとは限らないだろ? もうダメだ.......父さん母さん.......俺もそっちに行きます.......」


「そっちには行っちゃ行けないから.......変わらないかもしれないけど、手でも繋ぐ?」


 みゆがそう言って手を差し出してきたので迷わずその手を俺は両手で掴みにかかった。緊張のしすぎで手汗をかいてしまっているので、みゆには申し訳ないとは思うが今の俺にはそんなことを気にしている余裕は無かった。


「両手で掴んでくるなんて.......和哉くん.......本当に怖いんだね.......」


 それからすぐにスタッフさんの合図とともにジェットコースターは動き出した。ゆっくりとゆっくりと頂上を目指して進んでいくジェットコースター。そして、頂上に到達した。あとは、もう落ちるだけだ。はぁ.......俺はこのまま地獄にまで落ちてしまうのだろうか.......?


「俺、生まれ変わったら猫になりたいって、ぎゃぁぁぁぁあああ!!!!!」


 それから2分ほどの間、テーマパーク内には俺の断末魔のような叫びが響いていたのだった。

 

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