第14話 義務

 き、気まずい.......なんか、泣いてる女の子を慰めるのに相当恥ずかしいことを言ってしまった気がする.......。まぁ、みゆが元気になってくれたみたいで良かったのだが。


「あ、あのだな、これからは深夜帯のシフトも入るから夜いないこともあると思う」


 今後はこういったことがこれからは無いようにすると言った手前言っておくべきだろう。本当はみゆが寝てからこっそり家を出て行く気ではあったのだが.......。


「高校生って深夜帯も働けたの?」


「.......そうみたいだぞ」


「絶対嘘だよね? .......私のせい?」


 察しのいいみゆのことだから、きっと気づいてしまうだろうから隠しておきたかったのだが.......。それに、俺としても自分のせいで俺が迷惑しているとか思って欲しくないのだ。だからこそ俺は、


「まぁ、店長に無理を言って入れてもらうことは間違いないが、みゆのせいって訳では無いぞ? 元々、冬休みの間は深夜帯に入れて貰えるように交渉するつもりだったし」


「じゃあ、どうして?」


「俺は訳あって一人暮らしをしているわけなんだが、学費は出してもらっているけどそれ以外は自分でどうにかするっていうのがその条件なんだ」


「今までそれでやってこれたのに、私が来たら深夜帯にめ働くっていうのは私のせいじゃないならなんなの?」


「来年には修学旅行があるだろ?」


「あっ」


「学費以外は自分でってことは修学旅行の分のお金も自分で出すってことだ」


 これは嘘であるが本当のことでもある。俺は修学旅行には行く気が無いが、学校にお金を払っておく必要はある。そうでなければ、祖父母や学校側から色々と怪しまれてしまうから。修学旅行の前日か当日に修学旅行に行くことをドタキャンすることで、キャンセル料などは発生するだろうが、それでも半分くらいは返金されるはずだ。もう半分はドブに捨てるとの同じだが、こればっかりは諦めるしかない.......。


「.......親御さん達に言えば出して貰えないの?」


「言えば出してくれるだろうけど、一人暮らしをしているのは俺のワガママだし俺のできることは全部自分でやりたい。」


「和哉くんって意外と立派なんだね」


「意外とは余計だ。それより、みゆは大丈夫なのか?」


「何が?」


「いや、だから、ほら.......」


 親に捨てられたんだから、学費とか学校でかかるお金は大丈夫なのか? とか、聞けねぇよ.......。


「お金のこと?」


「あ、あぁ.......」


「それなら大丈夫だと思う」


「そうなのか?」


 自分の娘を捨てるような親だ。学費とか修学旅行代何てものをちゃんと継続して出してくれるものなのだろうか? 捨てた我が子のために出す金額としては大きすぎるようにも思えるんだが.......。


「社会が社会だからね。娘を捨てるなんて今の社会じゃ許されないことでしょ? だから、きっとあの人達もそれを出来るだけバレないようにはすると思う」


「なるほどな.......」


 確かにそう言われると、納得も出来る。それが分かっているなら、我が子を捨てておいて常識があるように取り繕おうとしている事に怒りを覚えずにはいられない。 そもそもの話、みゆが警察などに訴えるとは考えなかったのだろうか?


「お前の両親はお前が警察に訴えるとはとかは考えていなかったのか?」


「無駄なの」


「は?」


「私のお父さんだった人は、大企業の社長だったの。だから、事件のひとつくらいならマスコミにさえバレなければ無かったことにするなんて造作もないんだよ。それに、訴えて裁判になったとしても私は弁護人を雇うお金なんてないしね」


 みゆが口にした大企業の名は俺でも知っていた。いや、日本国どころか世界的にも有名である企業なのだ。そんな大企業の社長だっていうのか.......それなら、確かに民間で起こる事件の1つくらいなら無かったことにするなんて造作もなさそうに思える。


 この国は民主主義だの、基本的人権の尊重だのを謳っているが、国内でトップクラスの富裕層の間では一般市民からしたらありえないことが行われていたり、理不尽に無かったことにされたりなんてことは間違いなくされているだろう。その証拠に、みんながみんな基本的人権が尊重されていて最低限度の生活を保証されているなら、我が国においてホームレスや浮浪者なんてものはいるはずがないのだから。望んでそういった生活をしている人もいるのは間違いないだろうが、それは極めて稀なケースであろう。


 どんなに綺麗事を並べたところで所詮はそれが建前にしかならないのが社会というものだ。綺麗な建前を用意しておけば、裏で行われている社会の闇に気づかないようになっているのだ。


「.......ふざけやがって」


「でも、和哉くんが私を救ってくれた。私を買ってくれて、大切にするとまで言ってくれたんだから私は大丈夫だよ」


 俺の内心を見透かしてかみゆが俺に微笑んでくる。はぁ.......当の本人が気にしないようにしてるのに俺が気にしてイライラする訳にはいかないよな.......。


「だから、私は多分大丈夫だよ。あの人ならお金だけなら履いて捨てるほどありそうだしね」


「違いねぇな.......」


 あの大企業の社長なら、日本国民全員に1万円を配ってもお釣りがくるくらいには持っているんだろうな.......。


「和哉くんが深夜帯も働くの理由は分かったつもりだけど、実は私のためだっていうのなら絶対にやめてね?」


「そうじゃないから安心しろ」


 本当にみゆは察しがいいからな.......バレないように細心の注意がある必要がありそうだ.......。


「あと、無理もしちゃダメだからね?」


「分かってるよ」


 これは嘘だ。俺が無理をするだけで、みゆが普通に過ごせるならいくらでも無理を俺はするだろう。みゆと話すようになったばかりだとか、みゆが家に来てまだ3日だとかそういったことは関係ない。これは、彼女を死なせないと決めた俺の義務なのだから。

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