第5話 問題連鎖


「...................」


「.......なんだよ」


 俺とみゆはみゆの着替えを買いに行くべく、家の近くにあるショッピングモールに行って着替え一式を買い揃えたあと、帰宅した。それから、すぐにみゆにはお風呂に入ってもらい、その間に少し早めの夕飯を作り始め、みゆがお風呂から上がったのとほぼ同時に夕飯を作り終えたので机に並べていたら、何故かみゆに無言で見つめられてるのだ。


「これは.......和哉くんが作ったの?」


「俺以外に誰がいるんだよ」


「ありえない.......」


 俺の作った今日の夕飯は魚の煮付け、ご飯、サラダ、味噌汁といった定食屋でよくありそうなんちゃって煮魚定食だ。ご飯は、家を出る前に炊いておいて、魚はみゆが下着など俺には見られたくないであろうものを購入している間に食料品売り場にて買っておいたのだ。


 和食にしたのは、体が温まり、傷心しているだろうみゆの心が少しでも落ち着けばなんていう俺なりの気遣いであったりする。しかし、みゆの反応をみると不評であったようだ.......。


「そこまで言わなくても.......もしかして、魚介アレルギーだったりするのか?」


「私、アレルギーは何もないよ。それに、私がありえないって言ったのはそういう意味じゃない」


「じゃあ、なんだよ」


「和哉くん.......なんで普通に料理出来てるの?」


「へ? そりゃあ、一人暮らししてるし料理出来なかったら一人暮らしなんてやってられないだろ」


「それもそうなんだけど.......私よりも料理が上手そうだから正直言ってショックを受けていたわ」


「それを面と向かって言われると複雑なものがあるんだが.......冷めないうちに食べようぜ」


「それもそうね」


 そう言って、みゆは俺の前に座る。座ると言っても、我が家の机は折りたたみ可能な机なのでちゃぶ台のような形をしており、椅子なんてものは無いから座布団の上だ。それにしても.......目の前に女の子がいる状態での食事って緊張してしまうな.......。


「そ、それじゃ、いただきます」


「いただきます」


 いただきますの挨拶をしながらも俺は箸を伸ばせないでいた。女の子にご飯を振る舞うなんて俺の人生において初めてのことであり、ちゃんと口に合うだろうか? 美味しくないなんて言われたらどうしようとか考えてしまうのだ。美味しくないなんて言われたら、しばらくショックで寝込んでしまう自信がある。


「.......美味しい」


「え?」


「見た感じから美味しそうだとは思っていたけど、何だか優しい味がする」


「.......そっか。ありがと」


 美味しいと言われたことは、猛烈に嬉しいのだが、どうしても照れが嬉しさを上回ってしまう。


「和哉くんは食べないの? それに、さっきから顔が赤いような.......」


「た、食べる! 顔が赤いのは、あれだ、この部屋が暑いからだ!」


「そう? 私にはちょうどいいのだけど」


「まぁ、気にするな」


「?」


 みゆはしばらく不思議そうにしていたが、夕飯を食べ終わる頃にはもう気にしてはいなかった。


「ごちそうさまでした。美味しかった」


「お粗末さまです」


「和哉くん、お風呂に入ってきて。食器は私が洗っておくから」


「そうか? 悪いな」


「別に気にしないでいい。和哉くんは、私の主様なんだからね」


 みゆはイタズラっ子な印象を与える笑みを俺に向けてきた。こいつ、こんな顔もできるんだな.......。


「本当に頼むから主様はやめてくれ.......」


 そう言って、俺は風呂場に向かって行く。そこで、俺はあることに気づいてしまった。この風呂のお湯って、さっきみゆが浸かっていたものなんだよな.......。なんかそれを考えると、風呂に浸かることに罪悪があるのだが.......。決して、俺は悪くないのだが.......


「うん。無理だよな」


 俺は浴槽に浸かることなく、シャワーだけで済ませて風呂場からでるのだった。だが、この時の俺はもうひとつある重大な問題について気づいていなかった。


「早かったね?」


「.......男の風呂なんてこんなもんだ」


 言えるわけない.......。お前の浸かったあとの、風呂に緊張して浸かれなかったなんて.......。


「そんなもんですか」


「そう言えば、学校の教材とかはあるのか?」


「さぁ? 明日、取り壊される前に一旦家に戻る必要がありそうね.......」


「.......そっか」


「? あぁ、気にしないでいい。私はもう割り切ってるから.......」


 俺がやってしまった感が伝わったのかみゆは、俺に気遣ったようなことを言ってくるが、みゆの顔が一瞬、泣きそうになるのを堪えるように力んだのを俺は見逃さなかった。けど、それを指摘してもいいことは何も無いので何も言わないが。


「あっ.......」


「和哉くん? 今度はどうしたの?」


「俺の家、布団が1つしかない.......」

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