第3話 交渉成立

「.......何言ってるの?」


「この10万円で俺はお前を買うって言ったんだ」


「馬鹿なの?」


「まぁ、馬鹿じゃなければこんなことは言わないわな。けど、これで死のうとしてるクラスメイトを助けられるかもしれないなら、俺は喜んで馬鹿になってやる」


 俺が言っていることが、無茶苦茶な事であるというのは百も承知だ。けど、白夢を死なせないようにするには今の俺では無茶苦茶なことしか出来ないのだ。


「はぁ.......どうして私にそこまで構うの? 私のことが好きなの? それなら、ごめんなさい」


「おい、告白もしていないのに勝手な思い込みで勝手に俺を振るな」


 いくらなんでも自意識過剰過ぎやしないか? 確かに白夢は美少女と言って差し支えないくらいには可愛いけれど。あれ? 自意識過剰でもないのか?


「だったら、どうして?」


「さっきも言っただろ。目の前に死にそうな子がいるのに見て見ぬふりできないだけだ」


「だとしても家に来ないかって、親御さんにも迷惑かかるでしょ?」


「あぁ、それなら問題ない。俺は一人暮らしだから」


「高校生で一人暮らしってそんなことあるの?」


「現に俺がそうなんだからあるんだよ」


「だったら、私と二人暮らしになるけどその事わかってるの?」


「...................」


 そういえば、そうなるんだよな.......。学校でもトップクラスと言っても過言ではないような白夢と二人暮らし.......。これって、普通に考えてもやばくないか? いや、けどこればっかりは仕方ないし.......。


「.......絶対にそこまで考えて無かったでしょ」


「そ、そんなことは、ないぞ?」


「めちゃくちゃ動揺してるし.......」


「う、うるせぇ! そんなことは、どうでもいいんだよ!」


「いや、全然どうでもよくないよ? 下手したら社会的に死ぬかもしれないんだよ?」


 くそ、ド正論じゃねぇか。けど、そんなことすらもどうでもいい。


「お前が実際に死ぬのに比べたら、社会的に死ぬくらい大したことじゃねぇよ!」


「どうして.......なんでそこまで私のためにしてくれようとするの.......?」


「お前がまだ生きることを諦めていないから」


「!? .......どうしてそう思うの?」


 白夢は確かに死ぬつもりではあるのだろう。しかし、死ぬつもりであるだけなのだ。それしか道が無いと、仕方ないことだと思ってしまっている。けど、


「まだ生きたいと思っているから、俺に今日あったことを全て今まで話したことも無かった俺に話したんじゃないのか?」


「そ、それは.......」


「それにお前、言ってたじゃん。まだ死にたくはないって」


「そんなこと、言ってない」


「あぁ、直接は言っていないな」


 けど、彼女は確かに生きたいといった彼女の願望を違う表現でちゃんと俺に言っていたのだ。俺が、白夢にそれでいいのか? と聞いた時に白夢は


゛良いか悪いで言ったら、良いとは決して言えないわね ゛


と答えたのだ。これはつまり、死にたくは無いということに間違いないはずだ。


「だとしても、あなたには」


「もう、ごちゃごちゃうるせぇな! 俺はお前を買ったんだ! つまり、お前の主様はその時点で俺なんだよ! その俺が家に来いって言ってんだからお前に拒否権なんかないんだよ!」


 自分で言っていて、本当に無茶苦茶なことを言っていると思う。日本では人身売買は認められていない? 知るかよ、そんなこと。俺が罪を被ることで白夢が助かるならそんなもんいくらでも被ってやる。


「.............ふふ」


「何笑ってんだよ.......」


「あなたって本当に無茶苦茶でバカで底なしのお人好しなのね」


「.......うるせぇ」


「買われてあげる」


「え?」


「私はあなたに買われてあげるって言ってるの」


 そう言って微笑む彼女は、さっきまで今にも消えそうな雰囲気だったのが嘘みたいだ。彼女が儚げなのは、変わらないが今すぐどうこうっていうのは無さそうだ。


「ふっ。なんでお前が上から目線なんだよ」


「それもそうね主様?」


 こうして、俺たちの二人暮らしが始まった。

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