第3話 出会い

学園長との面談を終え、学長室を退出した僕は校門へ向かって廊下を歩いてると、向こうから黒髪ロングのお淑やかそうな女生徒が歩いてくるのが分かった。


(この色は…先輩だな。休日に学校に来るとは珍しいな。)


この学園はいわゆる令息・令嬢が他の生徒と混ざって通っているので、うっかり失礼なことをやらかさないように、最低限学年はネクタイ・リボンの色で分かるようになっているそうだ。


とはいえ、まだ入学したばかりで顔見知りですらないので、会釈だけですれ違おうすると、向こうから話しかけてきた。


「おや…?見知らぬ顔ですね。この学園に知り合いでも?」


「いえ。この学園に転入することになりまして。学園長と話をしてきたところです。」


「あぁ、貴方がそうなのね!おっと申し遅れました。私はこの学園で生徒会長を務めさせていただいております、雪姫ゆきと申します。」


所作が洗練されてるとはこういうことを言うのか、と感心しながらこちらも自己紹介をする。


「雪姫…先輩ですか。僕は坂本蒼太と言います。」


「蒼太さんですね。学園長から時期外れの転入生が来ることは伺っておりました。もしよろしければ、学園の案内を致しましょうか?新入生の不安を解消するよう努めるのも生徒会としてあるべき姿ですからね。」


一応、先輩の頭上を見たが、特に巻き込まれそうなマークは出てなかったので肩の力を抜く。

正直、この提案は渡りに船で乗りたかったので、変なフラグが立ってないことがありがたい。


「…先輩が良いのであれば、是非お願いします。」


「では、参りましょうか。何か見ておきたい設備はありますか?」


「じゃあ、食堂と体育館だけでも知っておきたいので、その2つをお願いします。」


「分かりました。その2つは頻繁に使うので重要ですからね。」


そう言って案内してもらったが、はっきり言って格の違いというのを見せつけられた気分だ。いや、文字通り格が違うのだが。


まず食堂だが、とにかくデカい。一応全学生が着席出来ますってそんなに要らないだろとツッコミを入れたくなったし、極めつけは和洋中のシェフが常時スタンバイしており、生徒の注文に応じて料理を提供するという、マジでこんな学校あったんだなと言いたくなるようなふざけた設備だった。


次に体育館だが、バスケ2面、バレー4面を確保出来る程の大きさとはいえ、先程の食堂を見てしまったせいか、そこまで大きく感じなかった。…麻痺してきているのかもしれない。

しかも、メンテナンスを欠かさないと言ってるだけあり、インハイの決勝で使えるんじゃね?ってレベルで綺麗だった。僕自身、運動は可もなく不可もなくといった感じなので、特段心躍るというわけでもなかったが。


といった感じで、少々金持ち学校というのを舐めていたようで、余計にこれからの生活が不安になったが、無事に案内をしてもらい終わり校門のところまで来た。


(…案内してもらっておいて良かったかもしれない。初見なら迷ってる自信がある…。どんだけ広いんだこの学園…。)


そう内心冷や汗をかきながら、先輩にお礼を言う。


「今日はわざわざ案内してもらって、ありがとうございました。」


「いえ、先程も申しました通り、新入生の不安を少しでも和らげるのも生徒会の役目だと思っていますので。」


そう言って雪姫先輩は微笑む。


「校門まで案内してもらって助かりました。これで迷わなくて済みました。」


「うちの学園は広大ですからね。やはり、毎年迷う人が出てくるのですよ。なので気にしないで下さい。また、何か聞きたいことがあれば、是非生徒会までいらっしゃって下さい。力になりましょう。」


そう言ってくれた雪姫先輩にまたお礼を言いながら、ここで解散となった。新しい学園で頼れる人が出来たという大きな収穫を得て、家に帰ることにした。



周囲の人間の頭上に未来が表示されるという能力にもすっかり慣れた僕は、家への帰り道を歩きながら、今日の晩御飯について考えていた。


(んー。今日は楽したいし、カレー…かなぁ…。)


カレーは楽じゃないだろ。とツッコミを入れる人もいるかもしれないが、「作る」という点だけで見れば、カレーはかなり楽な部類の料理だ。


閑話休題それはさておき。家の冷蔵庫の中身を思い出していると、足りない食材がいくつかあることに気付いた。


「スーパーに寄って帰らなきゃな…。」


そう呟いたところで、ふと財布の中身を見ると、ちょうど所持金を切らしていることに気付いた。


「あちゃあ、ATM行かなきゃ。お、ここからだと、コンビニより銀行に行く方が近いか。」


そうして、近くの銀行へ向かう。

この時、窓ガラス等で自分の頭上を見ておくんだったと後悔することになる。


銀行で無事お金を下ろした僕は、スーパーへ向かうために銀行を出たところで、目の前をちょうどスーツ姿の外国人が通り過ぎるのが見えた。


癖でその人の頭上を見ると、驚きで声が出そうになった。


(ッ!?"死のマーク"が…!しかも、30秒後!?)


つまりは、このままでいくと、30秒後にこの人は死ぬということになる。


(とりあえず死因の把握からか…吹き飛ばされて頭を強く打って死ぬと…。原因は幾つか考えつくが…。)


呑気に考えている様に思うかもしれないが、ここまで僕が落ち着いて居られるのにも理由がある。

確かに、30秒後にこの人は死ぬが、それはこの人を"そのままにした場合"である。


この能力を手に入れてすぐの頃、周囲の人間で様々な実験をしてみたところ、放置した場合はマーク通りの現象が起こるが、僕が介入した場合、その人の未来の行動が変わり、その現象を回避出来ることが分かった。


最初は誰でも良いのかと思ったが、表示されるマークは僕以外の全ての人間の行動まで含めての未来らしく、目的地に向かう途中で誰かに話し掛けられて足を止めたとしても、それは未来の運命の範疇として、時間になるとその場でその現象が起こってしまうことが分かったのだった。


つまりこの世界においては、僕の行動だけがイレギュラーとなるので、他人の未来を変えたければ僕が動けば良いし、変える必要が無ければ僕が動かなければ良いということだ。


さて、10秒程考え込んでしまったが、今回のような場合の対処は比較的簡単な方だ。現在、周りにこの外国人に話し掛けそうな人は見当たらない。ということは、順当に行けば歩いている最中に何かしらの事態が起こるだろうと搾り込むことが出来る。であれば、この人をあと20秒足止めさえすればほぼ解決だ。


そう結論付けた僕は、その外国人に声を掛けた。





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