第2話 裏事情
そんな僕だったので、わざわざ受け入れてくれる物好きな学校なんてあるのかと不安を感じていたのだが、流石に適当に放り出すことには罪悪感を感じたのか校長の手伝いもあり、思いの外すんなりと見つけることが出来て、とても驚いた。
その高校は、県内2位の学力の私立高校だった。地元では、いわゆる"お坊ちゃまお嬢様学校"って呼ばれてる学校だ。
しかも、全寮制の学校で住む場所に困らない上に、特待生で学費免除付き。
余りに旨すぎる話に不審に感じたので、学園長との面談という名の説明会の時に思い切って聞いてみることにした。
学園長は見た限りでは30代で、スーツをピシッと着こなし、落ち着いた雰囲気を漂わせ、どこか人としての重みを感じさせる大人の男性だった。
「やぁ。初めましてだね。私がこの学園で学園長をさせてもらってる
「初めまして。坂本蒼太と言います。こちらこそよろしくお願いします。今回はこんな時期に転入を受け入れていただきありがとうございます。」
「しっかり礼節を弁えてるね。今時ここまでしっかりしてる子もなかなか居ない。私の目に狂いは無かったようだ。」
「いえ、このくらいなら誰でも出来ますよ。何も誇るようなことでは…。」
「最近はそうでも無いのさ。…と、前置きはこれくらいにして、早速うちの学園の説明に入ろうか。」
「はい。お願いします。」
そこから、学園の特徴、理念、年間行事予定…etc。様々な説明を受けた。
「ーーって感じの学校なんだけど、ここまでで、うちの学園についての質問はあるかな?分からないところがあれば遠慮なく聞いて欲しい。」
そう言ってこちらへ話を振ってきたので、ここで聞こうと決める。
「あの。1つ疑問があるんですが、良いですか?」
「もちろんだとも。そのための面談だからね。新しい学校に馴染むための努力は惜しむべきではないね。1つと言わず、いくらでも聞いてくれたまえ。」
「では。学園についての質問ではないのですが…。僕の特殊な事情は既にご存知かと思いますが、なぜこんな僕を受け入れてくれたんですか?しかも、特待生まで付けていただけるなんて。」
「ふむ。なぜ…か。」
そう言って、学園長は目を瞑り、しばらく考え込んでいた様子だったが、静かに1つ頷くとこちらをしっかりと見据え口を開き語り始めた。
「君ならば口が堅そうだし教えても問題は無いだろう。なにより君は当事者だからね。知る権利がある。とは言え、これから教えることは内密に頼むよ。」
そう断りを入れて、僕を受け入れた理由について話し始めた。
「君を受け入れた理由はいくつかあってね。1個目の理由なんだけどね、これは単純にうちのイメージアップを図りたいからだね。」
「イメージアップ…ですか…?」
「そう、イメージアップ。君の現状は、君自身が理解してるように特殊さ。いわく付きと言っても過言じゃないかもね。だけど、そんな君を好条件で引き取ったとしたら、世間の評判は上がることはあっても下がることはそうないだろう。」
「確かに…良い活用法かもしれませんね…。」
「そう言ってくれると助かるよ。私学は評判が何よりも大事と言えるからね。評判を上げることで生徒もうちを選んでくれやすくなるのさ。」
「…他の理由は?」
「2個目だが、これも1個目と似たような理由でね。君を受け入れることで、様々な方面からの同情を誘って、寄付金を募りやすいからだね。」
「………。」
「軽蔑したかな?」
「…いえ。そういうのも大事なことだと思いますので。」
「聞き分けが良いね。そちらの方がありがたいが。まぁ、私学は何も慈善事業でやってる訳じゃあない。国公立と違って採算も考慮に入れなければならないってことさ。さっきも言ったように、君を受け入れると同情を誘える。そうすれば、スポンサーや国から寄付金を募りやすいのさ。」
(…体のいい金づると言った方が正しいのかもな…。)
そう自嘲しながら続きを聞く。
「あ、何も
「イメージアップのためじゃないんですか?」
「それもあるが、それだけのために特待生の枠を割くなど、自分から裏がありますと宣伝してるようなものじゃないか。」
「…裏事情だらけでは?」
「もちろん、そういう事情もあるとも。だが、ちゃんと特待生をあげるだけの理由もあるさ。」
そう言って悪びれずに笑いながら続けた。
「君が本来通うはずだったのは、うちよりも偏差値の高い県内1位の高校だよね?」
そう言われ、無言で頷く。
「ということは、だ。君は少なくとも、県内1位の高校に受かる程度の実力は有していることの証明にもなる。更に、向こうの校長に頼んで入試の成績を見せてもらったが、君の成績は上の下だった。」
「それは…初めて知りました。」
「それはそうだろうね。普通は成績など開示しないからね。だが、受け入れることを条件に聞いたら簡単に教えてくれたよ。とまぁ、それは置いておくとして、県内1位の高校でも上の下の成績を取れる実力があるとなれば、うちの学園でも特待生をあげるに足ると判断したのさ。」
確かに、その理屈でも通用するだろう。
実際、自分で言うのもなんだが、頭は悪い方ではない。勉強の重要性について、口を酸っぱくして言ってくれていた両親への感謝が浮かぶ。
「さて、これで疑問は解消されたかな?」
「はい。腹を割って話していただいたこと感謝します。」
「なに。最初は話すつもりは無かったんだがね。君の人柄をこの目で直に見させてもらって、信ずるに値すると判断しただけさ。」
「そんな御大層な人間じゃないですよ…。肝心な時に、大事な人を守れなかった。その程度の人間です…。」
「若い内から余り自分を卑下しない方がいい。過度な謙虚さは、その者の個性を殺す。若者は自信があるくらいでちょうどいい。」
「…そう…ですね…。そう思うことにします…。」
そう心にもないことを述べる。
振り返ってみたが、今日は実りのある会談になった。色々と思惑を知ることも出来て良かった。元々、僕は拾われの身。感謝こそすれど恨む理由などないのだから、学園に対しての文句などありようもない。
「念の為釘を刺しておくが、今回の裏事情はくれぐれもオフレコで頼むよ。」
無言で頷くと、学園長は満足気に微笑んだ。
「じゃあ、説明会はここまでだ。退出してもらって構わない。」
そう言われ、立ち上がり頭を下げる。
「改めて、本日はありがとうございました。そして、これからは学園の生徒としてよろしくお願いします。」
「うむ。これまでも、そして、これからも大変なことばかりだと思うが、是非頑張ってくれたまえ。ようこそ、我が学園へ。」
その言葉を締めに学長室を退出した。
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