他人の未来が見える僕の学園生活

@thanatos2

第1話 プロローグ

(どうしてこうなったのだろうか…。)


そう現実逃避をしてみたものの、目の前の彼女は一向に引く素振りを見せない。それどころか、返答をする気を感じさせない僕に対し、徐々に詰め寄り圧をかけてくる始末。

近づいた彼女からは、女子特有の甘い匂いが漂ってくるが、ここで、あ、いい匂いだ。などと脳天気なことを考えられるほど図太い性格もしていない。


「さぁ、いい加減に教えなさい!」


そんなことを言われても、どう答えたものか上手い言い訳もとい説明が出来る自信もなく、まだ沈黙が続く。そうなると当然、彼女も引く訳もなく時間だけが過ぎていく。何度でも言おう。


(どうしてこうなったのだろうか…。)






穏やかな晴れの日が続く5月の頭、僕こと坂本蒼太さかもとそうたはスマホの案内アプリを頼りに、今日から転入することになった新しい学園への道を歩いていた。


「えぇと、ここでコンビニがあるってことはこの道で合ってるな。」


新入生として入学するには少し遅く、かと言って普通の転校生としてやって来るには時期外れのこの時期に転入することになったのには理由がある。


簡単に言うと、両親が事故で亡くなったのだ。原因は、居眠り運転をして対向車線にはみ出してきたトラックとの正面衝突で、2人とも即死だったそうだ。苦しまなかったのがせめてもの救いかもしれない。


その後は、葬式に相続の手続きにと忙殺されていたおかげか、無様に取り乱すようなことにはならずに済んだ。ただ、諸々の手続きが済んで一段落すると、やはり今まで無意識に堪えていたものが溢れ出したのか、その日は涙が止まらなかった。


その次の日から、僕に変化が訪れる。

朝起きて、沈んだ気持ちを慰めようとテレビを付けると、いつものように朝のニュース番組をちょうど放送していた。しかし、いつもと違う点が1つだけあった。


それは、キャスターの頭上に何やら不思議なが付いていたことである。しかも、1人だけではなく、スタジオの全員、リポーター、お天気お姉さん、果ては取材カメラに映りこんだ通行人一人一人に至るまで、全員にこのマークが付いていたのである。


当然、初めはふざけているのかとも思ったが、通行人にまでこのマークが付いていることが分かった時点でその考えも消えた。となれば、一体何なのか気になったのでボーッと見ていた。

しばらく見ていると、リポーターの1人のマークが転んだ人の姿と5秒という表記に変わった。すると、数秒後リポーターが躓いて転けてしまった。その格好は頭上のマークと同じものだった。


訳も分からずそのまま見続けていたが、同じような現象は何度も起こった。流石にここまで来ると、おふざけの線は完璧に消えた。


「この奇妙なマークはなんなんだ?手の込んだおふざけ…なんかを朝のニュースでやるわけもないし…。とにかく、情報を集めなきゃ。」


そこから観察を続けること暫し、ようやく共通点を見つけることが出来た。


「マークの横の数字は時間か…。まぁ、秒・分・時間で表記されてりゃすぐに分かるよな。んで、肝心のマークは人の行動…かな。流石に考えていることって訳じゃなさそうだしな。」


「仮に考えだとすると、最初のリポーターはわざと転けたことになるからな。いくら何でもわざと転けたい人なんて…居ない…よね…?」


そんな自問自答も混じえながら色々観察を続けた結果、恐らくこのマークはだろうと一応の結論を付けることが出来た。正確には、"これから起こること"の方が近いかもしれないが。


具体的に説明すると、表記された時間が経つと頭上のマークと同じ事態が起こるらしい。色々な人を観察しながら調べた結果だし、恐らく正しいだろう。


「どうしてこんな力が手に入ったのかが分からない…。それに、こんな力を今更手に入れても、父さんも母さんも帰ってこないのに…。」


「むしろ、あの日の朝にこの力があれば…2人が居なくなることも…なかったのに…。」


こんな力を手に入れても、感じるのは無力な自分への絶望ばかり。


(肝心な時に役に立てない自分が情けない。こんな自分だけが生き残ったのは、やはり何かの間違いだったのではないだろうか。)


そんな考えが次々と浮かんできて、心が折れそうになっていった。

そんな僕に、神は更なる試練を与えてきた。


諸々の手続きが終わった僕に対し、間髪入れず降り掛かってきたのが今度は高校の問題だった。


僕が当初入学する予定だった高校は、県内一の進学校で、日本一の大学に毎年何人も合格させるようなレベルなのだ。しかし、先に述べた理由により、入学後の1ヶ月を丸々休んでしまった僕に、高校側は勉強の遅れを理由にやんわりと転校を勧めてきたのだ。


もちろん、県内一の進学校なので授業は初めの月から容赦なく進んではいるだろうが、相応の努力をすれば追いつけないレベルではない。


しかし、今回の事故により、天涯孤独となってしまった僕をどう扱っていいか困っていたという裏の事情も、それとなく透けて見えたので、大人しく従うことに決めた。

ここでゴネても良い方向には向かわないだろうという思いもあった。


確かに高校側に立ってみれば、1ヶ月もの遅れを取っている生徒には厳しく当たらねばならないにも関わらず、事故により世間から同情の目を向けられている僕に下手な扱いをするとバッシングを浴びてしまう。


こんな扱いづらい生徒の面倒は可能ならば見たくないと思ってしまうのも無理はないだろう。

とは言え、退学させてしまえば非難は免れないが、自分から引いてくれれば話は別であるので、今回の提案をしたのだろう。




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