第2話 あなたの伴侶なんてこちらからお断りです
医師を送ってくる、とメイドは一度部屋を出ていく。もう一度帰ってきたときは、かなり息が切れていた。
「お待たせいたしました。
もう少ししましたら、王妃様とイーサンテリア殿下がいらっしゃいます」
はぁ、はぁ、と息遣いが聞こえてきそう。そのくらい急いでいたということなのだろうけれど。うん、まあ深くは突っ込まない。今はそれよりも。
「あの、ここは一体どこなの?
それに私の荷物とか、服とか返してほしいの」
「あ、えっと、ここはグルフレティア王国です。
お召し物はただいま洗濯を行っておりますが、聖女様のお荷物は特に存じ上げません。
……まさかあの平民」
ちょ、ちょ! なんか最後の一言だけ妙に殺意がこもっていたんですけど!? 怖い怖い。大事なものではあるけれど、人の命よりも、ではない気がする。でも、平民ってあの人たちか……。じゃなくて!
「荷物、もしかしたら持っていなかったかもしれません。
それよりも、服は洗濯が終ったら返して」
「もちろんでございます」
それで、えっとここはグルフレティア王国、って言っていたわよね? あまり世界地図に詳しくないから確信はないけれど、やっぱり聞いたことがない。じゃあ、やっぱり……。自分から血の気が引いていくのがわかる。
「聖女様……?」
「その、聖女様っていうのやめてよ。
私には美琴っていう名前があるのに……」
「美琴様、ですか?」
「うん」
そう、私は聖女様なんてものじゃなくて、美琴。ただの女子高生なのよ……。
「あ……!
いけない、すぐにお着替えを!
お二人がいらっしゃってしまいます」
き、着替え? と混乱しているうちに、肌触りがいい服を脱がされる。ちょ、ちょっといきなり何!? という非難の声も完全に無視。先ほどまでのこちらを伺うような視線が嘘だったかのように、てきぱきと着替えを進めていく。いや、どうしてこうも面倒なの? それに重い。
……でも、少しあこがれたことがあるドレスだ。私、今ドレス着ている。パパっと着替えさせられたこともあって、簡易的なものなのかもしれないけれど。あはは、やっぱりあまり似合っていない気がする。それにメイクもささっと。
メイドが一息ついたとき、また扉がノックされる音が聞こえた。今度は誰? さっき言っていた王妃様となんとか様?
「王妃様と第2王子、イーサンテリア殿下のお越しです」
「はい!
準備は整っております」
って、あなたが答えるの? 誰かが来たことを告げた人も、メイドの言葉を聞くとさっさと扉の向こうに行ってしまったし。え、これ本当に今から会うの? いいの、そんなに簡単にあってしまって。
なんだか無駄に心拍数が上がる。状況は全く理解できていなくても、体は勝手に緊張してしまうらしい。そして、ようやくその人たちが顔を出した。
スラっとして美しい、という言葉がよくにあう女性、おそらく王妃様とふくよかで見るからに頭が弱そうな男性、おそらく殿下、が二人で入ってくる。じっと、相手の出方を伺う。
「母上、こいつが聖女様なの?」
「ええ、そうですよ。
あなたの伴侶となる人」
え……?
「えー、僕ディラク公爵のとこの子がいい」
「あら、どちらももらえばいいのよ。
あなたは未来の王なのだから」
……は? いや、あなたと結婚とか余裕でこちらからお断りなのですが。なんで堂々と二股宣言しているのですか? どうぞそちらのご令嬢と結婚してください。だからそのなめるような不快すぎる視線をこちらに向けないで。
「ふん!
まあ、いい。
おい、僕と結婚できるんだ。
それを死ぬまで感謝しろ」
……は? あ、また言っちゃった。いや、でも仕方ないよね。こいつ、殴ってやろうか、それともやめてあげようか。
でも、さすがに一国の王子を殴るのはまずいか。これ以上厄介なことになっても嫌だし。しかたない、我慢してやろう。
「あの、私ここがどこかもわかっていないのです。
それなのに結婚とか言われても困ります」
「ふふ、あなたはただこの子の伴侶となって、幸せにしてくれればいいのよ。
異世界からの聖女、あなたにはその力があるのでしょう?」
「そんな力ないです!
私、そもそも聖女なんかじゃないし。
何かと勘違いしているんです」
「……無礼極まりない子ね。
お前、きちんと教育なさい。
今日は許してあげるわ」
「も、申し訳ございません」
はぁ!? 急に押しかけておいてそれ? こんなのが王妃って、国のレベルの低さがうかがえるわね。それにそこのぼんくら王子は興味なさげだし。いや、いやな視線は向けてきているわね。
文句を言うか、無視するか。でも、文句を言ったらまた礼儀がどうとか言われるのよね、きっと。仕方がないから、相手から目をそらすだけで済ませることにした。私が一向に自分に興味を持たないとわかったのか、この王子はふいに王妃に顔を向ける。そして一言。
「母上、お腹がすいた。
もう戻っていい」
ほう。この状況でそんなことを言うんですね。いや、うん、わかっていた。この人そういう感じだってわかっていたから、今更何も言わないよ。背筋がぞっとしたのは置いておこう。
「ああ、かわいそうに。
ええ、もう戻りましょう。
もう少し、きちんと教育を終えたら、また会ってあげます」
え、もう二度と会いたくないので、それで大丈夫です。それになぜか教育が洗脳に聞こえたのよね……。結局、そのまま二人は去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます