いきなり異世界に落とされて、いきなり聖女と呼ばれても…
mio
第1話 落とし穴は突然に
「美琴、お弁当!」
「あ、ありがとう、お母さん。
行ってきます!」
いつも通りの朝、今日もお母さんのおいしいお弁当を持って高校へと向かう。本当にここから自転車で行けるところを選んで正解! おかげでぎりぎりまで寝ていられるものね。がちゃ、とドアを開ける。そして、踏み出した一歩。
ストン、と体が落下していった。
え、ここに穴なんてなかったはず。そう思いながらも、どんどん家が遠くなっていった。
落ちて、落ちて、落ちて……。やっと、足が何かに触れた。落ちている間に擦りむいたのか、あちこち痛い。それにしても。
「ここ、は?」
きょろきょろと周りを見渡すも、見覚えがない部屋。え、ここどこ? 誰かの家、みたいだけれど。チクチクと痛いベッド、らしきものはかなり寝心地が悪そう。それに布団もないみたい。うう、においもひどい……。
って、学校! 遅刻しちゃう! ど、どこに行けばいいの……。
「おい、サシャ!
いつまで寝こけてんだよ!」
どうしよう、そう戸惑っているうちに乱暴に幕がまくられる。だ、誰……? 知らない人がいきなり入ってきたんだけど。どうしたら、と固まっていると、相手も私を見て固まる。そのまま長く感じる時間が過ぎていく。うう、何この時間。
「た、大変だ……!
おい、こっちこい!」
「なんだっていうのよ!
全くもう、こっちは忙しいってのに」
ぶつぶつといいながら、ふくよかな女性が入ってきた。この人もだれぇ……。もう泣きそう。というかここどこよぉ。
「って、誰よこれ」
「きっと聖女様、聖女様だ!」
「え!?
ああ、でもこの黒髪、確かになかなかお目にかかれない!
……って、サシャは?」
「サシャ?
この人の世界にでも行ったんじゃないか?
まあいいじゃないか、あんな役立たずいなくたって。
それよりも、こいつを王宮に連れて行けば、いい金になるんじゃないか?」
「ああ、いい案だ」
にやり、と笑う人達。ぞくり、と背筋に何かが走る。この人たちはやばい。逃げない、と。
「どーこ行くんだい?
おら、お前はこっちだよ」
い、痛い! いきなり髪の毛引っ張らないで! うう、本当にこの人たちなんの……。どうして、こんなに痛いの。夢だって、疑いたかったのに。あの時、頭をぶつけて、それで夢を見ているんだって。でも、痛い。これ、夢じゃないの?
「お、おとなしくなった」
「よし、今のうちに連れて行くぞ」
「や、やめて!」
ひとまず、この人たちに連れて行かれるのはまずい、そんな気がする。ばたばたと暴れてみるも、離してくれない。どころか、より強くつかまれる。どうしたらこいつらから逃げられるの!?
「っち!
おい、お前が悪いんだからな!」
何が、そう思うとすぐにほほに強烈な痛み、バシン! という音がなる。たたか、れた? 今もじんじんと頬が痛む。ああ、もう本当に。一体何なの……。
***********
ふわふわ、心地いい。何か、柔らかくて暖かいものに包まれている感覚……。んん、まだ寝ていたい。この心地いいものに、くるまっていたい。でも、私何か忘れている気が、する。そう、何か痛かったやつ。
はっ!
また、景色が変わっている。今度はどこなのよ。なんだか、さっきのと真逆で、今度は高級な調度品ばかりが並んでいる。このベッドもふかふか……。これも夢みたいだけれど、さっきのも夢、だったらいいのに。でも、右頬の痛みがさっきのが夢じゃないと訴えかけてくる。
ああ、もう本当になんなのだろう。私、学校行かなくちゃいけないのに。今度は一体何よ。そっと右頬に手を当ててみる、すると何か布が当てられている。手当、してくれたのかな。ここの人はいい人なのかな。
ぼんやりとそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。誰かが、来た? そちらを見るも、声を出すのも億劫。どうせ私の話を聞かない人でしょう。そう思って特に反応を返さないでいると、がちゃ、という音とともに入ってくる。
白と黒のシンプルな服、シンプルな作りながらも所々にあしらわれたフリルも、ふわりと広がるスカートもかなりかわいい。こういう服、すごくあこがれるんだけれど、さすがに着る機会ないんだよね。あ、目が合った。
「お、お目覚めでしたか、聖女様!」
……聖女様? それって、誰のこと?
「今医師を呼んでまいります!」
ばたばた、と思ったら静かに去っていく女性。メイド、っていうんだっけ。一体何が、と思いながらもひとまず体をおこす。あ、あそこに窓がある。すごい、カーペットもふかふかだ。
ひょこ、と窓を覗いてみる。……何これ。うん、絶対に日本じゃない。そもそもここがどこかわからないけれど、かなり高いところにあるみたい? 町が一望できる。すごくいい眺め、なんだけれど。ビル、とか一つもないし、屋根もカラフル。そこの間の道を大勢の人が行き来している。
服装はあの最悪な記憶を植え付けてくれた人達のようなものもあれば、もう少しひらひらとしたものもある。洋服ではあるんだけれど、明らかに日本とかで着られるものではない。ここは、異世界……?
でも言葉は通じているから、異国? いや、異国でもおかしいよね。日本語は日本の言語だから。じゃあ、ここはやっぱり異世界、なのかな?
どうしよう、どうしたら帰れるんだろう、そればかりが頭を埋め尽くす。やばい、泣きそう。そうだ、私の荷物! も、もしかしたら、スマホが入っているかもしれないよね。それで、お母さんに連絡をとって、迎えに来てもらおう。うん、それがいい。
でも、どこにあるの? 私のもの何もない。今気が付いたけれど、服だって着替えさせられている。道理で着心地がいいと思った。うわ、この生地すべすべ、じゃなくて!
……私の制服、どこ行ったの?
大混乱しているとまたノックの音。もう、今度は何! 勝手に入ってきたらいいでしょう!? どうせ入ってくるんだから。むぅ、とやさぐれた気持ちで枕に顔を突っ込む。外見てたってこと、何となく知られたくない。
「失礼いたします、聖女様。
医師をお呼びしたのですが……」
ほら、やっぱり。少しこちらを伺うようではあるけれど、結局入ってくるんじゃない。それにしても、私どこも悪くないんだけれど。聖女様……? と伺うような声をかけるメイド。うう、それすらもうっとおしく感じる。
「聖女様?
お加減が悪いのですか?」
とうとうこちらにやってきて、体を起こされる。熱はないですねって、そんなのないわよ。
「聖女様?」
「私、聖女なんかじゃないわ。
体調は大丈夫。
頬が痛むくらい」
「何をおっしゃいますか。
あなた様は異世界からやってこられた方なのでしょう?
それよりもどこも悪くないようで安心いたしました」
「ええ、熱等も大丈夫そうですね。
他も……健康なようで安心いたしました」
さっと診察を終えると、医師は一礼をして去っていく。そしてメイドはというと、王妃を呼んできます、とまた去っていく。……王妃? 私としてはこの状況の説明をしてほしいのですが!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます