Case2 返事

 美羽はベッドに寝っ転がり、スマホでメールを送っていた。

 相手はもちろん、恋人の克也。


『ねーねー、朝一緒に学校いこ?』


 その文字を自分で打ってから、美羽はニヤけた。

 明日自分たちが仲良く登校する風景を思い浮かべたからだ。


「返信まだかな……」


 送信から約十秒後。

 即レスがないことに少し不安を覚え始める美羽。


(どうしたんだろう……大丈夫かな……?)


 もしかしたら、今大変な状況に巻き込まれちゃってるとか……?


 そんなことを考え始めると、一気に不安が倍増した。


 大丈夫かなぁ……


 とうとう、美羽は克也に電話をかけた。


 プルルルル、プルルルル


 ……中々出てくれない。


 何度も何度もかけ直してみるが、一回も出ない。


(電話にも出れない状況なのかな?)


 美羽の不安は最高潮にまで達し、じっとしていられなくなった。


(……よし、今から克也君の家に行こう)


 美羽はスマホを強く握りしめて決断した。

 そうと決まれば、すぐに出発だ。


 美羽はそのまま学校に行ける用意をしながら、親に向けて書き置きを残す。


『克也君が心配なので、克也君の家まで行ってきます 美羽』


 そして、家族を起こさないようにそぉーっと家を出る。


 美羽と克也の家はそれほど遠い訳ではなく、歩けば十五分ほどだ。

 前に一度、親に引っ越しを頼んだことがある。理由はもちろん、克也との物理的距離をもっと縮めたかったから。当然ながら却下されたが。


(今すぐ行くからねっ!)


 美羽は小走りになって、克也の家に向かったのだった。




 ピンボーン、という音と共に克也は目が覚めた。


 寝ぼけながらも、枕元の時計に目をやれば、現在時刻が分かる。


 午前四時。


(……誰だこんな時間に)


 と、そこまで考えて、心当たりが一人しかいないことに気が付く。


 親がまだ寝ているのが物音がしないことから分かり、少しほっとしながらも克也は溜め息をついた。


 まだ寝ていたいと主張する身体を起こして、克也は玄関に向かう。


 鍵を開ければ、そこには予想通りの人が。


 外に出て、克也はそっとドアを閉めてから声をかける。


「どうしたんだ、美羽」

「……よ、よかったぁぁぁっ! 克也君無事だったぁぁっ!」


 美羽は目に涙を浮かべながら、克也に飛びついた。


(……ドアを閉めていて正解だったな)


 わんわんと泣く美羽は、もはや近所迷惑だ。

 ドアを開けていれば、家の中にその大きな声が大きな声のまま聞こえていたことだろう。

 親を起こすのは忍びない。


「落ち着け、美羽。どうどう」


 美羽は抱きついたまま大声で泣いており、克也が落ち着かせようにも中々収まらない。


 何とかして五分程で泣き止ませることに成功し、克也は美羽に質問する。


「……んで、今日はどうした? 悪夢でも見たのか?」

「克也君にメール送っても中々返事来なかったし、電話にも出なかったから……」


 不安そうな表情でこちらを見上げてくる美羽。


(……か、可愛い……!)


 だが克也はその気持ちを頑張って隠し、すました顔に戻る。


「……今何時だと思ってんだ。まだ朝の四時だぞ。普通寝てるっての」

「ご、ごめん……確かに、そうだよね……」


 申し訳なさそうな顔を美羽がするものだから、克也の方も何故か申し訳なくなる。


「で、美羽は何が聞きたかったんだ? 家まで来るくらいだし、何か用事でもあったんじゃないか?」

「あ、それはその……きょ、今日、一緒に登校できないかなって……」


 ………………。


 思わず言葉を失った。

 それだけのことで?


 だが、そんなことは一切顔に出さない。

 何故なら、嬉しかったから。

 可愛い彼女が自分のことをここまで慕ってくれているのに、喜ばない男子はいないだろう。もしいるのならばそいつは男子ではない、などと考える克也だったが、そこであることに気付く。


「登校することくらい、全然構わない。むしろ……」

「むしろ?」

「いや、何でもないぞ。……そんなことより」


 一度言葉を区切る克也。

 

「―――今日は、土曜日だ」


 途端、美羽は崩れ落ちた。


「まあ、その、なんだ……俺の部屋、来るか」


 美羽は崩れ落ちたままながらも、強く頷いたのだった。




 ……ちなみに、部屋に戻って美羽からの電話の量に克也が驚いたのは、また別の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る